第105話 エリーナの思惑?


《sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》



 塔のダンジョンから帰還する際にアンナが私のそばに来て言いました。


「エリーナ様、これはチャンスです」

「チャンス?」

「はい。せっかくリューク様と一緒のチームになれたのです。仲良くなるチャンスです」

「どうして私がそんなことしなくてはいけないのかしら?他の殿方から婚姻の申し出は来ているのでしょ?リュークに固執する意味がわからないわ」


 どうして王族である私の方が謙らなければいけないのかしら?確かに情勢の事を考えれば、リュークは強力なカードだとは思うけれど…… 情勢など、いつ変わってもおかしくないじゃないの…… その時に選んでも遅くはないはずよ。


「先に言っておきます。すでに強力な陣営は婚姻を始めています。エリーナ様の年齢で後から決めればいいと考えておいででしたら、誰も貰い手がなくなるか、もしくは苦労を味わう殿方の元にしか嫁ぎ先がなくなりますよ」


 アンナはたまに私を脅すのです。

 私はまだ若いです。それに美しいです。


 だから…… 大丈夫ですよね?


「わかっているわよ。でも、私が誘うなんて!」

「わかりました。私が誘ってみます」

「アンナが?」

「はい。私もチームメンバーですので」

「いいわ。アンナが誘ってくれるなら行っても」


 アンナはリュークの元へ行く前に、リンシャンの元へ向かいました。何を話したのかわからないけれど、急にリンシャンの顔が赤くなり、この場を離れていきましたわ。


 いったい何をしているのでしょうね。


 リュークと話をしたアンナは驚いた顔を見せました。


「!!!!!!!」


 アンナが表情を変えることが珍しいので、本当に何を言われたのか気になりますわね。


「エリーナ様、リューク様に応じて頂きました」

「そう、それなら行きましょうか?」

「はい」


 リュークを伴って私が泊まっているホテルのラウンジに行きました。

 着席すると、私とリュークの間にアンナが座って同じお茶を飲み始めました。


「どうしてアンナも一緒なの?」

「ボクがお願いしたからだよ」

「はい。私も同席することで応じて頂きました」


 リュークは私とお茶をするために来たのではなくて?


「同じクラスメイトだけど、アンナさんのことは知らないからね。王女様の従者ってことぐらいしか知らないだろ?」

「私のことで良ければいくらでもお話しします」

「ちょっと待ちなさい。アンナとお茶をしたいなら、私は要らないじゃない?」


 遺憾です!まるで、アンナのオマケみたいな言い方をされるなんて!私は王女なのに!


「う〜ん」


 言葉を濁すリューク。

 アンナが私の脛を蹴りました。


「痛っ!」


 アンナを睨むとリュークに聞こえないように背中を向けるように指示してきました。


「エリーナ様」

「何よ!」

「好きになるためには、様々な方法があると思います」


 アンナの言葉に私は何を言い出したのか理解できなくて、馬鹿な事を言っているアンナに対して頭が痛くなってきました。


「一目惚れと言う方もおられますが、ほとんどの方が相手を知ることで好意を抱いて好きになるのです。

 まずは、リューク様の事を知り、エリーナ様のことを知ってもらうことから始めましょう。エリーナ様を知る中には私も含まれていると思いませんか?」


 私を知る中にアンナを知ることが含まれる?まぁ、確かにアンナは私と一番長くいて、私よりも私のことを知っていると思うけれど、なぜか納得できないのはなぜなのかしら?


「エリーナ様は、まずは私とリューク様との会話を聞いて勉強してくださいませ」

「勉強?何を勉強するというのですか?」


 私は優秀です。恋愛でも、勉強する必要などありません。


「リューク様とお呼びしてもよろしいですか?」

「うん。いいよ」

「それでは私のことはアンナと呼んでください」

「了解。アンナ」

「!!!!!!」


 スムーズに会話するアンナが突然、顔を朱に染めました。今日のアンナはいつもと違って、冷静さを欠いているように見えてしまうわね。

 従者の不手際を、後始末しないといけないわ。

 それにアンナなりに、私とリュークを仲良くさせようと考えているのでしょうから。


「私のこともエリーナで結構よ」

「そっか、ボクもリュークでいいよ」


 うん?なぜ、私のことは名前で呼びませんの?


「あっ、ちょっとごめんね」


 リュークが知り合いを見つけて席を離れました。


「アンナ?どうしたの?今日のあなたは少し変よ?」

「申し訳ありません。エリーナ様。もう少しやれると思っていたのですが、不甲斐ない私で申し訳ありません」


 謝ってばかりで、事情を話そうとしないアンナに困惑するばかりね。戸惑っている間にリュークが戻ってきました。


「ごめんね。ちょっと用事ができたから、失礼するよ。お茶、美味しかった。ありがとう。それとエリーナ」

「なっ、何ですの?」


 突然、名前を呼ばれてドキッとしてしまいます。


「今日の戦いでの指示は良かったと思う。君は人を統率するのが上手いんだな」


 リュークが私を褒めましたわ!!!今までダメだとばかり言っていたくせに、やっと私の良いところがわかったのですね。


「それで、明日はリーダーを君に任せたいんだけど、いいかな?」

「えっ?どういうことですの?」

「うん。ちょっと用事が今日で終わるのかわからなくてね。君にならリーダーを任せられると思うんだ。

 明日は、ボクもシーラス先生もいないから、一階からもう一度やり直してみてくれないかな?」


 なっ!何ですの急に褒めて、まぁ代わりにリーダーになってあげても問題はありませんわね。


「よくってよ。あなたがいなくても、今日も問題ありませんでしたから」

「そうか。よかった。エリーナに任せれば安心だね。

 それとアンナもすまないが、他の2人にも言っておいてくれないか」

「かしこまりました」

「二人ともありがとう、よろしく頼むね。それじゃ、ここの支払いはしておくよ」


 要件を告げたリュークは、ラウンジを立ち去って行きました


「ふふ、どうですアンナ?リュークが私の統率力を認めてリーダーを譲っていきましたわ」

「……そうですね」

「どうしましたの?元気がなくってよ」

「いえ、エリーナ様がお幸せそうで何よりです」


 ふふふ、チームになったことですし、私の素晴らしさをもっと見せつけてやりますわ。

 リュークの方から私に結婚してほしいと言わせて見せます。


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