第101話 私の推し
《sideアンナ》
私の名はアンナと申します。
エリーナ王女様専属従者であり、子爵家の三女として生を受けました。
幼い頃から、エリーナ様の従者になるために教育を受けてきたため、成人を迎えた私は、家を出て現在はエリーナ様の専属従者として、アレシダス王立学園にも共に通っております。
紳士淑女としての嗜みから、従者としての作法まで、エリーナ様をサポートするための全てを習得しております。アレシダス学園の勉学だけでなく、魔法や実戦に至るまで幼い頃から学んできましたので、他の方々よりも優秀だと思っておりましたが、上には上がいるものです。
そんな私が人生をかけてお世話するエリーナ様には、目下、様々な問題を抱えられております。
その一番の原因となっている人物、リューク・ヒュガロ・デスクストス様は公爵家の第二子息様です。
見た目は男性とは思えないほど美しく。
気怠い印象を受ける方ですが、その見た目とは別に様々な黒い噂が絶えない方でもあります。
更に、貴族派と王権派が争いを水面下で始めている中で、不思議な動きをしているため目立っており、今後の動向に注目を集めておられます。
曰く、数え切れないほどの女性を侍らせるハーレム王。
曰く、幼い頃に魔法の深淵に辿り付いた神童。
曰く、敵となった者を廃人へ誘う悪魔。
などなど、真実かどうかわからない噂が絶えない方です。
私は、エリーナ様が婚約者候補として考えられていることを知り、アレシダス王立学園に入学当初から調査も兼ねて監視をしておりました。
ハッキリ言います……
リューク・ヒュガロ・デスクストス様は……
推せます!!!
推せるのです!!!
いや、カッコイイのなんて当たり前ですが……
私が彼を推せると思った瞬間は……
紫色のクマのヌイグルミを抱いて現われたときです。
なんですかそれ!!!
綺麗な男性が可愛いヌイグルミのアイテムって、ヤバすぎでしょ!!!
確かに、今までリューク・ヒュガロ・デスクストス様を観察してきました。
空飛ぶクッションに寝転んで、ダラダラしている姿も尊いと思っておりました。
ですが、ヌイグルミって……
私が感じた衝撃は計り知れないほど圧倒的でした。
これほど人を眩しく神々しいと思ったことはありません。
今まで以上に私はリューク・ヒュガロ・デスクストス様を観察するようになりました。
剣帝杯での活躍は一度だけで残念です。
戦っても最強。
戦わなくても最強。
ただ寝ているだけで最高。
学園が年末年始になって、お休みになり私はリューク様の観察が出来なくなりました。
それは生きるための活力を奪われ、魂が抜けたように感じてしまいました。
一度だけ、エリーナ様がリューク・ヒュガロ・デスクストス様へ婚約の申し出に向かわれた際に同席させて頂きました。
リューク・ヒュガロ・デスクストス様のお家です!!!!
ファンが…… 推しの家に上がる!!!
もう…… 死んでもいい。
エリーナ様が、リューク様の奥様になることができれば、私は従者として推しを応援し続けられます。
そう思っていたのに、エリーナ様はフラれてしまいました。まぁ…… 我が主ながら、エリーナ様は少し女性としてはお子様なところがあります。
フラれた後も、王宮の人たちは大して気にした様子ではありませんでした。
ですが、エリーナ様は悲劇のヒロインのように皆が自分を笑っていると言い出して、秘境へ逃げて行かれました。
私も同行したのですが……
夢を見ているのでしょうか?それともここは天国なのでしょうか?
エリーナ様はどうして…… そんなに平然としていられるのですか?男性の裸ですよ?
それもリューク・ヒュガロ・デスクストス様の裸ですよ?
温泉で鼻血を流して、のぼせたのは初めてです。
主君に世話をしてもらうなど、従者としての恥。
まぁエリーナ様は文句を言いながらも、お世話をしてくれるので悪い人ではありません。
見た目もリューク様に負けぬほど美しいのに……
どこか残念な所があるのです。
それがエリーナ様のいいところだと思っています。
「今!私のことバカにしなかった?」
「とんでもございません。私がエリーナ様を侮辱するなどありえません」
「そうよね。アンナは私の味方なのだから」
別に私はエリーナ様を嫌いではありません。
残念な人だとは思いますが、それがまた可愛いと言いますか……
世話をしてあげたくなる人なのです。
そんなエリーナ様にも唯一のお友達が一人だけ存在します。マーシャル公爵家のリンシャン様です。
猪突猛進な猪武者とエリーナ様は表現されておられますが、私はまた違った見方をしております。
素直で、礼儀正しく、誰にでも分け隔てなく優しい方です。なぜ、リューク・ヒュガロ・デスクストス様にだけは、あれだけ対抗意識を燃やすのか不思議な方なのです。
二年次の学園が始まって、お二人でお茶を楽しまれている際に私が給仕をさせて頂きました。
そこでの会話で私は…… リンシャン様の変化に驚いてしまいました。
元々、女性らしいリンシャン様でしたが、乙女です。乙女がおられます。
唐変木なエリーナ様でも、リンシャン様の恋心にはさすがに気付いて、誰が好きなのかとバカな質問をされていました。
本当にうちのお嬢様はどうして、相手の気持ちを考えられないのでしょうか。
そんなエリーナ様にリンシャン様がかけた言葉が……
「恋愛は…… 恋に落ちるものだ」
キャーーーー!!!!悲恋なのですね!叶わぬ恋なのですね!!!素敵です。
リンシャン様素敵!
残念なお嬢様から、リンシャン様に乗り換えたいです。
私、昔から恋愛小説の虜でした。
もう、リンシャン様の態度はまさに恋する乙女……
ハァ……眼福です。
誰かエリーナ様にも恋愛を教えてあげてくれないでしょうか?そんなことを考えながら修学旅行が始まり、シーラス先生が発表したチームがあまりにも意外過ぎました。
「リューク・ヒュガロ・デスクストスのチームは
エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス
リンシャン・ソード・マーシャル
アンナ
ダン」
えっ?リューク・ヒュガロ・デスクストス様と同じ班?私…… 一生分の運を使い切ったのではないですか?
ダンジョンで死ぬかも……
いや、これはチャンスです。
エリーナ様とリューク様をくっつけるチャンスなのです。二人が結婚してくれれば、私はリューク様を一生見続けられる!一生推しのお世話が出来るのです。
エリーナ様! 頑張ってください!!!
私のために……。
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