第四章 恋と戦い

第120話 守るべき者

《sideダン》


 黒龍との戦いの決着が着く時……俺は意識を取り戻していた。目を開いた俺が見たのは、リンシャンとリュークがキスをしているシーンだった。


 キスをした二人から大きな光が溢れ出して黒龍を倒した。


 その後すぐに意識を失って…… それが夢なのか、幻なのか…… いや、現実だってわかっている。


 あの光景があったから、俺は生きていられたんだ。

 パーティーの日、リンシャンはリュークの横に立つことを選んだ。いくら鈍感な俺にだって、理解することが出来た。


 リンシャンの好きな奴はリュークだ。


 マーシャル家の敵であるデスクストスを、リンシャンは好きになった。


 だから、ずっと悩んでいたんだ。


 俺はそれに気付かなくて……


「ハァ、俺はダメな奴だな」


 王都に戻ってきた俺は普通の学園生活に戻っていた。

 アーサー師匠に指導を受け、シーラス先生の魔法講義を受ける。聖剣を手に入れ、レベルも上がり、アーサー師匠と打ち合えるようになった。

 王都周辺の魔物なら、負ける気がしないぐらいに強くなっている。


「元気ないっすね。先輩」

「えっ?」


 俺が一人で訓練所で休憩していると、突然話しかけられた。視線を向けた先には目元が隠れる程度の短い髪に、胸部の大きさがアンバランスな女子が俺を見ていた。


「だっ、誰だ?」

「ダン先輩っすよね?自分は報道部のハヤセっす」

「ハヤセ?」

「そうっす。学園在学中にS級冒険者になったダン先輩に取材をしたいっす」


 迷宮都市ゴルゴンで50階層のフロアボスを倒したことで、冒険者ギルドから得られたS級の称号、俺はそれを受けたことを後悔し始めていた。


 学園に戻ってくると、平民最年少S級冒険者という称号に群がるやつが増えた。

 男は決闘を申し込んできて、女は気持ち悪く言い寄ってきた。今まで、俺のことなんて知らなかった同級生や先輩達にうんざりする日々だった。


「俺は……」

「あっ、別に取材と言っても色仕掛けも、決闘も申し込まないので安心してくださいっす。

 自分と同じマーシャル領出身のダン先輩が活躍している姿を取材したいだけっす」

「マーシャル領?」

「はいっす。属性魔法が使えたので、アレシダス王立学園に入学することが出来たっす。

 まぁ魔法以外は全然ダメで、普通の5クラスっす。

 ダン先輩のことはマーシャル領でも有名っす」


 同郷の後輩に声をかけられて、無碍にしたくない。

 ショートヘアーなのに前髪が妙に長いため、目元が隠れて見えていなかったが、上目使いに覗き込まれた瞳は綺麗な顔をしていた。


「べっ、別に、俺なんて」


 ちょっとだけ嬉しい。


「そんなことないっす。ダン先輩は凄いっす


 ・平民なのに0クラス入学。

 ・剣帝アーサーの弟子になる。

 ・深淵の魔女の弟子に認められる。

 ・森ダンジョンのボスをチームで撃破。

 ・剣帝杯では、あのリューク・ヒュガロ・デスクストス様と同率3位に入賞。


 この度、迷宮都市ゴルゴンにて、50階層のフロアボスを倒してS級冒険者へ。十分な功績だと思うっす」


 俺のこれまでが…… 


 誰かに見られていた……


 認めてもらえていた……


 それは今まで感じたことのない感情が溢れてきて……


 自然に…… 涙が流れた。


「うっぅぅぅ」

「ダン先輩!どうしたっすか?」


 後輩の前で泣くなんて情けない


「ダン先輩にも色々あるんっすね」

「まぁな」


 しばらく泣いていた俺を、ハヤセは他の奴から隠すように待っていてくれた。


「実は、自分は先輩にマーシャル領で会ったことがあるっす」

「えっ?」

「たぶん、覚えていないって思ったす。だから、言わなかったっす」

「そうか、すまない。記憶にない」

「それはそうっす。自分は先輩に命を救われて、先輩の力になりたいって思って学園に来たっす」


