第104話 快適なダンジョンアタック 第二弾
オートスリープで敵を眠らせて倒すことは効率的で良いと思っている。
ただ、一年次でリンシャンが言っていた。
戦闘の訓練にはならないと……
もしも教師であるシーラス先生が見たらきっと説教することだろう。
だからこそ塔のダンジョンではオートスリープは使わない。今回のボクはリンシャンの意見を採用することにした。
前回とはメンバーも違うのだ。
一年次の時は、ミリルが戦闘に慣れていなかった。
そのためレベル上げをした方がいいと思ったのも事実だ。
だが、二年次のメンバーは全員が戦闘が出来るメンバーが揃っている。なら、ボクがすることは見守るだけだ。
「バル、行っておいで」
ボクはレアメタルバルに、辺りの捜索を命じた。
他の冒険をしている者たちの邪魔をしない程度に、間引きさせるためだ。
低階層では、バルが苦戦する相手はいない。
バルが魔物を倒すと、ボクに経験値が入ってくる。
ただ、独占するのではなく他の冒険者に配慮して、こちらのチームで対応出来る数は送り込んでもらうように調整する。
「ねぇ、なんだか魔物の出現が少なくない?」
「少ないな」
エリーナが異変に気付き、シーラス先生も反応している。
リンシャンはボクがしていることに気付いたようだ。
こちらへ視線を向けてきた。
意外だったのは、アンナさんもボクを見てきた。
クール美女の印象を受ける彼女は、何を考えているのか分からない。エリーナの従者として教育を受けていたことは、タシテ君からの情報で知っている。
一年次の頃から、こちらの監視をしていたことも聞いている。
何かに気付いているようだが、エリーナに報告するような仕草を取らない。
ボス部屋の前まできて、ダンがチームメンバーを見る。
「このままボスモンスターを倒します。シーラス先生、いいですね?」
「ええ。10階層のモンスターはホブゴブリンと数名のゴブリンですから、皆さんなら問題ありません」
この階に上がる前にレアメタルバルにはクッションに戻ってもらった。そうして、一緒にボス部屋へと入った。
ボス部屋では、ダンとエリーナがそれぞれ指示を飛ばし合いながら連携を取っている。やっぱりチームは4人がバランスがいい。
4人の連携を眺めていると、シーラス先生がボクの横にやってきた。
「これが君のやり方か?」
「何のことでしょうか?」
「魔法のことだ。私が分からないと思っていたのか?」
普段の教師としての顔ではなく、それは一人の魔導士としてシーラス先生が問いかけていることが理解できた。
さすがは、深淵を知る魔女だ。誤魔化すことは出来ないだろう。
「何か問題がありましたか?」
「ない。ただ、意外だった」
「意外?」
「ああ、君はもっと無関心な人間なのかと思っていた」
「無関心ですか…… 間違ってはいないと思います」
「そうだろうか?君の視線は、物語に出てくる登場人物や舞台俳優を見ているように楽しそうに見えるぞ。それは彼らの成長を見守る、私たち教師に近いようにすら感じるほどだ」
なるほど、確かに表現されてしまうとそうなのかも知れない。自分の好きなキャラたちが活躍しているのを見ていて楽しい。そう感じていたのかも知れない。
「私は自分の目が曇っていたことを恥じるばかりだ。君はリーダーに向いている。広い視野とサポートできる魔法の技術を持ち、彼らに危険が及ばないように最善を尽くしている。
私個人としては、君の魔法にずっと興味があった」
レアメタルバルに触れるシーラス先生。
それを止めることはなかった。
「一年次にマーシャル君とルビー君でランキング戦を行った後に君が使った魔法だ。
眠るマーシャル君を浮かべて運んだ。無属性によって人を浮かせる魔法の完成形がこれなんだな」
どうやら一年前から、シーラス先生には目をつけられていたようだ。
「森ダンジョンのボスが出現したとき、レアメタルを君が持ち去ったことは知っている。何度か呼び出したが、君は呼び出しに応じなかった。その答えを……今、見せてもらった」
てっきり怒られるのかと思っていたが、シーラス先生は納得しただけだった。
「君はもっと自分勝手で、無茶をやるタイプだと思っていたんだ。だが、君の魔力を観察して、君の行動を見て、私は確信した。彼らを任せても安心だと」
「買い被り過ぎでは?ボクは彼を助けるつもりはないですよ」
「彼か…… 君にとっては相手にもならんだろう?」
シーラス先生の視線がダンへと注がれる。
どのような感情なのかは読み解くことはできかった。
「彼のことはいいさ。ただ、彼女たちのことは守ってくれるのだろう?それでいい。もしも、何かあれば、その時は今度こそ私の目が節穴だったのだろう。
君の魔力をこれだけ観察させてもらって、間違うことはないと私自身が判断したんだ」
シーラス先生はそれ以上語ることはないと離れていく。
ボス戦も終わったようだ。
ボス部屋の後ろに通路が現れて、魔法陣が二つ出現する。一つは上に上がる魔法陣、もう一つはダンジョンから出る魔法陣。ここがゲームの世界じゃなかったら、疑問に思うところだ。
そう言う設定なのだから理解出来てしまう。
11階層からは砂漠ダンジョンが広がっており、ゴーレムが徘徊している。ゴーレムはスライムと同じく眠ることのない魔物だ。
スリープは効果がなく、レアメタルバルによってコアを破壊することでしか倒すことができない。
ダンを中心にした4人も苦戦をさせらている。
「助けないのか?」
シーラス先生の問いにボクは首を横に振る。
「これは訓練なのでしょ?なら、苦難を乗り越えることも、訓練だと教えてくれた人がいるんですよ」
「そうか、君は本当に他人を見ているのだな。一年前の君なら問答無用で破壊していたと、私は勝手に判断していた」
「どういう意味ですか?」
今日はシーラス先生がよく話しかけてくる。
「通人至上主義」
ブフ家の一件をシーラス先生が知ることはないはずだ。
「教会が取り下げた教えは、精霊族である私にも少なからず影響があった。君は認めないだろうが、私は君に感謝しているんだ。これでもね」
「何のことか…… わかりませんね」
「君ならそう言うだろうな。だが、君が思うよりも君は世界から注目を集めているぞ。特に亜人たちからな」
裏や表だと色々とめんどうなことだ。
「ふむ。彼らの実力ではここまでか」
シーラス先生の言葉通り、ゴーレムを倒すことはできたが疲弊しているダンたちの姿が目に映る。
リンシャンだけが唯一体力を残しているが、限界は近いようだ。
ボクは帰還を口にして、この日のダンジョン攻略を終了した。
ダンジョンから出る際に、ダンがシーラス先生に話を聞きに行っていた。シーラス先生は何を語るのか?気にはなるがどうでもいい。
ボクの元にはアンナさんがやってきた。
「少しよろしいでしょうか?」
「なに?」
アンナさんが、視線を向けた先にはエリーナが不満そうな顔でこちらを見ている。
「主が一緒にお茶をしたいと申しております。お付き合い頂ければ幸いです」
「アンナさんは一緒に飲んでくれるの?」
「!!!!!!!」
何故か、凄く驚いた顔をされる。
「……ご所望であれば」
「じゃ、所望で」
「かしこまりました」
ボクはアンナさんに促されて、エリーナとお茶をすることになった。リンシャンの姿を探したが、いつの間にか姿を消していた。
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