第49話 旦那様のお世話

《Sideカリン・シー・カリビアン》



 学園生活は私にとって様々なご学友との出会いを与えてくれて刺激的な日々を過ごせています。授業と生活に慣れることで一年が過ぎてしまいました。

 将来は、お父様のお仕事を手伝いしながら、経営者として、貴族として、恥ずかしくない自分になりたいと思っています。


 ですが、今私が考えることは、旦那様であるリューク・ヒュガロ・デスクストス様のことばかりです。私が二年生になると彼が入学してきました。


 一年近く会っていなかっただけで、こんなにも彼を見てドキドキさせられるなど思ってもみませんでした。

 一年前よりも、より美しく、より逞しく成長されたように感じます。


「カリン?どうかしましたの?」

「はい。アイリス様。どうされました?」

「それはこちらのセリフですの。呆然として、久しぶりに昔のあなたに戻ったみたいですの」

「申し訳ありません。少しだけリューク様のことを考えていました」


 私の言葉を聞いたアイリス様が不機嫌そうな顔をされます。

 最近、アイリス様は侯爵子息に言い寄られていて鬱陶しい思いをしています。

 第一王子との婚約は上手くいっていないようで、それを見越した侯爵子息が横槍を入れてきたのです。


 ですが、アイリス様は侯爵子息のことをあまり好いてはいないようで、まったく相手をされていません。そのため不機嫌な日々が続いています。


 そこへリューク様の話をしたので、ふて腐れさせてしまいました。

 アイリス様は弟君であるリューク様のことを心から愛しておられるのです。

 それもアイリス様の性格が邪魔をしているようで、素直に仲良く出来なくて見ている私は姉弟で仲良くしてほしいと思っています。


「そう。あの子は、姉である私への配慮が足りていませんからね。あの歓迎会の日もいつの間にかどこかに消えてしまっていましたの……最近は、チームを組んだマーシャル家と仲良くしている姿を見かけますの」


 本当は、弟君のことを考えていらっしゃる優しい方なのです。

 ただ、現在は王権派と貴族派で内乱が起きそうなほどピリピリした雰囲気が王国内で膨れつつあります。


 王権派の第一王子との婚約が上手くいかないのも、今回の騒動が原因です。


「課外授業も本日で終わりなので、チームはそろそろ解散ですね」

「そうでしたの?課外授業以降は好きにチームを組めますの。普通は、チームを組んだ相手と相性がいいことが多いからそのままチームで行動しますの」


 アイリス様と私は同じチームだったので、従者をしてくれている二人と共に一緒にチームを組みました。今では四人で上手く連携が取れています。


「マーシャル家など、頭が固いだけで美しくありませんの。早く付き合いなどやめてしまえばいいですの」

「そうですね」


 マーシャル家は王権派なので、アイリス様としては神経を逆撫でするのに十分な要因になっている。


 アイリス様の不機嫌な日々は気になりますが、私としても毎晩私の部屋に会いに来てくれていたリューク様がいない三日間が寂しいのです。

 早く課外授業など終わればいい。そんな願いが通じたのか、一年生の課外授業が二日で終わりを告げたと噂が流れました。


 事情を聞いてみると、ダンジョンボスが出て生徒に怪我人が出たそうです。


 リューク様は大丈夫だと思いますが、無事に帰ってくることを祈りました。


 その日の晩……帰ってきているはずのリューク様は私の部屋へ現われませんでした。


 嫌な胸騒ぎがして寝付くことが出来ませんでした。

 もしかしたらケガをされたのはリューク様では?それならば私へ連絡が来てもいいはずだ。私は柄にもなく朝食の時間に食堂に行ってリューク様を探しました。


 しかし、リューク様の姿はどこにも見当たらず……はしたなくもリューク様のお部屋を訪ねることにしました。


 ――コンコン


「リューク様……居られますか?」


 私は初めてリューク様のお部屋を訪ねました。


「は~い」


 女性の声がして、私の胸が締め付けられる思いがしました。

 私の元にはいらっしゃらなかったのに……部屋へ女性を招き入れている?


 やっぱり婚姻前なので、浮気をしているのでしょうか?私が嫌になってしまったのでしょうか?


 開かれた扉から出てきたのは目の下にクマを作った疲れた女性でした。

 リューク様の好み?の女性なのでしょうか?美しいとは言えない女性です。

 いえ、元は良いと思うのですが……残念な美人?くたびれた女性?


「あっ!これはカリン様!すみません。こんな格好で!」


 あれ?この声は聞いたことがあります。

 女性は急いでメガネをつけて髪を整えました。


「あっ!あなたはリベラさん?」

「はっ、はい。すみません。カリン様にこのような姿だとは知らず、身嗜みを整えずに出て来てしまい申し訳ありません」

「そっ、それも問題ですが、どうしてあなたがリューク様のお部屋に?まさか!」

「違いますよ!決して不貞行為をしているわけではありません!」


 直ぐに否定してくれたのですが……


「リベラ、誰?」


 そういって部屋の中からシャワーを浴びたリューク様が出てきました。


「リューク様!!!」

「あっ、カリン。わ~カリンだ」


 そう言って上半身裸で抱きついてきました。


 ハウッ!ずっ、ズルいです。


 リベラさんと浮気していて、私に抱きつくなど。


 あ~ダメです。泣いては……涙さん止まってください。


「あ~多分、誤解してるよね。リベラは魔法実験の手伝いをしてくれているだけだよ」

「えっ?」

「カリン。部屋の中に入って」


 そういって私の手を取ったリューク様に招かれて扉を開くと……


「汚い!」


 部屋中に紙の山が乱雑に積み上がっていました。


「ははは、リベラがこれでも片付けてくれたんだけどね。とりあえず寝てなかったから、今シャワーを浴びて食事に行こうとしてたんだ」


 私は……だらしなく笑っているリューク様のことを知っています。


「リューク様……一つ質問をしてもいいですか?」

「な~に~?」

「お食事はいつ取りましたか?」

「えっと……帰ってきたのが昨日だから……その朝には取ったよ」


 リューク様には……やっぱり私がいないとダメですね。


「ご飯は私が作ります!」

「えっ、でもカリンは忙しいから」

「いいえ、絶対に私が作ります。いいですね?リベラさん」

「はっ、はい!良いと思います」

「よろしい。リューク様。魔法の研究をなさるんですよね?」

「うん。しばらくはそのつもり」

「わかりました。その間は、私がご飯を作って持ってきます」

「えっ?いいの、嬉しいけど」


 リューク様はほったらかしにしていると、家からほとんど出ません。

 婚約してからは、私が手を引いて外へと連れ出さなければいけませんでした。


 私は一年ぶりに甘えてくれるリューク様によって忘れておりました。

 リューク様は基本的に、とてもめんどくさがりな人なのです。

 一つのことに集中すると、他のことが全く見えなくなって他のことを全くしなくなります。部屋の掃除も、睡眠も、食事もしなくなってしまいます。


「料理や多少の身の回りのお世話は私が致します。リベラさん。あなたの分も料理を用意しますので、研究に集中してくださいませ」

「はい!」

「よろしい。それでは環境作りからです。まずはここの片付けをしておいてくださいませ。私は料理を作って参ります」


 私の迫力に負けたのか……二人は素直に「「はい!!」」と返事をして敬礼してくれました。


 旦那様のお世話は私がします!!!

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