第94話 ダンの挑戦
学園が始まるまでには少しだけ時間があり、ボクはバルと共に学園の敷地でモーニングルーティーンを行うことにした。
側には専属メイドとして、学園にやってきたクウが控えている。
朝から付き合わなくてもいいと言ったのだが、問題ないと言うのでそれ以上いうことを止めた。
ウサギ耳美少女メイドに見つめられながら、バルといつもの体術から魔法への連携を駆使した戦いをする。
最近は、身体をバルに預けっぱなしにするのではなく、ボク自身でも魔法を発動しながら体術を使うようにしている。闘気を使うためにはその方が都合がいいからだ。
レアメタルバルを圧倒するのも苦ではなくなってきた。
「リューク!」
早朝にしてはやけにデカい声で、ボクを呼ぶのはダンだった。休み前に見たときよりも身体が大きくなり、纏う闘気の量も増えている。
「ダンか……なんだ?」
「俺と手合わせしてほしい」
真剣な瞳で木刀を持っているダン……正直めんどうでしかない。前回、模擬戦をしてやったのは闘気を習得するために必要だったからだ。
今回はやるためのメリットが何もない。
見た目には確かにダンは強くなっている。
だが、戦ったところで得る物がなければやる意味も無い。
「大罪魔法」
「!!」
ダンの口から出た単語にボクは反応を示す。
どうしてダンが大罪魔法を知っているのか……ボクは誰にも話していない……
「やっぱり、リュークが関係しているんだな」
「何のことだ?」
「もしも、俺が勝ったら大罪魔法について教えてほしい」
「負けたら?」
「負けたら、二度と大罪魔法について聞かない」
「それだけじゃ足りないな。誰からその言葉を聞いたのか教えてもらう」
ダンにしては珍しく駆け引きをしてきたことで、ボクは応じることにした。
「わかった」
「いいだろう。一回だけだ。それも、魔法無しで相手をしてやる」
「それでも……俺が不利ってことか?」
「さぁな。お前の努力など知らん」
ボクはバルにも手を出さないように指示を出す。
「これで互いに対等だ」
互いに闘気を纏う。
大罪魔法を口にした以上、どこから仕入れた情報なのか吐かせる必要がある。
前回のように不意打ちで眠らせることも、魔法で吹き飛ばすこともできない。
肉体をバルに預けてもいいが、加減が難しい。
「いくぞ」
「どこからでも来るが良い」
ボクは動くのがめんどうなので、ダンに攻めさせることを選んだ。剣筋は一年前よりも鋭くなり、闘気を纏った一撃は受ければ痛そうだ。
ただ、直線的で真っ直ぐな剣は、変わっていないので読みやすい。
「ぐっ!」
空を切った木刀を振るダンに、足をかければバランスを崩したが、すぐに立ち上がる。
ダンは未だに覚醒前なのを確信する。
ダンには二段階の覚醒が待っている。
一つは、武器による覚醒だ。
ダン専用の武器が、この世界には存在する。
学園のあるイベントで手に入れることになるのだが、それが二年次に起きる。
さらに、もう一つの覚醒は、ヒロインと結ばれた後に起こる。
現時点のダンは、覚醒前のひよこであり、大罪魔法に加えて、バルとの訓練で強化したボクには到底及ばない。
ただ、大罪魔法を知ることも、戦うようになるのも立身出世パートに成ってからのはずだった。
やはり色々とズレが起きている。ダンが大罪魔法を知るには、まだ早い。
「ガハっ!」
腹部に一撃、痛みで前屈みになった腰へカカトを落としてトドメを刺す。
「最後だ」
ボクはダンの首を踏んで決着を口にする。
このまま踏み抜けば殺すこともたやすい。
「どっ、どうして、どうして勝てないんだよ!俺は修行だってちゃんとした。勉強も、魔法も……今までよりもちゃんとやったんだ。それなのに全然近づけなくて、姫様にも負けて……俺は」
ダンの心は折れかけているのかも知れない。
真っ直ぐで素直が故に突き進んでいる道は一本だと信じている。それは壁にぶつかれば容易く進めなくなる。
ハァ~ボクはお人好しだと自分で思う。
闘気をもらい受けたときの礼をしていなかった。
「お前に足りないのは誰かを守りたいと思う心だ」
「えっ?」
ダンは、ヒロインを守りたいと思うことで強くなる。
ヒロインと結ばれることで本来の力を覚醒させる。
だが、今のダンはエリーナと同じで、自分のことばかりで他人を見ていない。自分だけを鍛えても意味がないのに。
「それ以上……ヒントはやらん。自分で考えろ」
「ヒント?考える?」
「ダン、お前はまだまだ強くなれる。だが、今のやり方を続けていても強くはなれない」
「姫様と同じことを」
姫様?どうしてここでリンシャンが出てくる。
「姫様が言っていたんだ。大罪魔法を知った。領域を越えなければ動乱を生き残れないって、それは今までのやり方では無理だって」
ハァ~結局、自分で巻いた種だったか……リンシャンはカリギュラ・グフ・アクージを倒した光景を一番近くで見て感じとったのだろう。
そして、自分なりに調べたか……
「聞きたいことは聞いた。後は自分でどうにかするんだな」
ボクはそれ以上、ダンに語ることはないと告げて立ち去った。
クウにタオルと着替えを用意してもらってシャワーを浴びる。貴族寮を取り仕切る現在の主はアイリスお姉様だ。他の領の者を招き入れても、ボクに何かを物申す者はいないので気楽なものだ。
「なぁ、ダーリン。もうすぐ、学園が始まったら例のイベントが始まるやろ?メンバーはここにいる皆でええんかな?」
アカリの言葉で、ボクは二年次に行われる強制イベントについて考えて深々と息を吐いた。
「……ああ、チームは最大6人までだからな、ボク、アカリ、リベラ、ミリル、ルビー、クウで問題ないだろ」
「よっしゃ、それで申請しとくわ」
まためんどうなイベントが始まるな。
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