第102話 チーム作戦

 何故か…… シーラス先生が監視している。


 学園側が用意してくれたホテルの一室で、チームミーティングという名の強制召集をかけられた。

 リーダーをすることをめんどうだと考えているボクのことを監視するように、シーラス先生がにらみをきかせている。


「それではリーダーのデスクストス君。始めてくれ」


 テーブルを囲むように左右にリンシャン、ダン、エリーナ、アンナの四人がこちらを見上げている。ボクはバルに乗ったままプカプカと浮いていた。


「は~い。作戦を伝えます。みんなガンガンいこうぜ。以上」

「はっ?」


 ボクが作戦名を伝えると、シーラス先生から不満そうな声が漏れる。


「だから、みんな強いから、ガンガン自由に進めばいいよってことです」

「そんなものが作戦な訳があるか!!!」


 いやいや、むしろ、有名な作戦名ですけど……


「先生、別にそれでもいいのではないですか?」


 リンシャンがボクを庇うように意見を発する。


「マーシャル君!何を言っているんだ。デスクストス君が行っているのは作戦なんて呼べるものではない。

 チームとして行動している意味がないではないですか!」

「お言葉ですが、一年次の時とはチームメンバーが違うのです。みんな互いの力がわかっていません。

 ならば、危険が少ない低階層までの間、互いを知るために好きに動くのも一つの作戦だと考えます」


 う~ん、リンシャンが有能だ。

 ボクが説明しなくても、リンシャンが説得してくれている。


「ふむ…… 確かにそうだな。デスクストス君がそこまで考えていたとは失礼した」


 シーラス先生は、リンシャンに説得されて引き下がっていった。


「姫様、本当にリュークはそんなこと考えているのか?」

「さぁな、ただお互いに手札がわからないまま協力しても上手くはいかないだろ」


 ダンの質問に対して、リンシャンは適当な返答をした。


「それはそうね。私も自由に戦える方がやりやすいわね。リーダーとして統率が必要なら私がやってもいいわよ」


 リンシャンの意見に賛同しながらも、自分を売り込むエリーナはしたたかだと思う。


「エリーナ様。ここはデスクストス様のお考えに従いましょう」

「アンナが言うなら…… 良いわ。まずは、互いの力を知るところから始めましょう」


 クラスメイトであることは知っていたが、アンナさんが話す姿を初めて見た。

 エリーナの専属従者ということだが、いつもエリーナの後ろに控えていて言葉を発しているところを見たことがない。


 クールな印象だか、意外に話の分かる人なのかな?


「それではいつからダンジョンに入るんだ?」

「そうだね。明日の昼前でいいんじゃないかな?三ヶ月の間にレベル上げをするのが目的だからね。急がず、のんびりやろう」


 ボクはそれ以上話すことはないと言って、チームミーティングを解散させた。

 時間にして30分程度は話したんじゃないかな。


「リューク。今回は同じチームだ。色々と学ばせてもらう。まだお前に教えてもらったヒントはわからないけど…… この修学旅行で答えを出せればいいと思っている」


 ダンはいつでも真面目な奴だ。これから訓練に向かうのか真っ先に部屋を出ていく。


「あなたなど必要ないことを証明して見せるわ」


 エリーナは強気な態度で、捨て台詞を吐いてから部屋を出て行く。アンナさんは無言で頭を下げて、エリーナに続いた。


「私も君の実力を見せてもらうつもりだ。明日は同行するので、そのつもりで」


 シーラス先生が明日は同行するのか、ならオートスリープは使えないかな?


 リンシャンが最後に立ち上がる。


「私も失礼する」

「さっきはありがとう」

「別に……私もリュークと同じ考えだっただけだ」


 背を向けたまま語るリンシャンは、顔を見せようとはしない。


「ただ、シーラス先生がいても、あの魔法を使うのか?」

「う~ん、別に魔法を使う必要はないと思っているんだけどね」

「魔法を使う必要がない?」

「ああ、まぁ明日になればわかると思うよ」


 そう言ってボクも立ち上がる。


「お前には秘密が多すぎるな」

「秘密というわけじゃないさ。ボクの側に居れば見える景色だよ」

「……ふふ、私には難しそうだ」


 リンシャンと、こんなにも穏やかな時間を過ごすことになるとは思わなかった。

 出会いは最悪だったかもしれないが、だからこそ他のヒロインたちとは違う関係でいられるのかも知れない。


「さて、いつまでも二人でいると勘ぐられそうだ。行こうか」

「リューク」

「何?」

「私は何があってもお前を信じる。あの日、お前がかけてくれた言葉は私の中でずっと胸に留めている」


 勘ぐられると言うボクの言葉に対して、リンシャンからはあの日の返答を聞いた気がした。


 リンシャンはボクに頼らず、孤高に立つことを選んだ。


 留まるとはそう言うことだ。踏み出さない。


 ただ、その表情は…… 覇気がなく諦めが含まれているように感じた……


 踏み出すための、キッカケが無いのだろう。


 推しのヒロインを堕としてしまったのなら、最後まで面倒をみないのは、の矜持が廃るよな。


「なら、のところへ来いよ」


 それはボクが発した言葉なのか、それともオレが発した言葉なのか……


「なっ!」


 一瞬で顔を朱に染めるリンシャン……


「ばっ、バカなことを言うな!私がお前のところに行けるわけがないだろ!お前の家と、私の家は敵同士なんだ。それにお前には婚約者がいて、他にも可愛い女性たちがお前を支えているじゃないか…… 私なんて…… ガサツで女らしくなくて…… ダンだって、私を女として見ていない……」


 ボクはそっと、後ろに手を回して扉の鍵をかけた。


 誰にも邪魔をさせないために……


 事故ではなく……


 故意であるために……


「ボクは、リンシャンを女として見ている」


 ゆっくりと近づくボクから遠ざかるように、リンシャンはゆっくりと下がり壁を背にする。

 ボクは壁に手を突いて、ゆっくりと顔を近づけて額を当てた。


 リンシャンの熱が触れあう肌から伝わってくる。


「リンシャン」

「リューク」


 潤んだ瞳でボクを見つめるリンシャン……




 ――ドンドン




「姫様いるか?ちょっと確認したいことがあるんだが!!!」



 大きなダンの声が部屋に響いた。

 リンシャンは潤んだ瞳をそっと閉じて、ボクの腕から抜けていく。



「行かなければ」

「ああ」

「……また」

「明日」


 ボクはそっと静かに窓からバルに乗って外へ出た。



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