第96話 いざ、修学旅行へ

《迷宮都市ゴルゴン》


 迷宮都市ゴルゴンには、巨大な塔があり、建てられた当初は教会が管理する小さな塔だった。

 いつの間にか、塔は勝手に成長を始め、現在は雲に届くまで高い巨大な塔へと成長していった。


 それは塔がダンジョンへ進化を遂げるきっかけが有った。きっかけは人々の欲が集まった結晶であり、塔からは古代の人々が多くの魔法に関する道具などを集めた痕跡が見られたと言う。


 いったいどれほど前に建てられ、ダンジョンと化したのか今ではわからない。

 ただ、ダンジョンからは貴重な鉱物や宝物が多く発見されている。


 塔は階を重ねる毎に魔物の強さも増していくので危険が高まり、ダンジョンとしてはレベルが変動する、貴重なダンジョンとして有名である。


 1階~10階までをレベル3ダンジョン。

 11階~30階までをレベル4ダンジョン。

 31階~50階までをレベル5ダンジョン。

 51階~70階までをレベル6ダンジョン。

 71階~90階までをレベル7ダンジョン。

 91階以降をレベル8ダンジョン。


 それ以降は未知の領域とされていた。

 何故ならば、人が到達出来た最高地点が91階であり、それ以上に昇って帰ってきた者はいない。


 ♢


《sideリューク》


 修学旅行と言っても、バスに乗って全員で移動するわけではない。

 この世界には草原にも魔物が出現するため、学園としては集団をいくつかに分けて護衛をつける方が守りやすくなる。


 騎士だけでは人出不足になってしまうため、冒険者たちにも連絡があり、ボクが乗る馬車にはA級冒険者として、御者兼護衛のシロップが乗っている。

 今回は、デスクストス公爵家の個人的な馬車ではなく、学園が用意した数名が乗ることが出来る、大きな馬車に乗っている。


 ボクと一緒に乗っているのは……


 専属メイドのクウ

 ミリル

 ルビー

 アカリ・マイド

 リベラ・グリコ


 まぁここまでは問題ない。


 だが、何故か……


 リンシャン・ソード・マーシャルまで乗り込んできた。


「私も……一年次ではチームだったのだ。問題はないだろ?」


 捨てられた子犬のような瞳で見つめられてしまえば断りにくい。

 マーシャル家の派閥に属した者たちが乗る馬車は、男ばかりで、確かにリンシャンは居心地がよくないかもしれない。ボクは深々と溜息を吐いて承諾を口にした。


 リンシャンはダンと婚約しているはずだ。

 こっちに来るのは問題があるんじゃないか?とも思うが……本人が希望するなら仕方ないのか?


 タシテ君は、ボクが女子と過ごすのを邪魔するのは悪いと言って、貴族派の者たちが集まった馬車に乗っている。


「凄いな、まったく揺れを感じない」


 リンシャンが感心したような声を出して、バルのクッション性を楽しんでいる。


 上質なマットのような弾力と、少しだけ宙に浮くことで馬車の揺れを一切感じさせないバルは、優れた能力を発揮している。

 壁や天井にまでバルが馬車内を包み込んでいるのでまったく揺れを感じない。快適な馬車移動を実現している。


「これはあれやね。馬車の革命になるかもしれんわ。バルちゃんを研究でけへんやろか?」


 アカリはバルの感触を確かめながら、馬車のクッションについて考え事を始めてしまった。


「リューク様、よろしければ枕に使われますか?」


 そういってボクに膝を差し出すのはリベラだ。

 昨年の剣帝杯から色々と尽くしてくれるようになった。


「う~ん、じゃあ」


 この中だとアカリが一番寝心地がいいが、今は研究で頭が一杯みたいだから仕方ない。リベラは少しほっそりとしているが、ミリルに比べれば肉付きが良い。


「ウオッホン」


 リベラの膝枕をしてもらおうと頭を預ける寸前にリンシャンが大きな咳払いをする。


「なんです?リンシャン様」


 ボクは気にすることなく目を閉じてリベラに頭を預けた。女の子の太ももって柔らかくていいね。

 リベラがリンシャンに問いかけるが、リンシャンは顔を背けてしまう。


「別に何もない……」


 前なら、学園でこんなことをするのは不純だと言って、怒っていたが意外に冷静に終わってしまった。

 この馬車に乗ったのは監視のためかな?まぁ気にしないけど……


「そう言えば、リンシャン様は随分と魔法に熱心に成られたのですね」


 魔法狂いであるリベラは、リンシャンの魔力量が増えていることに気付いているようだ。

 それはボクも意外だった。ダンは闘気が増えていた。

 リンシャンも同じように闘気が増える練習をしていると思っていたのに、魔法量が増える練習をしたと言うことは、闘気よりも魔法についての勉強をしたとこになる。


「私は……強さを理解していなかったんだ。今は、魔力を高めて限界を越えるために訓練をしている」


 ボクは意外な答えが返ってきたことに驚いてしまう。

 ゲームに登場するリンシャンは、猪突猛進な性格で、武術と剣技に生きているようなキャラだった。

 魔法は使えるが、剣の方が得意で、戦い方も脳筋系だったはずだ。

 それが、バランス良く魔法も鍛えれば確かに強くはなるがいったいどんな変化があったのか……ダンからリンシャンが大罪魔法について気付いたことは聞いている。


 もしも、この修学旅行に向かう途中で話す機会があれば、どんな風に理解したのか聞いてみようという思惑もあった。


 実際、迷宮都市ゴルゴンまでは、一週間の道程が待ち受けているのだ。

 整備されていない道を馬車で走るというのはそれだけで遅くなるのだが、そこに魔物の存在やら、馬の疲れ具合もあり、休息が絶対に必要になる。


「そうですか……剣だけでなく、魔法も極められるなら……お力になれると思いますよ」


 リベラはリベラなりに、リンシャンへの気づかいもあるのだろう。

 何より、自分が大好きな魔法について語り合える友人が出来ることが単純に嬉しいだけかもしれないが……


「それは助かるな。自分一人ではわからないこともたくさんあるんだ。

 リベラは魔法に関して一番知識を持っていると思うから色々教えてほしい」

「そっ、それなら少しぐらいなら」

「ありがとう」


 素直なリンシャンの反応に対して、グイグイ来られたことでリベラの方がタジタジになっているな。

 ボクは女子たちの会話を邪魔することもないと判断して、《睡眠》を使って自分にタイマーを発動して眠りについた。

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