第97話 ヒロインたちの会話 その7
《sideリンシャン・ソード・マーシャル》
この修学旅行に、私は覚悟を持って挑むことを決めていた。それはマーシャル家のリンシャンとしてではなく、
一人のリンシャンとして、リュークの側で支えたいと言う思いで参加することにしたからだ。
すでにリュークの周りには素敵な女性たちが集まっていて、私など女として見てもらうことは不可能だろう。
ガサツで剣に生きてきたことで、鍛えられた身体は他の女性たちのように柔らかくはない……今更だな。
迷宮都市ゴルゴンまでの道のりを向かうにあたり、
マーシャル家の者たち(男所帯)と向かうか。
それともエリーナと、その従者たち(女所帯)
と向かうのか、二つの選択肢があった。
だが、私は望まれていないことを分かっていて、リュークが乗る馬車へ乗せてもらうことを希望した。
最初は渋い顔をしていたリュークも、私がどうしてもダメか?と問いかけると深々を息を吐いて受け入れてくれた。
リューク・ヒュガロ・デスクストスは、こういう人だとなんとなく理解できるようになってきた。
口調ではめんどうと言いながらも、優しく、決断力と信念を持って行動している。
私の申し出に対して困った顔をしたが、結局受け入れてくれた。
「リンシャン様はどうしてこちらに乗られたのですか?」
リュークから寝息が聞こえ始めると、リベラが質問をしてきた。寝息を立て始めるとリュークは一定時間は起きないことを一年次で覚えている。
「それ、私も気になってました」
ミリルやアカリ、ルビーも近づいてきて、女子たちに囲まれる。
ルビーやミリルとは、一年次でチームを組んでいたので話をしたことがあるが、リベラとは剣帝杯で戦って以来だ。
「そやな。ウチはあんまりリンシャン様と話したことはないから、どういうつもりか気になるわ」
「……まずは、その様をやめてくれないか?私のことはリンシャンでいい。ミリルとルビーにもそうしてもらっている」
「そうなん?」
「そうにゃ」
「一年次でチームを組んだときからです」
二人が同意してくれたので、リベラとアカリも納得してくれたようだ。
「なら、ウチはアカリでお願いします」
「私もリベラで構いません」
「二人ともありがとう。私は……自分の気持ちを確かめたくてな……」
「やっぱりですか!」
私の言葉にミリルとルビーは納得したように頷いている。
「なんや?二人にはわかるん?」
「そうですね。教えてください」
二人が納得している理由は私にもわからない。
「だって、一年次の段階で、リンシャンはリューク様を好きでしたからね」
「そうにゃ。惚の字だったにゃ。まぁ本人は自覚していなさそうだったけどにゃ」
二人からの言葉に顔が熱くなるのを感じる。
「なんやそういうことか……てっ、えっ!!!リンシャン、リューク様好きなん?それ大丈夫なん?敵家やろ?」
「私も意外ですね。リューク様とは相容れないように見えていたので、いつ好きになったんですか?」
女子とは恋愛話が好きなものだ。
最近は恋愛話ばかりしているように思える。
「わっ、私はまだ好きかどうかわからないんだ。だから、それを確かめたくて修学旅行を共にしたいと考えて、こちらに乗せてもらったんだ」
私が早口で言葉を発すると、なぜか全員から生暖かい目で見られた。
「ふ~ん、なんや取っつきにくい人や思てたけど……リンシャンも悪い人やないんやね」
「そうですね。戦い方も真っ直ぐでした。
強さで言えば、リューク様に肩を並べられるのはリンシャンしかいないかもしれませんね」
アカリとリベラにも納得したようなことを言われて、私はますます顔が熱くなるのを感じる。
「ハァ~リンシャンが気付かないようにしていたのに」
「ミリル、それはそもそも無理な話にゃ。好きになったら止められないものにゃ」
「それはそうだけど……ルビーちゃん。ちょっと大人過ぎだよ」
女性が集まれば姦しいというが、それは男所帯で育った私としては煩わしく感じていたものだったはずなのに、この場では嫌な気持ちにはならない不思議な空間だった。
そんな中で、寝息を立てるリュークの寝顔は……
「あっ、リューク様の寝顔見てた」
「分かるにゃ。あれは国宝級に見たくなるものにゃ」
「そうやね。イケメン最高やね」
「今回は私が一番ノリさせてもらいましたからね。次は譲りますよ」
リベラが勝ち誇った顔をするのを他の女子たちは悔しそうな顔をする。
恥ずかしくもあるが、そんな他愛ないやりとりなのに楽しく感じてしまう。
「リンシャン。あなたには立場があり、素直にリューク様を好きだと言えないでしょう。ただ、これだけは覚えておいてください。あなたが望めばリューク様は世界を敵に回しても、あなたの願いを叶えてくれると思いますよ」
この中では一番大人な雰囲気を持つリベラに諭すように言われるが、世界を敵にする覚悟が私にはまだない。
「そやね。ダーリンはめっちゃかっこええよ」
「そうですね。凄く優しくて人のために動ける方です」
「それに強いにゃ。私はこれまで出会ったなかで一番リュークが怖いのにゃ」
三者三様のリュークへの想いがあるのだろう。
私は……アクージ戦で助けてくれて……アクージを倒してくれて……控え室で声をかけてくれた。
胸の中で温かい何かが生まれてきて、最後にあの早朝で唇が重なったときのことを思い出す。
「うわ~めっちゃ女の顔してるで」
「リンシャン、その顔は女の私でも惚れてしまうかもです」
「綺麗ですよね。リンシャンって、やっぱり上位貴族のお嬢様です。ズルいです」
「ニャハハ、私は綺麗よりも可愛いから、そこでは勝負しにゃいにゃ」
四人から茶化されながら、私は初めて女性の中で楽しい時間を過ごすことが出来た。
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