第69話 船上のパーティー 1
豪華客船ドレイスク号……。
貴族の栄華を象徴するように、デスクストス公爵家の財力によって作り出された船は、年越しの今宵、悪の貴族たちが集まった怪しげな密会を始める。
テスタ・ヒュガロ・デスクストスの結婚発表は表向きとして、デスクストス公爵派と呼ばれる貴族派のものたちは、我こそは悪だと煌びやかな衣装を身に纏って、数百名にも及ぶ人々が集まってくる。
それはそれぞれの思惑が交錯する。
ドロドロとした緊張感がそこかしこから漂ってきていた。
「なんてね」
「リューク様?一人で何を言っているんですか?」
乗船を待つボクはヒマ過ぎて一人語りをしてしまったよ。バルの上なのでしんどくはないけどヒマだね。
「シロップは今日も一段と綺麗だね」
「もっ、もう着替えたときにも言われましたので……」
シロップは動きやすい姿がいいと言うことで、グレーのタイトなドレスを着ている。背中は大胆に開かれ、腰は引き締まって、スリットが入った隙間から綺麗な足が見えている。上着を脱いだらスゴイ。後で触らせてもらおうかな……
「何度でも言うよ。シロップは綺麗だ」
「もう、もう、おやめください」
シロップは顔を赤くして手で隠してしまう。
本当に可愛い。
「羨ましいにゃ」
「うん?ルビーも可愛いぞ」
グリーンのロングチャイナドレスを着たルビーは、耳を隠すために大きなリボンを頭に付けている。
猫耳を出した方が可愛いと思うが、本人が隠したいということで仕方ない。
「熱量が全然違うにゃ!」
「まぁまぁ、ルビーちゃん」
「ミリルもよく似合っているぞ」
ミリルはピンクのミニスカートのドレスを着ていて美少女のミリルによく似合っていて可愛い。
最近は肉付きも良くなってきて、薄幸の美少女から元気な美少女へ成長を遂げた感があるな。
「あっ、ありがとうございます」
褒められてニヤニヤしているミリルは面白い。
美女と美少女を引き連れて、船上へと上がっていけば、デッキには人で溢れていた。
豪華客船は年越しパーティーのために陣営を集めて顔合わせを含んでいる。
誰が、誰なのか、ボクにはわからないけど……
「リューク様、ご挨拶がしたくてお待ちしておりました」
「タシテ君も来てたのか」
「もちろんです。父はデスクストス公爵様のところへ行かれております」
「ああ、父上もいるのか」
そりゃそうだ。いくら主役が兄上の結婚発表でも、公爵家の代表であり、このパーティーの貴族達を集めたのは父上の権力だからな。
「リューク様はカリン様の元へ?」
「うん。ボクはまだ着替えもしてないからね」
普段着で来ているボクはTPOからはかけ離れているので、逆に目立っている気がする。
「そのお姿でも十分だと思いますよ」
「うん?そう?」
タシテ君は恭しくそんなことを言ってくれる。
「アイリス様やリューク様は、存在自体が宝石のようですので」
王国の秘宝と言われている姉様と比べられるのはちょっと変な気分だけど、まぁそれくらい見た目が派手ってことかな?
「まぁ、タシテ君もパーティーを楽しんでね」
「はっ、また後でお側に」
ボクはカリンの元へ向かうために出迎えてくれたタシテ君と別れた。
事前にカリンに伝えられていた客室へと赴くと、カリビアン伯爵とカリンが待っていてくれた。
「よくぞ来たな。婿殿」
「本日はお世話になります」
カリンはボクの連れを奥へ連れていって準備を始める。
「よいよい、デスクストス公爵家の権力に、それぞれの派閥……貴族派と言いながらも、一枚岩ではないのだ。それぞれの思惑があるさ」
どこか疲れた様子を見せるカリビアン伯爵は、今回のパーティーで食事やスタッフの管理を担当している。
警護などは置かず、それぞれの貴族にボディガードが付いている。さすがに悪の集まりを襲撃するバカはいない。
だが、先ほどカリビアン伯爵が言った通り、派閥争いによる暗殺を目論む者がいるので、スタッフは凄腕を雇って怪しい者を見極めているので、カリビアン伯爵も神経をすり減らしているのだろう。
経営者としては優秀な人だけど、こういう政治が絡む場はあまり得意ではないのかもしれないな。
「さて、私は先に準備に戻らせてもらうとしよう。会場は展望ダンスホールだ。時間には遅れないように頼む。また後でな」
豪快な見た目とは違って、色々なところに気を遣ってくれる良いお父様だ。
「お父様もご無理をなさらずに」
戻ってきたカリンにお見送りされて、お父様が部屋を出た後、残された女性たちがボクを見る。
「それでは主様のご準備をさせて頂きます」
カリンのメイドさんたちまで目をキラキラさせている。ハァ~ここからはボクの着せ替え人形タイムが始まるらしい。
赤や黄色、紫に白……タキシードって色々な色があるんだね。
どれを着ても……
「似合います!主様」
「リューク様素敵です!」
「かっこいいにゃ!」
「いいわ。リューク、次はこれを!」
キャッキャッと女子たちが騒がしい。今日は兄上が主役だからね。ボクは目立っちゃダメなんだよ。なんでこんなにもカラフルなの?普通に黒とかでいいと思うよ。
「いいわ」
「そうですね。主様最高です」
「しっくりくるにゃ」
「リューク様カッコイイ!」
四人がやっと納得してくれたのは、ブルーに近い紺色のタキシードだった。
まぁ、確かにこれなら目立たないからいいかな?
「服がシックな分、リューク本来の美しさが際立っているわね!」
「主様が、着ればどんな衣装も似合いますが、これほどとは」
「お膝に乗せてもらって頭を撫でてほしいにゃ」
「リューク様カッコイイです!あっ、涙が幸せ!」
少しだけメイクもしましょうね。
成長するにつれて、くすみもなくなってファンデーションはそこまで必要ない。
メイクは眉を整えて、目元をきりっとするようにするだけでも顔つきが変わって見える。
「うん。こんなものでどう?」
ボクが完成した姿を見せると……
「ふぅ~!!!」
ミリルが倒れた。
「しっかりするにゃ、ミリル!意識を失ったらリューク様を見ることができなくなるにゃ!」
「わっ、私、頑張る」
「ふっ、まだまだですね、ミリル」
「あら、シロップ。あなたの尻尾も凄くブンブン振られているわよ」
まぁ、反応はいいのかな?
―――コンコン
扉がノックされ
「失礼します。こちらにリューク様、カリン様がおられると聞いて」
メイドさんに連れられて入ってきたのはリベラだった。
水色のスレンダードレスを着たリベラは、いつもと違う化粧をして、綺麗な姿をしていた。
知的美人というのはリベラのことを言うのだろう。
「りゅっ、リューク様しゅてき過ぎ!!!」
リベラはボクを見ると、叫び声を上げて倒れた。
うん……綺麗な姿が台無しだね。
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