第70話 船上のパーティー 2

《Sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》


 豪華客船ドレイスク号のスイートルームにて、結婚相手となる家の者たちが集まり顔合わせを行っていた。

 上座には父上が上機嫌で、アクージ家当主、ブフ家当主へ話しかけていた。


 我々は父上の話を聞くという構図がずっと続いている。


 我の隣にはアイリスが座り、つまらなさそうに食事を口にしていた。


「ここからは我々で話すとしよう」


 話が盛り上がったこともあり、アクージ侯爵家当主とブフ伯爵家当主を連れて、父上が退出していった。

 父上が退出すると、母上たちも早々にお茶会と言う名の飲み会にいってしまう。


 部屋には我を含めた四人だけが残された。


「お兄様、婚約者様方とお話もあるでしょう。私は自分の部屋へ戻りますね。失礼」

「ああ、わかった」


 我に礼を尽くしたアイリスは、年々美しさを増していっている。男など寄せ付けない美しさは、父上もどこへ嫁がせるのか悩んでおられるようだ。

 それでも20歳までには決めねば行き遅れと言われてしまう。


「あの、テスタ様」


 思考を巡らせる我に話しかけてきたのは、アクージ家のビアンカだった。

 エキゾチックな黒の衣装に身を包み。鍛え上げられた身体とは裏腹に、凹凸のしっかりとした女性らしい曲線を持つ美しい女だ。

 だが、美しいだけでなく戦争一家という家に恥じない実力を兼ね備えていることは、対峙していれば理解できる。美しくて強いなど妬ましいことだ。


「なんだ?」

「お仕事のお話をしても?」


 ビアンカはチラリと隣に座るサンドラは視線を送る。

 人形遊びをしながら虚ろな瞳をしている女を見る。

 ブフ家のサンドラはヒラヒラとした真っ白なドレスに身を包み、一度も目を合わせない。

 だが、精神が病んでいるわけでも、弱いわけでもない。

 我とサンドラは昔馴染みであり、この女を我はよく知っている。


「気にしなくて良い。話せ」

「なら、いいますけど……貴族派の裏切り者たち及び、リューク派の人間の暗殺は滞りなく進んでいます」

「ふん。別に暗殺しなくてもいいものを」

「デスクストス公爵様からの依頼ですので」


 なんとも傲慢なお人だ。

 成長するにつれて目立ち出した愚弟は、あまりにも目に余る行動をとり続けた。

 子供の頃は醜かった容姿を。いつの間にかアイリスと並ぶ美しさまで引き上げた。

 一年生でありながら剣帝杯では、アクージ家の者を退けておきながら決勝には出場しないために降参を宣言したことで、観ている観客たちから名声を上げた。


 それだけではなくデスクストス公爵家に次ぐ力を持った五行家の一つであるネズール家を味方につけたことが、父上の傲慢さを刺激してしまった。


 カリビアン伯爵家に婿養子に出るだけなら許されたはずだったのに、二家がリュークの味方になっては色々と目に余ると父上は考えたようだ。


 我からすれば父上から目障りだと感じられる存在になったことに嫉妬を感じるがな。


 ネズール家は、デスクストス公爵家にとっても情報源であり、収入源であり、貴重な人材であることは間違いない。父上としても穏便に済ませたいということか……


 何もしていないようでカリスマ性を発揮してしまう者はそれだけで害だ。


 貴族派は一枚岩では無い以上、不協和音を生み出す元は絶っておきたい。

 父上が子供の頃に刈り取ろうとしたようだが、任せた執事が失敗して、生き延びた愚弟は今もノウノウと公爵家の名を傘にきて好き勝手に生きている。


「それで方法はどうするつもりだ?」


 リューク自身を殺せなくても、リュークの周りの者ならば手を出すことは容易いはずだ。我個人としては妬ましくはあるが、愚弟であり、アイリスと同じく愛苦しい存在に間違いがない。


 だからこそ、ネズール伯爵の長男を失えば、伯爵もリュークも理解出来るだろう。逆らう事が無駄であると。


「闇と爆弾の二つを用意しております」


 仕事が出来る女は嫌いではない。ビアンカは妃として迎えたが、秘書として裏の仕事を任せることも多くなるだろう。


「抜かるなよ」

「はっ!」


 最終調整のためにビアンカが部屋を出た。

 サンドラと二人きりになり、我はサンドラを見る。


「サンドラ」

「ッッ!!」


 この女は昔からこうだ。我の加虐心を刺激する。


「こい」

「……はい」


 我はサンドラと共に自らの部屋へと入っていく。


 ベッドに座らせたサンドラを見下ろして、冷たい視線を向ける。


 ただ、見ているだけだというのに……


「ハァハァハァ」


 息を荒くして顔を赤める、サンドラはモジモジと太ももを擦り合わせ始めた。


「お前は昔からいじめられるのが好きだったな」


「……テス……タ……サマ」


 先ほどまで虚ろだった瞳は潤んで、我を求めるように唇を寄せてくる。


「やめろ」


 サンドラの思うとおりにはに触れさせない。

 ああ~狂おしいほど嫉妬深い。

 こいつはどうしてこうも愛苦しいのか!そっと、首に手を添える。


「ハゥッ!」


 顔を朱に染め、小さな声で呟く。


「お慕い……申して……おります」

「ふん」


 我は時間が来るまでサンドラと過ごした。



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