第103話 塔のダンジョン 1日目
《sideダン》
作戦会議を終えた俺は姫様の姿を探した。
訓練をするために部屋を出た後に気付いたのだが、待ち合わせ場所がわからない。
女子が泊まるホテルと、男子が泊まっているホテルとは別々の場所なのだ。
リュークやエリーナなどは、上流貴族として、それぞれ別のホテルを取っている。
姫様はそういうのを嫌うので、他の女子生徒と共に部屋で寝泊まりしている。
だからこそ、明日は待ち合わせして一緒に行こうと声をかけようと思ったのだ。だが、どこを探しても見つからない。女子が泊まるホテルや、武器屋などにも行ったがいない。
「もしかして、まだ会議をした部屋にいるのか?」
一応確認のために、俺は会議室に使った部屋の扉を叩いた。
――ドンドン!!
「姫様いるか?ちょっと確認したいことがあるんだが!!!」
扉を開けようとして鍵がかかっていることに気付いた。
ここではなかったようだ。そう思っていると、扉の鍵が開かれて姫様が扉を開いた。
「なんだ?ここにいたのか?」
「ああ、すまない。少し胸が苦しくてな」
胸が苦しいと言われて顔を見れば、確かに赤みを帯びている。
「大丈夫なのか?体調が悪いなら、シーラス先生を呼ぶか?」
「いや、少し休めば大丈夫だ。それよりも何か用か?」
「ああ、明日はどこに待ち合わせをするんだ?」
「塔ダンジョン前にある広場でいいだろう。時間は先ほどリュークが言った時間で」
従者として、迎えに行った方がいいかと思ったが、必要ないようだ。
ただ、弱っているからか……
いつも男勝りな姫様が……
少し色っぽく見えたような気がする。
きっと気のせいだろう。
「じゃあ明日な」
「ああ。また」
姫様はまだ休むということで、俺だけ男子が泊まっているホテルへ帰った。
翌日、正午前に塔のダンジョン前にある広場に行くと、リューク以外のメンバーが集まってきていた。
「これで全員集まったな」
俺の姿を確認したシーラス先生が号令を出す。
リュークが来ていないのでは?そう思った俺の疑問に気付いた姫様が空を指さした。
そう言われて空を見れば、リュークはプカプカと浮いていた。
「デスクストス君、ダンジョンに入るので号令を」
「え~めんどう。適当で〜」
やる気の無い様子でプカプカ浮いたまま塔ダンジョンに入っていく。
シーラス先生はイライラしているようだが、俺を含めて全員がリュークはそんなもんだろうと脱力してダンジョン内へと入った。
塔のダンジョンは、中に入ると景色が一変する。
一階部分は塔のままだが静けさと緊張感がました。
二階にはゴツゴツとした岩場が広がる。
「とりあえず上がれるところまで自由で」
やる気ない号令と共に各々が戦い始めた。
リュークは透明なクッションに乗ったまま動こうとしない。
戦う姿が見れると思っていたので、期待外れで少し残念な気持ちになる。
「ねぇ、なんだか魔物の出現が少なくない?」
「少ないな」
エリーナの言葉にシーラス先生も首を傾げていた。
姫様とアンナさんは動じているようには見えない。
言われてみて、確かに遭遇率が少ない。
全然現われないわけじゃないが、脅威になるほどの数は現われていない。それは五階まで上っても同じだった。
「変ですね。さすがに何かあるかもしれません。皆さん、警戒してください」
塔のダンジョンは10階層事にボス部屋と呼ばれるボスモンスターが出現する。
ボスモンスターは一度倒すと、次回から倒した者を登録して進入する階を10階から固定できる。
1階層からやり直すことも出来るが、レベル上げを目的にしているなら、10階層から入ってきた方が効率が良い。
結局、シーラス先生が警戒するように言ったが、10階層まで難なく上ってきてしまった。
「なんだったのかしら?」
「さぁな、でもレベルは上がったな」
エリーナの疑問に俺が答えた。
現われた魔物を狩っている間にレベルは上昇したので、問題はないのだがラク過ぎる。
「このままボスモンスターを倒します。シーラス先生、いいですね?」
「ええ。10階層のモンスターはホブゴブリンと数名のゴブリンですから、皆さんなら問題ありません」
シーラス先生の許可が下りたので、俺が扉を開いて全員でボス部屋に入っていく。
リュークは紫色のクッションに乗ったままボス戦には参加する気がないようだ。
「いくぞ!」
俺の号令でエリーナと姫様が連携を取る。
前衛に俺、姫様。
後衛にエリーナと、アンナさん。
四人は、力を合わせてゴブリンを撃退していく。
ホブゴブリンを含めて10匹のゴブリン。
「フリーズ!」
エリーナの《氷》魔法で、ゴブリンたちが凍り付きトドメをアンナさんが刺す。
ホブゴブリンに対して、姫様が気を逸らしたところへ、俺が一撃を加えてトドメを刺した。
「よし!」
「お見事です」
シーラス先生から褒める声が上がり、10階層を攻略した達成感を味わう。
結局、ボス部屋でもリュークは何もしなかった。
「11階層からは、レベルが変わります!身を引き締めなさい!」
シーラス先生が号令をかけて、上がっていけば、砂が一面に広がる砂漠フロアだった。
魔物はサンドゴーレムと言われる砂で出来た魔物であり、剣で斬りつけても倒すことができない。
エリーナの《氷》魔法によって全身を凍らせて、アンナさんが核となる魔石を破壊して倒すことができた。
今までに無いほど苦戦を味わった。
「ふむ。彼らの実力ではここまでか」
独り言を呟くシーラス先生は何かに納得していた。
「なぁ、リューク。お前も戦ってくれよ。俺たちばかり戦っているじゃないか」
さすがに苦戦を強いられて、俺だけじゃなく、エリーナやアンナさんも疲労した顔をしている。
姫様だけは、まだ余力がある顔をしているが、それでも疲れているのは事実だ。
「疲れたのか?」
「ああ、ちょっとな」
「なら、今日はここまでにしよう。今、倒したゴーレムでレベルもあがっただろ?」
「えっ?もう帰るのか?」
「10階層は突破したんだ。レベル上げがしやすい11階層からまたやればいい。違うか?」
リーダーであるリュークが言うなら従う他ない。
「……わかった。リーダーの言う通りにする」
俺が了承を口にすると、リュークは撤収を口にした。
女子たちからも文句を言うことはなく、リュークに従っていた。どうしても気持ち悪さを感じる攻略内容に、俺はシーラス先生へ声をかけた。
「先生!」
「はい。なんですか?」
「今日の攻略をどう思われましたか?」
「どう…… とは?」
「なんだか気持ち悪さを感じていて、先生も違和感を感じておられた様子でしたので」
「ええ、そうですね。ですが、それを私の口から教えることは出来ません。気付いている子もいましたので…… これはあなたにとっての課題になるかもしれませんね」
「えっ?俺の課題?」
「はい。あなたは強くなりたいと言いました。ですが、周りが見えていないところがあります。
いつかあなたがリーダーになって戦いをするとき、周りが見えていないのは致命的です」
周りを見る?リーダーとして?
それはリュークが言っていた「誰かを守りたいと思う心だ」という答えに近いように感じられた。
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