第116話 50階層のフロアボス 前編
《sideダン》
41階層からリュークがチームに合流して一緒に攻略を開始した。ドラゴンは魔物の中でもトップクラスにヤバい魔物だ。マーシャル領でも見たことがない。
現われたドラゴンパピーは、ドラゴンの中では小さい方だが、攻撃力や防御力は他の魔物よりも遙かに強くて防戦一方になってしまう。
俺の属性魔法、ブーストを使って全員を強化しても倒せなかった。
だが、リュークが指示を出すと三人の動きが変わった。
アンナさんは俊敏な動きで、ドラゴンパピーを翻弄して注意を引きつけ。
エリーナが、氷の属性魔法で辺りを凍らせて温度を下げて、ドラゴンパピーの動きが鈍くなった。
身体が冷えたドラゴンパピーの目を狙って、姫様が炎を纏わせた剣を突き刺せば、ドラゴンパピーは呆気なく倒せてしまった。
ドラゴンから得られる経験値は今までよりも多くて、レベル40を越えて上がり難くなっていたレベルが一気に上昇した。
「お前は力の使い方を間違えているぞ。それはただ耐えるだけの属性魔法じゃない」
「えっ?」
「その聖剣に何を願って、どんな力を宿したのか、もう一度考えてみろ」
リュークは俺にもアドバイスをくれた。
だけど、俺は自分が何を間違っているのかわからない。
聖剣に願ったこと?
・貴様が心から大切な者を守る時
・相手と心を通わせられたなら真なる力を与えよう
頭に浮かんできた聖剣の言葉を思い出す。
俺は、大切なチームを守るためにドラゴンの前に出た。
《不屈》は俺に力を与えて、俺の心が折れない限り、倒れないようにしてくれた。
『相手と心を通わせられたなら真なる力を与えよう』
きっと、リュークが言いたいのは真なる力だろう。
ふと、ドラゴンパピーを倒して喜ぶ姫様を見る。
相手と心を通わせると言われて、一番最初に顔が浮かぶのは姫様だ。
子供の頃から気心が知れていて、お互いの事が分かっている相手。
そう思う相手は、姫様しかいない。
真なる力を使うために、四人での連携を考えつつも、姫様と心を通わせるためにアイコンタクトを送り続けた。
心を通わせるためには口で言ったらダメな気がして、アイコンタクトにしているが、伝わっているのかわからない。
「ダン!行ったぞ!」
それでも姫様を見ていると、連携は上手く言っている気がする。ドラゴンパピーなら四人で倒せるようになり、レベルが50を越えた。
冒険者ならA級に分類されるレベルに到達したことになる。
人のレベルは99でカンストしてしまう。
だが、レベルでは計れない強さが存在する。
迷宮都市ゴルゴンの主であるゴードン侯爵や、剣帝アーサー師匠はレベル99に到達しているそうだ。
同じ99でも、戦えばどちらが勝つのかなんてわからない。それに魔物の中にはレベル99を越えている奴もいるというから、レベルだけでは計れない何かがきっと世界には有るんだ。
「おう!」
俺は45階層のフロストドラゴンを下段からの斬り上げて倒した。
ドラゴンの弱点である、目玉、口内、腹を攻撃する。
目玉や口内からは脳へダメージを与え、腹は心臓を狙う。
ドラゴンの弱点は人と同じなので、弱点の部分は薄くなっていることをリュークが教えてくれた。
《不屈》で攻撃に耐えた俺は、《増加》で攻撃力を上げて一撃必殺を狙う。
そうすることでドラゴンを倒すことが出来るようになった。
レベルが上がれば身体能力も向上するので、ドラゴンを相手にしても押し負けない様になってきた。
「やっと辿り着いたんだな。フロアボスへ」
リベラチームは40階層のフロアボスを倒したところで、リタイアを表明した。
俺たちのチームはアレシダス王立学園始まって以来の快挙を達成しようとしていた。
残り一週間に差し迫った修学旅行、残されたチャンスは限られている。
もしも、ここでフロアボスを倒せれば、俺たちは冒険者のSランク認定を無条件で受けられる。
