第47話 魔法実験
ダンジョンから持ち帰った鉱石を目の前にして、ボクの心は浮き足だっていた。
手に入れたオモチャを、どのようにして遊ぶのか、それを考えるだけで心がウキウキとして気持ちが定まらない感覚に似ている。
早く遊びたい、早く作りたい。
今のボクはそんな気持ちでいっぱいになっていた。
ダンジョンコアから切り取った鉱石は、レアメタルと呼ばれる貴重な鉱石だ。
魔法との相性がもっとも優れた鉱石だと言われている。
武器などを作るならミスリルが有名だが、レアメタルは特殊な魔導具を作ったり、高性能の魔導器具の心臓部として使われている貴重な鉱石なのだ。
「それじゃあ早速行くぞ」
ダンジョンコアの使い方は、別に難しいことはない。
魔法陣を刻み込むことで使うことが出来る。
ただ、何重にも魔法陣を編み込めるかは、制作者の技量に寄るところが大きい。
この学園で見たことはないが、ドワーフと呼ばれる精霊族は鍛冶仕事や付与魔法に長けている種族で、魔導具の基礎を作り上げたと言われている。
彼らが近くにいてくれれば配下にほしいが、会ったことがないので今回は自分でやるしかない。編み込む魔法陣は綺麗で正確に描かなければ魔法が発動しない。
そもそも武器や魔導具にどうやって魔法を付与しているかという話になるわけだが、魔法を使う際は目に見える形で魔法陣が浮かび上がっている。
それは放つ際に一瞬だけ浮かんでくるものなので、魔法陣をその一瞬で覚えて、魔法陣として転写することは至難の業とされている。
複雑な魔法陣を綺麗に転写することは不可能に近い。
難しい魔法陣は世の中に広がらないのは、転写が不可能だからだ。
属性魔法の転写は特に難しいため、固有魔法程度しか研究が進んでいないのはそれが原因だと言われている。
それも属性魔法として多く存在する《水》や《火》は研究が進んでいるが、必要のない魔法はなかなか研究が進まない。
それでも学園には《遠見》を研究して作り出されたモニターや、《鑑定》を利用したマジックウォッチが作り出されていることから、そういう研究を好んでしているリサーチ先生のような天才がいるということだ。
それではレアメタルまで取ってきて何をしようとしているのか?それがボクにとって本題になる。
答えから言うなら、バルにボディーを与えるためだ。
現在は、魔力を送り続けることで形を維持している。
怠惰と言いながら、魔力を送るということは、ボクにとっては労働をしていることになる。
それは本当の怠惰ではない!!!
怠惰とは、自分では何もしないことだ。
ただ、それではボクがヒマだ。
だから、身の回りの世話や魔法は簡略化していきたい。
それ以外の楽しいことは全部したい。いいとこ取りの人生を歩みたいと思うのは誰しもだろう?
魔力の簡略化の一つとして、バルのフォルムチェンジと統計学を活かしたメモリー機能、再現機能などをボディーへ付与したいと考えている。
そこへ魔力を充電する魔法陣と、命令を聞くように精神を繋げたい。
考えるだけでも多くの魔法を組込まなければならない。
バルにボディー与えることで、ボク自身の魔力消費を減らして労働を極力無くすためだ。
「いきなりレアメタルを使うのは気が引けるからな。まずは……シロップに取り寄せてもらった魔法を組み込めるミスリルで試してみよう」
シロップには事前に魔法陣の調達と、ミスリルを大量に購入してもらった。
鍛冶師や魔導具師などが何年もかけてたどり着く領域、それをいったいどれくらいで成功できるのか?バルの魔法陣を信頼する者以外には公開することが出来ない以上……依頼を頼むこともできない。
「バル、魔法陣を記録しろ」
最初に始めたのは、紙へ魔法陣を転写していく作業だ。
今回は多重魔法陣付与となるので、一つ一つを間違えるわけにはいかない。
ボクが意識を覚醒させて左手に魔法陣を浮かび上がらせる。
それをバルが右手だけで転写をするという作業を行う。
元々、魔力を掌の間で組んで身体に取り込むようにしていたのを、左手一本で実現するのが難しさを感じたので練習をしていた。
ボクはバルを出現させた状態で、魔法陣をくみ上げてバルのメモリーに記録させる。
バルはボクの脳に記憶された格闘技の技術を学習して記録している。
その応用で、魔法陣をボクが作り出して、バルが記録する。
自分では覚えていないのか?と問われるかもしれないが、漠然とした画の記憶を細部まで覚えていられるのか?芸術家などなら、自分の作品を覚えているのかもしれない。しかし、100%完璧に間違いなく描けるか?そう聞かれればボクは出来るとは言えない。
出来る方法があったから、より確実な方法を選んで行ったに過ぎない。
練習で紙に魔法陣を書かせたが完璧だった。
魔法陣に少しだけ魔力を流し込むと小さなバルが誕生した。
「よし、完璧だ」
魔法陣から生まれたバルは、魔力が途切れると消えてしまう。
やはり、魔力消費を続けなければ魔法は消えてしまう。
普通に生活している人たちも、魔力を流すことで魔導具を使うのだが、使いながら魔力を消費する物と、一日分の充電を行って使う物がある。
《充電》の魔法陣はシロップが手に入れてくれたので、何度も充電の魔法が使えるか試しているが、一日分の充電しかできない。
充電の容量を拡大させるための方法を考える実験は必要になる。
「リューク様。そろそろ起床のお時間です」
夢中で実験に明け暮れているとリベラの声で意識を覚醒する。
「もうそんな時間か……」
ボクはいつものルーティーンも忘れて実験に没頭していたようだ。
「あっ、ごめんリベラ。今日は授業を休むよ」
「リューク様?」
扉を開くとリベラが驚いた顔をしていた。
それもそうだ。
いつもなら完璧な姿で、姿を見せるボクが顔も洗わないでボサボサ髪で現われたのだ。
「少し失礼します」
リベラはボクのダラシナイ姿に幻滅するかと思ったけど、ボクを退かせて部屋の中を覗き込んだ。
「なっ!これはまさか、申し訳ありません。失礼させて頂きます」
リベラが強引に部屋の中へと入ってくる。
部屋の中は片付けもしていないので、乱雑に捨てられた魔法陣が書かれた紙と、机の上に置かれたレアメタルとミスリル、これから使おうと思っていた魔法陣のいくつかがおかれていた。
「……リューク様」
「何かな?」
「どっ」
「どっ?」
「どうして私を誘ってくださらないのですか!!!これほど精巧な魔法陣は見たことがありません。それにレアメタルがあるということは何かしらの魔導具をお作りになるんですよね?もしくは魔法を研究されていたんですよね?それは私の得意分野です!」
物凄く食いつかれた。
「あっ、いや……う~ん、つい楽しくて忘れてた」
「ヒドイです、リューク様。私はリューク様の従者です。
リューク様の健康や学園生活を助ける役目があります。それだけではありません。
リューク様が新しい魔法を編み出されるのであれば、お手伝いをする役目が一番できるのは私です!」
魔法狂いに捕まってしまった。
ボクは頭を掻いて、深々と息を吐く。
リベラならバルの魔法陣を見られても良いかな?
「うん。じゃあリベラも手伝って」
「はい!喜んで!」
カリンにも昨日は会いにいけなかったから謝らないとな……。
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