第60話 一年次 剣帝杯 7

『注意:この話は暴力的な表現があり、気分を害する展開が込められいます。同意なき性描写あり』』


《Sideリンシャン・ソード・マーシャル》


 八強まで残ったことは私にとってスタートラインに立ったことを意味する。

 リベラ・グリコ戦では傷を負ってしまったが、それからの戦いは無難に勝利を収めることが出来た。


 だが、ここからが正念場であることは間違いない。


「良く逃げなかったな。マーシャル家の姫さんよ」


《無頼漢》カリギュラ・グフ・アクージ。身長は私の頭三つも大きく、その巨漢から想像できないほどのスピードを誇る。


 この男を表す言葉は一言


 暴力


 全ての力をその一言で終わらせられる圧倒的な強者。


「黙れ。私は貴様を倒して優勝するために来たんだ」

「けっ、お前如きが俺様に勝てるわけがねぇだろ。あ~あ、弱い奴ほど良く吠えやがる!」

「貴様!私を愚弄するつもりか!」

「別に愚弄はしねぇよ。見た目はいいんだ。こんな大会に出るんじゃなくて、ベッドの上で腰でも振ってれば可愛がってやるぜ」


 私は頭からスーと怒りが引いていくのを感じた。

 リューク・ヒュガロ・デスクストスは、私が思っていたような悪ではなかった。

 むしろ、あいつは……自分の信念を持つ理解できる相手だった。


 だが……目の前にいる男は悪だ。


 カリギュラ・グフ・アクージ……この男だけには絶対に負けない。


《実況》「準々決勝の最終戦は、互いに闘気と武力に優れた武門の家系がぶつかり合います。どちらの家が強いのか?対人を得意とするアクージ侯爵家に対して、魔物との戦線を守り続けるマーシャル家……二つの家は武家として王都中に知られているほどです。楽しみですね」


《解説》「そうですね。《無頼漢》カリギュラ選手は、戦闘の天才ですからね。どこかの流派に属しているわけではなく、戦いの中で培った戦闘技術はここまで圧巻の強さを発揮しています。それに対して《烈火の乙女》リンシャン選手は、正統派のマーシャル流剣術に肉体強化、闘気、属性魔法とバランスがよく。荒削りの戦闘技術に対して正統派です。どちらが勝つのか興味がありますね」


 私は深く息を吐いて精神を整える。


 肉体強化が身体を強化していく。

 闘気が身体を包み込んで全身に充実していく。


「準備は終わったか?」

「ああ。お前を倒す準備は終わった」

「へへ、いいだろう。かかってこいよ!」


 互いに気が高まり合い、私はカリギュラへ向けて剣を振るう。

 真っ正面から向かっても、当たるはずがない。


「おっ!意外だな。搦め手を使うとは」


 私は剣で斬りつけると見せかけて、《炎》の槍で、意表を突く。

 難なく躱されたが、剣での追撃は忘れない。


「ほう、ちった~やるじゃねぇか」


 こちらを見定めるように余裕を見せるカリギュラに、私はふとリベラの奇策を思い出す。彼女にはしてやられた。だけど、その経験が私を強くしてくれる。


 魔法を両手に発動することは私には出来ない。

 ただ、補助魔法だけを使うなら私にも出来る。

 肉体強化を解除して、カリギュラに能力ダウンの魔法をかける。


「なっ!」


 ガクッと膝を折ったカリギュラの首へと剣を当てる。


 余裕を見せていたカリギュラの意表を突くことができた。


 私は勝ったんだ。


 これで終わりだ……



「終わるかよ!」



 カリギュラは負けを認めずに、寸止めした剣を払いのけて私の腹部へ打撃を与えてきた。拳に装着されたナックルの威力は私の鎧を砕くほどの威力を発揮する。


「グハッ!」

「バカが!これは死合いだぞ!死ぬことも、こっちは覚悟してんだよ。寸止めしてんじゃねぇよ!」


 カリギュラから闘気が吹き上がる。

 一撃で大ダメージを受けた私の身体は立ち上がることが出来ずに膝をついて、カリギュラの圧力で押しつぶされそうになる。


「ぐうう」


 カリギュラが無作為に私の頭を掴んで、持ち上げられる。


「おい、姫さん!死合いを舐めてるのか?所詮、貴様は女だ!」


 奴の拳が私の頬を打ち、腹を殴打する。


「グッっ!舐めるなっ!」


 私は全身から炎を吹き出して属性魔法で自爆を仕掛けた。


「はっ!バカが!」


 奴は私の身体を地面に叩きつけて、あり得ない速度で距離を取った。


「なっ!」

「一人で自爆してろ」


 叩きつけられたことで、魔力が暴発して全身に火傷を負った身体が言うことを聞かなくなる。


「くく、口も聞けねぇだろ。喉が焼かれてんだよ。

 ハァ~降参も言えなく成っちまったな。これだから弱い奴はバカだっていうんだ。

 ここからはショータイムだ。公爵令嬢の恥ずかしい姿を観客に見せてやるがいいさ」


 そう言って奴は口もきけない私に手をかける。


 こっ、こんな辱めな扱いを受けるぐらいなら……私は死を選ぶ!


「くっ……こ」


 涙が溢れ出す。


 こんな暴力だけの男に負けたくない……私は……気づいたんだ。

 リュークが私を野蛮人だと言った意味を……武力で解決しようとした自分が恥ずかしい……自分よりも強い力があれば正しい?それは間違いなんだ。


 こんな暴力だけの男に負けるのか?この男が正しいのか?そんなはずがない!リュークは戦闘を否定した。

 だけど、否定するだけの知恵と力を私に課外授業で見せてくれた。


「へへ、いくぜ」


 私の肌は生涯の伴侶になる……一人だけに見せたかった


「カリギュラ・グフ・アクージ!!!」


 ……今一番聞きたくないはずの声が……私の惨めな姿を見ないでくれ。


 私が他の男に無理やり……襲われるのを見ないで……リューク……


「あぁ?なんだ?」


「離せ」


「あぁ?リューク・ヒュガロ・デスクストス。貴様になんの権利が!!!!」


 目が霞む私でも分かる。


 圧倒的な魔力と闘気……この場に剣帝がいるのではないかと思うほどの重圧が会場にいる者全員を威圧する。


 それは、私を辱めようとしていたカリギュラ・グフ・アクージの動きすら止めさせる。


「くく、なんだよ。力を隠してやがったのか?面白ぇじゃねぇか。

 いいぜ、マーシャル家のお姫様は貴様にくれてやる。お前の女だったか?デスクストス家と戦争する気はねぇよ。だが、わかってるんだろうな?リューク・ヒュガロ・デスクストス、お前は俺に借りを作ったんだ。明日は必ず俺様を楽しませろ。

 その義務がお前には出来た。この借りは高く付くぜ」


 アクージが離れたことで審判が駆け寄り、私の敗北が宣言される。


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