第61話 一年次 剣帝杯 8

《烈火の乙女》リンシャン・ソード・マーシャル無頼漢カリギュラ・グフ・アクージ。


 控え室でのカリギュラの態度もあって、ボクは二人の試合を観戦することにした。


「珍しくモニターではないのですね」


 リベラとタシテ君もボクの後ろに控えて見守っている。


「リンシャン様がご心配であれば」

「タシテ君。これは彼女の試合だからね。邪魔したらダメだよ」

「かしこまりました。お望みのままに」

「えっ?邪魔?」

「リベラは気にしないでいいよ。それよりも対戦相手だったリンシャンの試合だけど、リベラは嫌じゃ無い?」


 リンシャンに負けた日の悔しそうな顔を覚えているので、大丈夫かと心配になってしまう。


「全然大丈夫です。もう気にしていません。それよりもリューク様との思い出が出来たことの方が嬉しいです」


 あの日以来、リベラの距離が近い気がする。

 今もバルに乗るボクの隣から離れようとしない。

 柔らかいし、良い匂いがするので悪い気はしないけど、カリンに怒られないか心配だよ。

 タシテ君も普通に側に控えるようになったし、リベラが寄り添っていることが当たり前のような態度をとってるし、めんどうだな〜


「そっか、ならリンシャンが負けるところを見て笑うとしよう」

「いえ、私に勝ったのです!ここでも勝ってほしいです。そして、リューク様にコテンパンにされれば良いのです」


 あれ?やっぱり気にしているよね、それ。


 戦いが始まるとリンシャンが一方的に攻める展開が続いていく。


 それは《烈火の乙女》に恥じない戦い方で、カリギュラ・グフ・アクージを追い詰めて、首筋へと剣を当てた。

 これが戦場であれば首を切って終わるが、リンシャンは試合ということで寸止めした。


「決着だね」


 カリギュラ・グフ・アクージは大したことないな〜と立ち去ろうして、カリギュラが叫び声を上げた。


「終わるかーーーー!!!」


 カリギュラは負けを認めずに、寸止めされた剣を払いのけてリンシャンの腹部へ打撃を加えた。


「グハッ!」

「バカが!これは死合いだぞ!死ぬこともこっちは覚悟してんだよ。寸止めしてんじゃねぇよ!」


 カリギュラの身体から闘気が吹き上がる。

 ダメージを受けたリンシャンが苦しそうに闘気の圧に苦しんでいる。


「ぐうう」


 身動きが取れないリンシャンの頭を掴んでカリギュラが持ち上げた。


「おい、姫さん!死合いを舐めてるのか?所詮、貴様は女だ!」


 カリギュラの拳がリンシャンの頬を打ち、腹を殴打する。ボクは自分でも気づかないうちに拳を握り締めていた。リンシャンが負けるのは、ボクにとっても望ましいことだ。

 あいつはめんどうで、うっとしい女なのだから……


「舐めるなよ!」


 リンシャンが反撃に転じるために、自身の魔力を暴走させる。


「はっ!バカが!」


 それに気づいたカリギュラは、リンシャンを地面に叩きつけて、属性魔法を発動させた。

《速度》を最高まで高める属性魔法を使って、自身の動きを速くして距離を取った。


「一人で自爆してろ」


 リンシャンは暴走した魔力の暴発によって、全身に傷を負って倒れた。

 カリギュラはリンシャンに近づいて鎧に手をかけた。

 ゲームのキモデブガマガエルリュークが本来するはずだった行為をアクージがしていた。


「くっ……こ」


 ハァーそのセリフを言う相手はボクじゃないかな……ボクは自分でも驚く行動に出ていた。


「カリギュラ・グフ・アクージ!!!」


 ボクはバルの上に立って、カリギュラの名前を呼び、怒りを爆発させていた。


「あぁ?なんだ?」


「離せ」


「あぁ?リューク・ヒュガロ・デスクストス。貴様になんの!!!!」


 魔力、闘気、威圧、《怠惰》……、ボクは自分の身体に備わる全ての力を解放して、カリギュラを刺激した。


「くく、なんだよ。力を隠してやがったのか?面白ぇじゃねぇか。いいぜ、マーシャル家のお姫様は貴様にくれてやる。お前の女だったか?デスクストス家と戦争する気はねぇよ。だが、わかってるんだろうな?リューク・ヒュガロ・デスクストス、お前は俺に借りを作ったんだ。明日は必ず俺を楽しませろ。その義務がお前には出来たんだからな。この借りは高く付くぜ」


 カリギュラは両手を挙げてリンシャンから離れていく。

 審判がリンシャンに駆け寄り敗北を宣言した。


 嫌な笑みを浮かべて退出していくカリギュラの背中が見えなくなるまで、ボクは威圧を止めなかった。


「タシテ」

「はっ!」

「ボクの戦いだ。邪魔するなよ」

「お望みのままに」


 ボクは自分でもめんどうだと思うが、久しぶりに自ら手を下す決断をした……


 ♢


《side実況解説》


《実況》「いよいよ四強が出そろいました」


《美の女神》アイリス・ヒュガロ・デスクストス

《無頼漢》カリギュラ・グフ・アクージ。

《美顔夢魔》リューク・ヒュガロ・デスクストス

《剣帝の弟子》ダン


《解説》「ここまで多くの戦いを見て来ましたが、残った者たちは曲者揃いと言った感じですね」


《実況》「はい。ここまで無傷で敵を圧倒してきたアイリス選手の強さは異常と言えるでしょう。カリギュラ選手の強さは、準々決勝のリンシャン選手との戦いで証明されましたね。やはり上級生の強さが際立ちます」


《解説》「上級生にどこまで迫れるか!一年生二人の活躍が見物でしょうね」


《実況》「それでは準決勝第一試合、アイリス・ヒュガロ・デスクストス選手対ダン選手の戦いから見ていきましょう」


 ♢


《Sideダン》


 デスクストス公爵令嬢は、俺が会ったことがある女性の中でダントツに綺麗な人だ。

 ただ、その綺麗な容姿の中に恐さを感じてしまう。

 何より、マーシャル家の敵なんだ。絶対に勝ちたい。


 姫様がカリギュラ・グフ・アクージに負けた以上、俺が優勝してマーシャル家に貢献するんだ。

 本当は姫様と決勝戦で戦いたかったけど……俺が決勝でカリギュラ・グフ・アクージを倒してやる。


 リュークが上がってきたとしても、今度こそ負けない。


「あらあら、子犬が私を見ないで、先のことばかり考えているようですの」


 目の前に現われた紫のドレスを着た令嬢は本当に美しい。ただ、戦闘に来たとは思えないドレス姿に、戦いを舐めているのではないかと思ってしまう。


「悪いが、あなたは眼中にない。すぐに終わらせる」


 俺はカリギュラ・グフ・アクージ、もしくはリューク・ヒュガロ・デスクストスを倒して優勝するんだ。


「そう、なら少しだけ相手してあげるわ。チャームアイ」


 なっ、なんだ。身体の言うことが……き・か・な……


「ポチ、お座り」

「ワン!」


 気づいたとき、俺はお腹を出して負けていた。

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