第56話 一年次 剣帝杯 3

《Sideタシテ・パーク・ネズール》


 私の名はタシテ・パーク・ネズールと申します。

 伯爵家に生まれ、将来は小さな領地を受け継ぐことが決まっています。

 ただ、ネズール領は他の領地と違って岩場ばかりで生産性が乏しく……荒野に領地があるような土地です。

 それでも、貴族は王国へ税を納めねばなりません。


 そのため領地に住む民を食べさせることもままならず……日々貧しさとの戦いだったと子供の頃は父から聞かされていました。


 しかし、現在のネズール領はある方の助けと、父の努力によって一つの事業を成功させることができました。

 そのため現在はお金に困ることなく、民に満足いく生活を送らせてあげられるようになったそうです。


 王国一のテーマパーク、《ネズールパーク》


 エンターテインメントを追求したことで、娯楽と癒やしを提供する遊び場を荒野の真ん中に作り出したのです。


 子供たちが楽しく遊べる遊園地……キモ可愛いキャラたちが、子供たちを出迎えて楽しませるのです。子供たちだけではありません。

 大人の社交場と言われるカジノや、ショー劇場を作ることで、子供も、大人も、領に来れば現実を忘れられるようになりました。


 それもこれもデスクストス公爵家が支援をしてくれたからだと、父には言われていました。


 だからこそ、私はデスクストス公爵家へ絶対の忠誠を誓って、アレシダス王立学園へ入学してきました。

 同い年であるリューク様の手足となるため、入学前から勉学に魔法、戦闘術や礼儀作法など同じクラスになれるように努力を続けてきました。

 その成果が出て0クラスで入学することが出来たことは私の誇りです。


 そんな私はリューク・ヒュガロ・デスクストス様に仕えるのだと、自分に言い聞かせてきました……しかし、本人を見て私は自分に言い聞かせていたなどという言葉がバカらしくなるほど平伏したい気持ちになりました。


 その美貌は、姉であるアイリス・ヒュガロ・デスクストス様にも負けぬほど美しく。

 魔法は学年で二番目の成績を収め、戦えば騎士として育てられた騎士の子を体術で圧倒する。


 その所作には無駄がなく、いつも寝ていてやる気がなさそうなのにテストでは高得点を取れてしまう。


 なんと……完璧な存在なのだろう。


 私はリューク様の一挙手一投足に目を配り、洗練されていることに気付きました。

 リューク様を見る度に自然と涙が浮かぶほど感動してしまうのです。


 リューク・ヒュガロ・デスクストス様から、いつでもお呼びがかかっても良い様に己の研鑽を積み続けました。


 そんな時です。


 アクージ侯爵家の者から声をかけられたのは……アクージ侯爵家はあまり良い噂を聞きません。

 荒くれ者集団……傭兵貴族など……王国が行う他国への戦争行為を請け負う家柄で、同じ貴族家ではありますが、あまり関わり合いになりたくない相手です。


「おい、お前だなネズール家の者は」


 そう言って声をかけてきた上級生は、あまりガラの良い生徒ではありません。

 アクージ侯爵の手下であることはわかりますが優雅という言葉がここまで似合わない人に私は初めて会いました。


「何か?」

「カリギュラ様が貴様をご指名だ。カリギュラ様の邪魔になる一年生に毒を盛れ」

「……何故、私がアクージ家のお手伝いを?」

「はっ、貴様は裏では有名だからな。貴様の家がしていることはデスクストス公爵家の犬だ」


 我が家をバカにするような物言いに……私は拳を握り締め、どうやってやり返そうか考えていると……


「ねぇ?何しているの?」


 そう言って声をかけてきたのはリューク様でした!!!

 上級生もクッションで空を飛ぶリューク様の事は知っていた様で、すぐに立ち去っていきました。


「これはリューク様!」


 挨拶をしたことはありますが、こうやって二人で話すのは初めてのことです。

 私はすぐに膝をついて礼を尽くしました。


「そういうのはいいよ。同級生じゃないか」

「ですが……いえ、リューク様はそういう方なのでしょう」


 なんと寛大なお方なのだろうか……高貴な方であるはずなのに、偉そうなところが全くない。


「うんうん。それで?今のは何?」

「あれはアクージ侯爵子息様のお付きの者です」

「アクージ侯爵子息?」

「はい……えっと、剣帝大会の裏工作について……」


 私が言い淀むとリューク様は色々なことを察した顔をされていました。


「あ~そういうこと……それで?アクージ君は君に手伝えと?」

「はい……今年の有力選手に毒を盛れと……しかし、私はそんなこと……」


 私はリューク様のためであれば喜んでします。

 ですが、アクージ侯爵のために動くなどしたくない。


「ねぇ、タシテ君」

「はっ、はい」

「君はボクの手下?それともアクージの手下?」


 問われている意味が頭の中で理解できると共に、私の胸が熱くなっていくのを感じました。


「手下?あっ、はい。私はリューク様のために」

「うん。なら、アクージの言うことは聞かなくていいよ。もしも何故だと言われたらボクの命令を聞くからって言えばいいから」

「そっ、それはリューク様が、裏工作を?」

「うーん、まぁそうだね。だからタシテ君はボクの手伝いをするから無理って言っちゃって」


 これはリューク様自ら私を守ってくれるだけでなく、リューク様の願いを叶えてみろと言う、私へのご命令なのでしょうか?


「はっ、わかりました。このタシテ・パーク・ネズール。リューク様に忠誠を」


 わかりましたよ。リューク様!私は今、感動しております。やっと私をあなたの手下として使ってくださるのですね。


 今日までこのタシテ・パーク・ネズール。

 リューク様にお仕えするため様々なことを学んできました。


 その全てを使って、リューク様の願い叶えてみせましょう。それが裏工作であれ、人を蹴落とす汚い仕事であれ、必ず成功させてみせます。


 お望みのままに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る