第54話 一年次 剣帝杯 1
《アレシダス王立学園 剣帝杯》
アレシダス王立学園に在学する生徒のみが参加できる武術大会。
王都内で観覧が出来るように工夫がされていて、この時期には巨大なモニターが王都中に設置される。
剣帝杯、それは本来四年に一度、開かれる王国最強を決める戦いである
アレシダス王立学園 剣帝杯は、学生版の剣帝を決める大会として毎年年末に開かれている。
学生版ではあるが、王家から一代限りの貴族職として騎士の称号が与えられる。
騎士の称号を授かった者は、有事の際に王国から要請があれば協力する義務が生じる。
有事が起きなければ仕事は自由に選択しても良い。
何をしていても、給金と年金は王国から支給されることが決まっている。
例え仕事が出来ない身体になったとしても、生涯保証が受けられる。
騎士の称号を得た者だけに、名誉と賞品が与えられるチャンスなのだ。
それは毎年、学生たちの意欲を高めるだけのものではない……
剣帝杯のルールがそれを許さない。
武器、魔法……なんでもありの異種格闘技戦。
己の力を全てを使って、相手に勝利することこそが正義とされる。
例え、毒を使おうと裏工作をしようと、それが己の力の範囲であれば問題はない。
力……それは人によって認識は変わるのだから……
騎士とは時に非情であり、時に任務のためであれば、どんな卑怯なことでもしなければならない。
毎年、裏工作を試みる者が現われるが、勝つ者は全ての工作に対して打ち勝つ者だと言われている。
《清廉潔白などクソだ!負けることは王国に恥をかかせることとして知れ!》
現剣帝アーサーが発した言葉である。
♢
《sideリューク》
年末へと近づくにつれて学園全体は賑やかな雰囲気へと変わっていく。
それは学園にトドまることなく、王都全土が盛り上がる。
四年前ガッツ・ソード・マーシャルは一年生のときに騎士認定を受けた。
三年前テスタ・ヒュガロ・デスクストスは二年生のときに騎士認定を受けた。
第一王子は王族ということもあり騎士にはなれないが、三年生のときに決勝まで進んで力を示した。
優秀な三人の実力者が力を競った三年間は王国でも話題になった。
そんな優秀な三人が卒業した今年……新たな英雄の誕生を皆が待ち望んでいた。
「リューク様、剣帝杯名物まんじゅうだそうですよ」
リベラがアンマンを買ってきて渡してくれる。
焼き印で剣帝杯と印字されている。
「こういうのを便乗商法って言うんだろうね」
「美味しいです」
幸せそうな顔をするリベラを見れば、これはこれで人を幸せにするからいいのだろう。
剣帝杯は、全学年全生徒が強制参加するため、三年生が有利に思える。
しかし、戦闘能力を高めるだけでも、魔法を鍛えるだけでも、属性魔法が強力でも最後まで勝ちきれることはできない。
そこには生徒だけではなく、大人達の黒い工作や、裏で行われる賭け事が関係しているからだ。
だからこそ有力貴族の子供達は己が優勝に絡める実力がないと思えば、身を引く者は素早く。それを知らない平民はバカ正直に戦いを挑んでしまう。
行方不明者が出てしまうのも、強いだけのバカが己の実力だけで成り上がれると思っているからだ。
まぁ、これもキモデブガマガエルのリュークが暗躍するために作られたルールなので、ゲーム仕様ということなんだろう。
ボクは裏工作は何もしないけどね。
「リューク様は騎士に興味がありますか?」
「興味はないよ。だけど、働かなくても給与と年金をもらえるからなってもいいかな」
「そんな理由なんですか?」
「ボクは将来的にはカリンの夫になって働かないつもりだからね。まぁ、給金よりも騎士の義務は邪魔でしかないから成りたくはないけどね。
怠惰な日々を送る際には、本を自由に買うためのお金ぐらいはもらえるような状況は作りたいかな?」
カリンは商売も上手いので、働かなくても好きな物を買ってくれそうだけど……まぁその辺はもう少し大人になってからかな。
「そろそろ行きますね」
「ああ、リベラはどうするんだ?」
「もちろん、自分の力を試すために頑張るつもりです」
「そうか、ケガはしないようにね。君の綺麗な顔に傷が付くのは見たくないから」
「もっ、もうリューク様!そういうことはあまり女性に言ってはいけません」
何故か怒られてしまった。
「でも、ケガはしないようにします」
「うん。もしも、ケガをしてもボクとミリルが絶対に治してあげるけどね」
「ありがとうございます。それではお先に行かせて参ります」
さすがに総数900名の生徒が一斉に戦闘をするわけではない。辞退する者が続出するのは、毎年のことだ。それでも残った者同士で予選大会が様々な場所で開かれている。
リベラは自分の試合が行われる会場へ向かうためにボクの元を離れた。
ボクも試合は少し遅いので、ゆっくりと移動を開始する。ゆらゆらと空の散歩をバルと共にモニターを見ながら過ごす。
「バル、適当な時間に会場までお願い……ハァ~別に参加しなくてもいいんだけど……」
キモデブガマガエルのリュークならば、張り切って大会に臨んでいたことだろう。
自分が騎士になるんだと意気込んで……だけど、実力ではなれないので裏工作に走る三年間……そう言えば、それを実行していたのはタシテ君だったね。
「彼は……うん?あれは?」
ボクが移動していると、タシテ君の姿を見つける。
上級生らしき人物に何か詰め寄られていた。
「ねぇ?何しているの?」
ボクが声をかけると、上級生が慌てて立ち去っていった。
「これはリューク様!」
タシテ君は膝を付いて礼を尽くしてくれる。
「そういうのはいいよ。同級生じゃないか」
「ですが……いえ、リューク様はそういう方なのでしょう」
「うんうん。それで?今のは何?」
「あれはアクージ侯爵子息様のお付きの者です」
「アクージ侯爵子息?」
「はい……えっと、剣帝大会の裏工作について……」
なるほど、キモデブガマガエルのリュークが働かないので、別の悪役が登場したのかな?アクージ侯爵は聞いたことないけど、侯爵だから偉いのかな?
「あ~そういうこと……それで?アクージ君は君に手伝えと?」
「はい……今年の有力選手に毒を盛れと……しかし、私はそんなこと……」
タシテ君はキモデブガマガエルのリュークに気に入られるために悪事を働く。しかし、現在は悪事をすることなく真面目に学生生活を楽しんでいる。
これもボクが生み出した弊害なのかな?まぁどんな相手かは知らないけど、ボクの手下を勝手に使おうとするのは面白くないね。
「ねぇ、タシテ君」
「はっ、はい」
「君はボクの手下?それともアクージの手下?」
「手下?あっ、はい。私はリューク様のために」
「うん。なら、アクージの言うことは聞かなくていいよ。もしも何故だと言われたらボクの命令を聞くからって言えばいいから」
「そっ、それはリューク様が、裏工作を?」
「うーん、まぁそうだね。だからタシテ君はボクの手伝いをするから無理って言っちゃって」
「はっ、わかりました。このタシテ・パーク・ネズール。リューク様に忠誠を」
変なことになっちゃったけど、まぁいいか。
どうにかなるでしょ……何もしないけど……。
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