第100話 お姉様 再び

 0クラスが到着してから、三日後。


 アレシダス王立学園二年次の生徒が迷宮都市ゴルゴンに到着した知らせを受けた。

 先に到着した0クラスには自由行動が与えられていたが、ボクはシロップにお願いしていた仕事の報告を待っていたこともあり外出は控えてのんびり過ごしていた。


 ヒロインたちは買い物へ出向いて、色々と街の中を見てきたようだ。ボクは夕食を彼女たちと共にすることで、彼女たちが話すことを聞いていた。


 そんな三日間が過ぎ去り、ボクも例外なく集合したのには理由がある。


「領主様のおな~り~」


 迷宮都市ゴルゴンの衛兵が声を上げれば豪華絢爛な一団が、列を成して現われた。


 見目麗しき男女が歌って踊り、楽器を奏でる。

 屈強な男たちによって担がれた神輿に乗って現われたのは、2メートルを超える身長に筋肉質な身体を持ちながらも、豪華な装飾品を身に纏い、女人が好むユッタリとしたドレスを着て厚化粧をした、


 が学生たちの前に姿を現す。


「あら~若い燕たちがこんなにたくさん。うふ、誰から食べちゃおうかしら?」


 相変わらずの威圧は、学生たちを沈黙させるのに十分な力を含んでいる。威圧に当てられた者たちは立っていることすらままならない。


 立っているのは0クラスの数名だけ……


「ふふ、リュークちゃん。あなたは相変わらず飄々としているのね」


 ゆっくりと神輿から降りてきたお姉様が、ボクを見つけて近づいてくる。近づかれると分かるのだが、相変わらずキツい香水の匂いが辺りに充満していく。


「お久しぶりです。お姉様」


 ボクがお姉様と口にすると、生徒たちが驚いて顔を上げる。


「ふふ、そう呼んでくれるのはあなただけね。それに…… 面白い子たちが数名いるみたいね」


 そう言って、お姉様が見た先で立っているのは四名だけだった。


 エリーナ・シルディ・パーク・アレシダス

 リンシャン・ソード・マーシャル

 ルビー


 そして…… ダンだ。


「あなた…… お名前は?」


 唯一の男子で立っていたダンへお姉様が近づいていく。


 お姉様を直視したダンは息を飲み言葉を詰まらせる。

 まだ、ダンのレベルではお姉様の威圧に対して立っているのがやっとなのだろう。

 なんとか抗ってはいるが限界が近い。


 お姉様が手を伸ばそうとして、別の手で払われる。


「ゴードン卿……そろそろ」


 そう言ってダンを庇ったのはシーラス先生だった。


「ふふ、シーラス女史は相変わらずお美しいわね。羨ましい」

「あなたもいい歳なのです、若い子をイジメて遊ぶのはやめなさい」

「あら、女性に年齢のことを言うなんて、失礼ね」


 お姉様はシーラス先生と楽しそうに会話をして距離を取った。


「さて、ここにいるアレシダス王立学園の可愛い子ちゃんたちに私から少しだけ挨拶をするわよ」


 本来、お姉様が話をするために用意されたお立ち台に上がり、話を始めたお姉様は…… なぜかポージングを取りながら話している。


「この迷宮都市ゴルゴンは欲望渦巻く街よ。

 冒険と誘惑、王都では味わえないことや、目に出来ない物もたくさんあるわ。

 溺れてしまうのも自由。

 学園の生徒として節度を守るのも自由。

 全ては自分自身が選んだ道よ。

 自由にした責任は、自分自身で取りなさい」


 煌びやかであり、治安が定まっていない迷宮都市ゴルゴン。それは塔のダンジョンだけのせいではないだろう。


「ただ、そうね。私からあなたたちに一つだけ願うことがあるわ。出来れば、私の街で宝物を見つけて頂戴。


 それは凄い冒険でもいい。

 かけがえのない友人や恋人でもいい。

 金銀財宝でも……


 あなたたちがお宝だと思う物をみつけて頂戴。


 それが見つかる都市…… それが迷宮都市ゴルゴンよ」


 両手を広げたお姉様に、先ほどの屈強な男たちがポーズを決めながら、お姉様を盛り上げる。


「さて、シーラス女史。私はここまでで十分かしら?」

「ええ。ありがとうございました。ゴードン侯爵様」

「ふふ、よくってよ。そうだ。リュークちゃん。

 一度うちにも遊びに来てね。リュークちゃんなら歓迎するわよ」

「はい、お姉様。滞在中にお邪魔します」

「楽しみにしているわ。チュッ」


 投げキッスを寸前で躱したボクは深々と頭を下げた。


「もう~ つれないわね。そっちの可愛い子も遊びに来てくれても良いわよ」


 そういってダンにはウインクをして、お姉様は去って行った。登場から色々と濃い人だが、最後まで威圧が凄かった。


「ハァ~、何よあれ」

「さすがはゴードン侯爵だな。立っているのがやっとだ」


 エリーナやリンシャンも、ダンと同様に立っているのがやっとだったようだ。どうやらお姉様の威圧に耐えられたのは、ボクとルビーの二人だけだったようだ。


「ルビーは偉いな」

「ニャハハ」


 ボクはルビーの頭を撫でてやり褒め称えた。


 それからは、それぞれのクラスの先生たちのところへ集まり今後の流れを説明してもらう。


「改めて、無事な到着ご苦労だった。

 今後は迷宮都市ゴルゴンにて、三ヶ月間の修学旅行が始まる。それにあたり、ダンジョンへ挑戦するチームを0クラスだけは固定とさせてもらう。


 また、塔のダンジョンは学園にある森ダンジョンよりも危険度が高いと思われるため、五人で一組としてメンバーを組ませてもらう。

 まずは、リーダーとなる者を発表するから、呼ばれた者は返事をしてくれ。


 一班 リューク・ヒュガロ・デスクストス」


 ボクはいきなり名を呼ばれて驚いてしまう。

 今までは首席のエリーナが呼ばれることが当たり前だったからだ。


「リューク・ヒュガロ・デスクストス。返事を」

「はい」

「君にはリーダーを頼む」

「……めんどう」

「現在の二年次において、首席は君だ。これは教師陣で決めたことなので了承してもらいたい」

「わかりました」


 ボク以外にリーダーに選ばれたのは、リベラとタシテ君、それに王権派の子だった。


「続いて、それぞれのリーダーと行動を共にする者を伝える。


 リューク・ヒュガロ・デスクストスと同じチームを組んでもらう者は……


 エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス

 リンシャン・ソード・マーシャル

 アンナ

 ダン」


 名前を呼び上げられた者達を聞いて、ボクは驚いてしまう。明らかに学園の明確な意図として、ボクが仲良くしている者達と切り離す意志が感じられた。


「以上で班分けを終わる。それぞれリーダーの指示に従い行動を開始してくれ。以上だ」


 そう言ってシーラス先生は解散を口にした。

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