 俺が人を助けたことは何度かある。

 マーシャル領では、訓練と魔物を倒す日々だった。

 街に現われる魔物は、王都と強さの差はない。

 まだ幼かった俺は騎士について魔物と戦って村人を助けたことがある。

 もしかしたら、そのときに会っていたのかも知れない。


「ありがとうな。その言葉だけでも俺は救われた気がするよ」

「そっ、そんなこと言わないでほしいっす。自分はダン先輩のためなら何でもしてあげるっす」

「えっ?おいおい、自分のことを大切にしろよ。ハヤセは可愛いと思うぞ」


 俺は可愛い後輩の頭をポンポンと撫でてやる。

 弟とか、妹がいればこんな感じなんだろうな。

 初めて出来た可愛い後輩だからな。

 大切にしようと思う。


「ずっ、ズルいっす」


 ハヤセから取材を受けることにした。

 自分なりに考えていたことや、そのときの思いなど、誰にも話したことが無いことだったから聞いて貰って楽しかった。


「俺の話ばっかりで本当に大丈夫か?」

「取材っすから、ダン先輩の話が聞きたいんすよ」

「そうか、俺はこういうの初めてだから照れるな」

「ダン先輩は、これからバンバン活躍していくっす。だから慣れておいた方がいいっす」

「そうか?」

「はいっす。絶対っす」

「ありがとう。そんなこと言ってくれるのはハヤセだけだよ」


 素直に礼が言えるのも久しぶりな気がする。

 ハヤセといるのはラクでいいな。


「本気っす。カッコイイと思うっす」


 小さな声でハヤセが何か言ったが俺には聞こえなかった。


 ただ、久しぶりに気持ちが晴れやかになった。


 それは俺の心の中にあった、わだかまりがすっと取り除かれていったような気がした。

 聖剣も気持ちの変化に応えてくれている気がする。


「少し見ていてくれるか?」

「えっ?」


 今なら、この聖剣を使える気がした。


 リュークは言った。守りたい奴を見つけろと……


 ハヤセを守ってやりたい。この可愛い後輩を……


 聖剣は光を発する。


 全身に闘気を纏わせ、増加で光の強さを「ブースト」させる。

 目を開けた俺の前にはリンシャンとリュークが作り出した光の半分ほどの光を発する聖剣が目に入った。


「俺にも出来た!飛んでいけ!」


 光の刃は空へと打ち上げられる。


 雲を切り裂く光の刃は、今までのどんな攻撃よりも威力があって、俺の心のモヤモヤを晴らしてくれるような気がした。


「凄いっす!!!さすがはS級冒険者っす!あんなの見たことないっす。今の技はなんて言うんすか?」


 技名か……


「まだ、これは完成してないんだ。だから、名前はまだない」

「そうっすか。名前が決まったら是非教えてほしいっす!ダン先輩の必殺技になるって、思うっす!」

「ああ。そのときは伝えるよ。ありがとう、ハヤセ。

 君のおかげで俺は前に進める答えをみつけられた」

「えっ!自分っすか?」

「ああ。お前を守ってやりたいって思ったら、あの力が湧いてきた。だから、ありがとう」

「ふぇ!自分を守ってやりたいって!ダン先輩!!タラシっすね」

「バカやろ。そういう意味じゃねぇよ」


 こんな風にバカな話が出来るのはいつぶりだろうか?リンシャンとも昔は……


 いや、もうやめよう。


 リンシャンは前に進んだ。


 俺も前に進もう……


 まだ、俺にはマーシャル領の魔物を取り除くって目標があるんだ。それは母さんやハヤセのためにもなることだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 第三章開始です。


 気付けば初投稿から本日で丁度二ヶ月が経ちました。

 たくさんの方に読んで頂きここまで来れました!

 ありがとうございます!!!


 どうぞこれからもよろしくお願いします(>_<)

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