第117話 50階層のフロアボス 後編

 最悪だ。


 50階層のフロアボスはゲームでも立身出世パートで、ダンの聖剣解放後に来なければ倒すことができない。


 単純なレベルだけなら、黒龍はレベル100を超えている。このフロアには入るつもりはなかった。


 リベラたちにも40階層を走破すれば、そこで今回はレベル上げを終えるように伝えていた。

 レベルは50に達して十分な強さを手に入れている。

 これ以上は、他の能力とのバランスを考えて、個々の能力を上げる方へシフトを変更した方がいいからだ。


 ただ、リンシャンやエリーナが頑張る姿を見ていて欲が出た。自分を呪ってやりたい。

 まさか、ダンが指示にない行動に出るなんて考えてもいなかった。


 ボクとダンがフロアボスの部屋に入ると、強制的に扉が閉まり始める。


 逃げることも許されない状況に追い込まれて、部屋全体に青い松明が灯り始める。


 出現したフロアボスは黒龍だ。古龍に分類される。巨大な龍が天井をその体で埋め尽くす。


「……化け物」


 ダンが声を発すると黒龍の全身が光り出して、ブレスが解き放たれる。


「……無理だ」


《不屈》はダンの心が折れなければ、どんな攻撃にも耐えられる。だが、もしも心が折れたなら何の意味も持たない。


「《怠惰》よ」


 ボクは全員を守るために魔力を全開にする。


 チートかよ! 攻撃が重い!


 何とか一撃を防ぐことができた。


「ぐっ!」

「リューク?」


 もう、何度も耐えることはできない。力を押し込まれた。


「バカが!勝手に行動するなんて死にたいのか?!」

「おっ、俺は……」

「ダン、ここはお前の正念場だ。お前の聖剣は、あの龍を倒すことが出来るキーアイテムだ。

 お前が真なる力を使えたなら黒龍を倒せる!お前の親密度を見せてみろ!」


 もうダンに賭けるしかない。ダンが握る聖剣でしか、この黒龍は倒せないはずだから……


「姫様…… いや、リンシャン!俺に力を貸してくれ!」

「えっ、あっ、ああ。私でいいのか?」

「ああ。リンシャンしかいない。俺の力を解放するために」

「わかった。何をすればいいんだ?」


 リンシャンなのか?


