第55話 一年次 剣帝杯 2
《リンシャン・ソード・マーシャル》
いよいよ剣帝杯が始まろうとしている。
兄上は、一年生のときに優勝を果たして騎士の称号を得た。
私も出来れば騎士の称号を得たいと考えている。
だが、今年は曲者が多い。
三年生には、第二王子を含めた兄たちのせいで活躍できなかった猛者たちがひしめき合い。
二年生には、貴族派筆頭であるアイリス・ヒュガロ・デスクストス令嬢。さらに侯爵家の無頼漢カリギュラ・グフ・アクージ令息は闘気に長けていると聞いている。
一年生にはリューク・ヒュガロ・デスクストスがいる。
ダンも剣帝の指導を受けてからはメキメキと力をつけてきている。
倒すべき相手は多い。
それでも……私は優勝する!
「リンシャン、随分と気合いが入っているようね」
「エリーナか、それはそうだろう。兄上は一年生で優勝したんだ。私も優勝しなければならない」
「気負い過ぎないことね……この大会には様々な思惑が含まれているのだから」
「わかっている。最近は貴族派の連中が何やら仕掛けをしていると噂もある。エリーナも気をつけることだ」
私はエリーナと分かれて予選が開始される会場へと足を運ぶ。
予選は学園側がランダムで対戦相手を組むため、誰と対戦することになるのかはわからない……戦う会場も、どんな場所で戦うのかも不明となる。
予選大会ですら、映像として残されているため戦闘中での違法行為はさすがに反則を受ける場合がある。
ただ、それが故意ではなく事故であれば、人が死ぬことにも繋がってしまう。
嫌ならば会場に来ないなり、開始の合図と共に降参を宣言すればいい。
実際に、生徒の半分以上が戦うことを放棄する。
自信が無い者達や、貴族の思惑に気づいて裏工作を恐れる貴族たちは早々に離脱していく。
そうして……やっと戦える相手と対峙するわけだが……
「私が初めて戦う相手が貴様か……リベラ・グリコ」
水色のローブを身に纏った魔女。
リューク・ヒュガロ・デスクストスの従者であり、魔法学一年首席。
「リンシャン・ソード・マーシャル様。剣術と魔術……極める道は違えど、求道者としては理解し合える相手だと思っております」
ローブの裾を持ち上げて礼を尽くすリベラ・グリコ。
どこか余裕があり、対面して初めて脅威になり得る相手だと認識した。
「どうぞ、お手柔らかにお願いしますね」
「手は抜かん」
リベラが杖を私が剣を構える。
♢
《side実況解説》
《実況》「さぁ、今年も始まりましたアレシダス王立学園 剣帝杯。多くの生徒が離脱を表明するなかで、戦闘に応じる生徒は腕に自信がある者達です。本日は王都各地で戦闘が行われているわけですが、本日の注目選手について解説をお願いします」
《解説》「本日、対戦が組まれた選手で大注目となるのは、マーシャル家のリンシャン様でしょう。四年前は兄であるガッツ選手が一年生で優勝を飾っています。妹君であるリンシャン様も《烈火の乙女》という二つ名がついていますからね。楽しみですよ」
《実況》「《烈火の乙女》ですか?」
《解説》「はい。リンシャン選手の髪色が赤いこともありますが、その美しさと戦い方にも由来していると言われています」
《実況》「それは対戦相手が気の毒ですね」
《解説》「いえ、そこは戦闘に応じた実力者です。相手もまた《水連の魔女》と呼ばれる《水》属性魔法を使うリベラ・グリコ選手が相手です」
《実況》「なるほど、その二人の対戦が行われるので、注目のカードということですね!」
《解説》「はい。今年は《無冠の王子》、《美の女神》、《無頼漢》、などの上級生たちも控えていますので楽しみな年です」
《実況》「それでは、本日は《烈火の乙女》リンシャン・ソード・マーシャル
♢
《sideリベラ・グリコ》
リューク様……私に力を……私は対峙するリンシャン・ソード・マーシャルを見据えた。
「それでは行きます」
最大限まで集中して、リューク様に教えて頂いた魔力吸収によって体内に魔力が充実していく。
「《水》よ」
私は魔力の半分を使って、作れるだけのウォーターアローを作り出した。
「なっ!なんだその数は!!!」
自分でも驚いてしまう。
今までウォーターアローは制限をかけていたと言っても、3本しか同時に出したことはない。魔力の消費が激しいからだ。
魔力を温存しながら戦わなければならない魔法使いは、肉体強化のために魔力を残しておかなければならない。
魔物と戦う場合や、相手の攻撃を避けるためにも魔力を使うため、常に魔力をセーブして温存しなければならない。
しかし、攻撃に集中して魔力を使うことが出来たなら……リミッターなど簡単に外すことができてしまう。
「それではいきます……百本の水矢を全方位から受け止められますか?」
腕を振り下ろせば、リンシャン・ソード・マーシャルへ向かって四方八方から水矢たちが襲いかかる。
矢を放った後は魔力供給をしなくてもよくなるので、すぐさま魔力吸収のために集中を始める。
リューク様は魔法を放ちながら吸収を行えていましたが、私には同時に二つのことはできない。
それでも大量の水矢で弾幕を張れば、近づかせずに倒すこともたやすい。
「舐めるなぁ!!!」
吹き上がる火柱は、向かってくる無数の水矢を蒸発させる。
「噂は本当だったのですね」
「私は二つ目の属性魔法を覚醒させた。私の《炎》で貴様の《水》など蒸発させてやる」
リンシャンが、レベル20に達して《炎》の属性魔法を得たことはリューク様の研究途中で聞いていた。しかし、魔法で私は負けるわけにはいかない。
「リンシャン様……あなたは確かに二属性持ちになり、この半年間で武術を磨いて闘気を習得したのかもしれない。それでも……私はあなた以上の人に様々なことを教えて頂いたのです」
リューク様と過ごした時間は、レベルを上げることよりも充実した日々で楽しかった。
「魔女よ。魔法が通じない相手にどうするというのだ?」
剣を構えて肉体強化を施す相手に、魔力の充実を感じた私は先制攻撃を仕掛ける。
「なっ!」
「私が近接戦闘ができないと思いましたか?」
肉体強化をかけた自らの身体で、杖を振りかぶって突っ込む。
意表をついた動きだったが、武術はあちらが上、そんなことは分かっている。
だからこそ……!
「デバフ魔法ウォーターチェーン、ウォーターランス」
私は杖を投げつけて、空いた両手で別々の魔法を作り出す。
相手の肉体を弱体化させる魔法で動きを鈍らせて、ランスで攻撃を仕掛ける。
「なっ! 別々の魔法を同時にだと!」
リンシャンにかかっていた肉体強化が効力を失って動きが遅くなる。
水矢よりも大きな水の槍が、至近距離から鎧を貫く。
「器用だな」
「あなたは痛みを感じないのですか?」
脇腹に刺さった水の槍……しかし、私の首元には当てられた剣が、いつでも命を刈取ることが出来る。
「降参です」
肉を切らせて骨を断つ……やられました……完敗ですね……。
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