それは、ゴードン侯爵が言っていた宝物を得られるように思えた。
リュークは、二ヶ月ほどダンジョン攻略に参加していなかったから、何かをしていたのだろう。
リュークなりの宝物を見つけたから参加をしたのかな?また、俺はリュークに遅れてしまっている。
だけど、姫様と心を通わせて真なる力を手に入れれば、50階層のフロアボスを倒せるはずだ。
そうしたら、俺はリュークに肩を並べられる気がする。
「いくぞ!」
休息を取るチームを置いて、俺はフロアボスの扉を開いた。巨大な扉は、俺を招き入れるように重さを感じなかった。大きな部屋へと招き入れられる。
「ダン、勝手に進むな!!!」
珍しくリュークが制止を口する。
今の俺なら《不屈》があるから大抵のことは大丈夫だ。
リューク、俺を信じてくれ。
「大丈夫だ。どんな相手でも俺なら耐えられる!」
「バカが!」
リュークが吐き捨てながらも俺を引き戻そうと肩を掴む。だが、リュークが戻るよりも、軽かった扉が自動的に閉じる方が早かった。
「来るな!」
三人も急いで飛び込んできたが、リュークはそれを止めようとした。
「クソッ!」
リュークが扉を開こうと力を入れるが、扉は開かなくなっていた。
閉じた部屋の中は青い炎の松明が左右から火を灯し始めて、天井に浮かぶ黒い龍を浮かび上がらせる。
「デカい!!!」
俺の叫びに蛇のように天井全体に身体を張り巡らせた黒龍の瞳がこちらを見る。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
それは一鳴きで絶望を知らせる。
レベルが50を越えて60近くまで上昇しているはずなのに、レベル差によって生まれる感情と同じ、恐怖を感じていた。
「あっ、あれは……そんな!」
「ウソだ!黒龍はドラゴン最強と言われる色ではないか!」
エリーナやリンシャンから絶望の声が上がる。
アンナさんは恐怖で座り込んでいた。
「最強?」
心が折れなければ、どんな攻撃も耐えられるはずだ。
心が折れなければ……
「……化け物」
俺が声を発すると黒龍の全身が光り出して、ブレスが解き放たれる。
それは今まで戦ってきた成龍たちが赤子に思えるほど威力が計りしれない。部屋全体が熱せられていく。
「……無理だ」
俺は一瞬で悟った……
死を……
「《怠惰》よ」
俺が絶望する中で……
リュークが全員を守るために全力の魔法障壁を張った。
黒龍のブレスは威力が強すぎて、リュークの障壁すらも破壊する。
「ぐっ!」
「リューク?」
膝を折り、額から血を流すリューク。
俺はそんなリュークを初めて見た。
いつでも飄々として、なんでも簡単にやり遂げてしまうリュークが膝を折る?
「バカが!勝手に行動するなんて死にたいのか?!」
「おっ、俺は……」
「ダン、ここはお前の正念場だ。お前の聖剣は、あの龍を倒すことが出来るキーアイテムだ。
お前が真なる力を使えたなら黒龍を倒せる!お前の親密度を見せてみろ!」
俺は自分が握る剣を見た。
『相手と心を通わせられたなら真なる力を与えよう』
姫様を見る。
「姫様…… いや、リンシャン!俺に力を貸してくれ!」
「えっ、あっ、ああ。私でいいのか?」
「ああ。リンシャンしかいない。俺の力を解放するために」
「わかった。何をすればいいんだ?」
リンシャンに問われて、俺は固まった。
何をすればいいんだ?
「言え、ダン!」
『愛しき者よ。我に力を授け賜え。さすれば我は最強の守護者とならん』
俺はリュークがした動作を再現して聖剣を突き上げて、聖剣に呪文を唱えた。
『愛しき者よ。我に力を授け賜え。さすれば我は最強の守護者とならん』
リュークに習って唱えた言葉は、聖剣に光を与え、力を解放する………!
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