 確かに、ボクがチームに参加しなかったのは、ダンがヒロインの誰かと親密度を高める時間を与えるためだった。


 エリーナは、ボクに会いにくるようになった。

 リンシャンは攻略前までは仲良くなっていたと思っていたけど、一度も会いに来てはくれなかった。


 ボクの元に来いと伝えたはずなのに来なかった……


 そうか、ダンと……


 固まるダンに、ボクはリンシャンへの思いを諦めて呪文を伝える。


「言え、ダン!」


 ダンがボクの動きを真似て声を高らかに唱える。


『愛しき者よ。我に力を授け賜え。さすれば我は最強の守護者とならん』


 聖剣に光り出して、リンシャンとダンの親密度によって力が解放される………


「えっ?」


 聖剣は光り出した……


 だけど、あまりにも……


「これで黒龍を倒せる!凄い力だ!!」


 ダンが剣を振るう。


 光は剣から放たれて、黒龍へ向かって飛んでいく。


 先ほどよりも自信に満ち溢れたダンに黒龍がブレスで応戦する。


「うわあぁぁぁっぁっぁぁぁ!!!」


 剣から発せられた光は一瞬で消された。


 ダンがブレスに飲み込まれる。


《不屈》が発動しているから、死んではいない。


 死んではいないが……


「思っていたよりも光が小さい?」


 チラリとリンシャンを見れば、視線を逸らされた。

 原因は二人の親密度にあるようだ。


「ぐっ、どうして!」


 あのブレスを受けても生きていられるダン。

 さすがはゲーム主人公と言わざるを得ない。


「すまない。回復魔法をかけてくれ。動けないんだ」


 流石に黒龍のブレスを受けて、タダではすまなかったようだ。


「アンナ!ダンを頼む!」

「はっ!」

「バル、解析を始めろ」


 座り込んでいたアンナが、ボクの声で素早くダンを回収する。聖剣が地面に突き刺さり、バルへ聖剣の能力を解析させる。


 ダンがアンナに連れて行かれる。足を持って引き摺られている。ダンの扱いが雑だ。頭打って意識失ってるぞ。アンナ、もう少し優しくしてやってくれ。


「リンシャン!エリーナ!」

「ああ」

「はい!」


 二人がボクに呼ばれて側に近づいてくる。


「今からするのは、賭けだ。成功する確率は極めて低い」

「リュークがするなら、全て信じている」

「私も、リュークについて行きますわ!」


 二人から得られた信頼を確かめて、ボクはダンが落とした聖剣を手に取った。

 バルから得られた情報は頭の中へ入っている。


「リンシャン」


 ボクはリンシャンを抱き寄せてキスをした。


「あっ!」


 少し強引な方法だが、リンシャンは抵抗しないでボクを素直に受け入れた。


「エリーナ」

「えっえっえっ!」


 戸惑うエリーナを抱き寄せてキスをする。

 抵抗はなく、すんなりと受け入れる。


 二人とキスをするのは不徳かもしれない。

 だが、ここは大人向けゲームの世界なんだ。

 これぐらいしないと気持ちを確かめられない。


「嫌か?」


 した後に問うのはズルイと思う。


「いいえ!嫌ではありませんわ」


 エリーナは瞳を潤ませてボクを受け入れた。

 リンシャンもボクを見ている。


「二人とも、ボクに力を貸してくれ」


 聖剣がダン専用武器であることはわかっている。

 だけど、この場を突破するためには聖剣の力が必要なんだ。


 バルの解析によれば、聖剣は力を集める鍵だ。


 ダンだから集めた力を放つことができる。


 なら……


『愛しき者よ。我に力を授け賜え。さすれば我は最強の征服者とならん』


 聖剣が、ボクの呪文に答えるように、二人から莫大な力が流れ込んでくる。

 握っているのが辛くなるほど、力の放流が巻き起こり、こちらの様子に気づいた黒龍がブレスを放つ準備に入る。


「イケる!二人とも、ボクを支えてくれるか?」

「私はお前を支えると誓っただろ」

「もちろんです!全てを委ねます」


 二人の手がボクの背中を支えてくれる。


大罪魔法怠惰の魔力よ。限界を越えさせろ!!!」


 聖剣から発せられる力の集約は、放たれることなく暴れていた。


 その力に《怠惰》の魔力が巻き付いて侵食していく。


「これでダメなら、もう諦める!ボクは《怠惰》なんだ!働かせるなよ黒龍。お前はもっと《怠惰》になれよ」


 黒龍がブレスを放って、ボクから光が刃になって飛び立っていく。


 攻撃がぶつかり合い……


 光の刃がブレスを切り裂いた。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 黒龍の断末魔の叫びがフロア全体に響いて、黒龍は消え失せた。


 ボクは全ての力を使い果たして倒れる寸前、柔らかくて良い匂いに包まれた。



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 あとがき


 どうも作者のイコです。


 第二章も、残り二話のエンディグで終了です。

 また第二章の登場人物紹介を挟んで、第三章へ入って行きます。


 この度、フォロワー数が2万人に超えました!!!

 たくさんの方に読んでいただけて大変嬉しく思っております(๑>◡<๑)

 ありがとうござます(๑>◡<๑)


 また、レビュー☆が、あと少しで10000に到達します。

 もし、まだレビュー☆を押されていない方で、押しても良いよって方が居れば是非最後の一押しを頂ければ嬉しいです!!!


 ♡いいね。コメント、誤字脱字報告ありがとうございます。作者のモチベーションアップになっております。

 本当に感謝しております。ありがとうございます٩( ᐛ )و


 これからも楽しい話が書けるように頑張りますので、どうぞお付き合い頂ければ嬉しく思いますので、よろしくお願いします(๑>◡<๑)

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