第48話 課外授業の後始末

《Sideシーラス》


 ダンジョンボスが出現してしまったことで、課外授業は一旦中止されることになった。

 森ダンジョンの調査を含めて、教師陣でダンジョン内の調査を行うことになり、ここ最近のダンジョン内に起きていた異変を知ることになる。


「毎週300の魔石ですって!!!」


 それは学園に併設されている魔物の買い取り所からの報告だった。

 課外授業期間が決まると、練習としてチームでダンジョンへ挑戦する者が増えるのは毎年のことだ。

 優秀な生徒が含まれる際は、ダンジョンボスの出現も懸念されるため、課外授業中は警戒をしている。


 四年前に第一王子が入学した世代でも、ダンジョンボスが出現して大変だった。

 あのときは第一王子を含む、テスタ・ヒュガロ・デスクストスとガンツ・ソード・マーシャルが競い合うように魔物を狩ったことが原因だった。

 しかし、そのときは三つのチームが週末に魔物を狩った数を競い合っていたため、三チームの合計でも精々100体の魔物がいいところだった。


 しかし、今回の買い取り所には、一つのチームが300体の魔石を毎週納品しに来ていた。

 しかも、それに続いて001が50体。


 つまり二つのチームで350体もの魔物を毎週狩っていたことになる。


 他のチームが週末に3、4体程度の魔物を狩っているのが平均に対して、300体は異常な数字と言える。


「いったいどんな方法で?」


 自分がダンジョンに入れば、確かに一日で50体ほどは狩れる自信はある。

 だが、たった四人で300体の魔物を週末の度に狩れるかと言われれば不可能に近い。


「これは事情を聞く必要がありますね」


 厄介な相手だと思うリューク・ヒュガロ・デスクストスの顔が浮かぶ。

 ただ、リューク・ヒュガロ・デスクストスへの牽制として選ばれた、リンシャン・ソード・マーシャルに聞くことができるはずだ。


 彼女から事情を聞けば詳しい話を聞けるだろう。


「家同士の対立を考えれば別々にする予定だったが、あまりにもリューク・ヒュガロ・デスクストスの行動が読めないために急遽変更されたチームだったが功を奏した。何をするのかわからなかったリュークの監視役として彼女はうってつけだ」


 さっそく私はリンシャン・ソード・マーシャルを呼び出すことにした。


 教員室とは別に、学園から与えられている私の研究室へリンシャンを呼び出してきてもらった。


「良く来てくれた。マーシャル君」

「はっ、シーラス先生。失礼します」


 騎士の家系に生まれたリンシャン君は優秀で教師としては扱いやすい。


「うむ。ダンジョンボスが出現したことは聞いていると思う。今、その調査を行っているんだ。みんなに話を聞こうと思っているんだけど、まずは君の話を聞かせてほしい」

「はい。なんでしょうか?」


 やはり教師としては素直な生徒はありがたい。


「まずは、君たちのチームはダンジョンで週末ごとに狩りをしていたね」

「はい」

「君たちは毎週、約300程度の魔物を討伐していたと買い取り所から報告を受けているんだが、どうやって倒したのか方法を教えてもらえるか?」

「方法ですか?」

「そうだ」

「それは……私の口からは言えません」


 意外にもリンシャン君は口を噤んだ。

 いつもの彼女であれば、リューク・ヒュガロ・デスクストス君に突っかかるほどの勢いがあるのに、まるでそれが感じられない。


「何?」

「その行為を実現させたのは私ではありません。ですから、その行為を口にして良いのは方法を考案したものだと考えます」


 くっ、こんなところで真面目な優等生を発揮してなくてもいいと言うのに……


「ふむ。それを考案した人物は誰だ?」

「リューク・ヒュガロ・デスクストスです」


 リューク……また、彼か……ダンも彼へのライバル心を剥き出しにしていた。


「君は彼と対立しているのだろう?彼のことを庇う必要はないのでは?」


 私の言い方が気にくわなかったのか……リンシャン君の顔が険しくなる。


「申し訳ありません。それとこれは別の問題だと考えます」


 彼女はいつもリュークに対しては怒りをぶつけているが、私に対しては初めて怒りを含んだ声で拒否を示した。


「そうか……それではダンジョンボスが現われた際、君たちはどこで何をしていた?」


 私はもう一つの疑問点を聞くことにした。

 あのとき生徒達の位置を把握していたからこそ疑問に思う。002は頂上付近に拠点を構えていた。


「!!!」


 リンシャン君は私の質問に顔をしかめた。

 この子はウソがつけない子だ。

 だからこそ、何かやましいことがあれば隠すことができない。


「もう一度聞く。何をしていた?」

「私は何もしていません」

「私は?」

「リューク・ヒュガロ・デスクストスはダンジョンコアがある洞窟に入っていきました」


 私は息を呑む。


「ダンジョンコアを破壊したのか?」

「いえ、破壊はしていません」

「破壊は……そうか……レアメタルか?」

「はい」

「それで……あのダンジョンボスは、あんな消滅の仕方をしたのか……それに私の魔法が通じたのもコアからの魔力が絶たれて……わかった。君たちがどうやって魔物を大量に討伐したのかは聞かないでおこう。だが、レアメタル採取は問題になるかもしれないぞ」


 私が責めるような瞳を向けると、リンシャン君は覚悟を込めた瞳で私を見た。


「問題はないでしょう。レアメタルは、採取した者に権利があります。

 学園側もダンジョンで採取した素材を魔法実験に使うことを承認しています。

 またレアメタルは採取が難しいため、運ぶ手段、加工技術がなければ悪用も難しいです。

 公爵家のリュークを責めたところで、誰も先生の味方はしないでしょう」


 マーシャル家のリンシャンが、デスクストス家を庇うような物言いに私は戸惑ってしまう。


「君がそんなことを言うとは思わなかったな」

「……そうですね。すいません。失礼なことを言いました。もう話すことがないので失礼します」

「あっ、ああ。構わない」


 リンシャン君は立ち上がって部屋を出た。


「何がどうなっていると言うんだ?リューク・ヒュガロ・デスクストス……貴様は何をしている?ハァ~学園長に報告するしかないだろうな」


 ルビー君やミリル君にも話を聞いたが、リンシャン君以上に話をしてはくれなかった。

 もちろんリューク・ヒュガロ・デスクストス君にも話を聞きたかったが、今は忙しいと学園に現われもしない。


 仕方なく、私は報告書をまとめて、学園長へ報告に向かった。


「ふぉふぉふぉ、そうじゃな今回の件はこれで終わりとしよう」

「何故ですか?」

「すでに事は成った。ダンジョンボスは倒され、ダンジョンは活動を一時的に停止した。生徒たちは無事に帰ってきて、何も問題は無い。

 問題があるとすれば、少しばかり長いダンジョン休止が訪れることぐらいじゃ」


 私は納得できない気がしたが、学園長の言うことも理解できた。


「わかりました」

「ふむ。残りの生徒たちは少し遠いが、王都外の校外学習としておこう。団体でテントを張って騎士団にも護衛を頼むとしよう」

「はい。手配しておきます」


 四年前にも同じ処置をとったことがあるので、処理はそれほど難しくはない。


「面白いのぅ~リューク・ヒュガロ・デスクストス君は……彼のお陰でレベルを上げて自信を持つ者……ライバル心を燃やして強くなろうとする者……敵愾心を燃やしていた者が庇うようになった……彼を中心に周りの心境が変わっていくようじゃ」


 学園長の言葉に私はリューク・ヒュガロ・デスクストスの顔を思い浮かべて溜息を吐いた。


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