第95話 修学旅行のチーム決め

《アレシダス王立学園においての修学旅行とは》


 アレシダス王国では、力を優先するという、根強い風習がある。学園に入学した者達のレベルアップを率先して実行している。

 一年次であれば、森ダンジョンや地下ダンジョン、さらには草原などの魔物を倒すことで、レベルをある程度上昇させることを課題の一環としている。


 だが、二年次になるとレベルが極端に上がりにくくなり、得られる経験値も低級ダンジョンでは難しくなるため、遠方にある中級ダンジョンに赴いてレベルアップと、戦闘に関する実技講習が行われるのだ。


 それは進学した者全員に課せられる二年次のイベントである。


 ♢


《sideリューク》


 二年次では、一年次のときのような強制的なチーム構成は成されることなく、修学旅行に赴くにあたり自分たちでチームを組むことが出来るはずだった。


「却下する」

「なんでや!」


 アカリが提出したチーム表が、シーラス先生によって却下された。


「……今回の修学旅行では、宿に宿泊することになる。

 男女は別のチームを組むことになっていることは説明済みだろ?0クラスは女子12名、男子8名なんだ。

 それぞれ四人チームを組んでもらうことになる。

 それと従者は数に入れて提出しなくてもいい」


 修学旅行のしおりという冊子には、チーム決めのルールや部屋割などが確かに書かれている。

 ただ、貴族が多く在籍するアレシダス王立学園としての配慮から、必ずしも同じ部屋で寝る必要は無い。

 向かう場所もわかっているので、別の宿を取るなりして、個人的に宿をとっても問題はないはずなのだ。


 昨年に代わって今年はシーラス先生が担任に任命された。リサーチ先生が一年生の0クラス担任になったため、融通を利かせてくれないのか?


「だから言うてるやん。部屋は別々にするからチームはこれでええやん」

「それも却下する。チームに関しては、こちらで決めさせてもらう。一年次とは別のチームにするつもりだ」


 二年次では、一年の時よりも自由性を取るためにチームも自由に決められるはずなのに、0クラスだけはチームを固定されるという。


「これは学園長先生の判断だ」


 シーラス先生の独断かと思われた内容が、学園長の判断と言われてしまえば逆らうことは難しくなる。


「アカリ、もういい」

「ダーリン」


 アカリは抗議を続けようとしたが、ボクの声で戻ってきた。別に誰とチームを組んでも問題はない。

 ただ、男子チームはタシテくんともう一人、派閥の男子がいるので問題ないのだが、あと一人が決まっていない。王権派には5人いるので男子が一人余ってしまう。


「タシテ君」

「わかっております。すでに最高級のスイートルームを予約済みでございます」


 うん。そういうことを言いたいんじゃないけど……もう宿の予約してくれてありがとう。


「リューク・ヒュガロ・デスクストス……俺をチームに入れてくれないか?」


 そう言ってきたのは、ダン自身だった。

 ボクが答えるよりも前に、ヒロインたち四人が前を遮る。


「なんや、ダン。うちのダーリンにケンカ売っといて、仲間に入りたいって言うんか?」

「ダン、何を考えているにゃ?一番ありえない人選にゃ」

「そうです。リューク様の気分を害するのはやめてください」

「ダン。ここまで空気が読めないとは思いませんでしたよ」


 うん。みんな止めてあげて。

 本来なら、君たちダンの攻略ヒロインだから、ボクを庇ってくれるのは嬉しいけど……ハァ~めんどうだな。


「タシテ君」

「はっ、お望みのままに」


 何も言っていないけど……やっぱり君は優秀だね。


「ダン、リューク様が許可された。ただ、宿は勝手に探してくれ。我々は学校が用意した部屋には泊まらない」


 さすがは優秀なタシテ君だよ。

 キモデブガマガエルリューク時代からの手下気質だね。

 リューク至上主義は助かるよ。


「ダーリン!ええの?」

「いいのかにゃ?」

「大丈夫ですか?」

「お優しいのですから」


 四人は心配そうにボクを見てくる。


「チームは強制されるが、修学旅行の間だけだ。それに現地では、またチームも変わるようだからな」

「まぁ、そやな。仕方ないか」

「リュークがいいならいいにゃ」

「リューク様は優しいです」

「仕方ありませんね」


 うん。四人は完全にヒロイン候補からは外れた気がするよ。残るヒロインは三人、リンシャン、エリーナ、シーラスだ。


 ふと、視線を感じてリンシャンを見れば、リンシャンがこちらを見ていた。ボクが見るとすぐに顔を避けてしまった。やっぱり嫌われているんだろうな。キスもしてしまったが、あれから進展もない。

 いくら良妻賢母であろうとキスぐらいではさすがに落ちないか。


「ありがとう、リューク。それじゃあ修学旅行ではよろしく頼む」


 そう言って離れて行ったダンを見送り、ボクは修学旅行のしおりに目を落とした。


 迷宮都市ゴルゴン。


 ゴードン侯爵が領地を管理する、義母様の実家がある都市に赴かなければならない。


 欲望と……強欲な人々が渦巻く都市へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る