第44話 ダンジョンボス 前編

《Sideダン》


 リベラの慌てる声で目を覚ました俺はすぐに戦える準備をしてテントを飛び出した。


「なんだ!敵か?」

「なんや?うるさいなぁ」


 女子用のテントから、寝ていたアカリが下着姿で現われる。


「あっ、アカリ!」

「うん?ああ、ごめんやで~」


 アカリが俺の言いたいことに気づいてテントに戻っていく。

 俺の脳裏には巨大な二つの山が記憶に残ってしまう。

 姫様は男友達のような感覚なので、女性を感じることはないが、アカリは戦闘が得意ではなくて、女性らしい弱さと無防備なところにドキッとさせられる。

 何よりも、普段の服装に色気があるので目のやり場に困ってしまう。


「ふぅ~用意できたで~」


 そう言って現れたアカリは服を着ていたが大きな山はあまり隠れていない。

 アカリがマジックバックにテントをしまっている間、辺りを警戒して護衛を務める。


「皆さん。魔物です!準備を」


 アカリが片付けを終える頃に、エリーナが現われた。

 どうやらリベラが敵を見つけて引きつけてくれているようだ。


 俺たちが駆けつけた場所には、巨大な魔物とリベラが対峙していた。


「なっ、なんだあいつは!」

「ホンマやね~凄い大っきい魔石やわ~」


 透明な液状生命体の中に魔石が浮かんでいる。

 あまりにも弱点が分かりやすい敵に苦戦しようもないと思うが……


「皆さん気をつけてください。魔法が効きません」

「なっ!」


 ここまで魔法を使ってモンスターを倒してきた。

 最悪な相手だ。それなら俺がやるしかない。


「任せろ!」


 俺は魔物に飛びかかって斬りつける。

 しかし、柔らかそうな液状の身体によって剣がはじき返される。


「なっ、なんだよあの身体」

「だから気をつけてと言ったでしょ。私の杖も、エリーナ様のレイピアも効果がなかったわ」


 打撃も、斬撃も、効かないだって!魔法攻撃も効かがない?いったいどうやって倒すんだ?


「フリーズ!」


 エリーナの魔力が高まり属性魔法を発動する。

 一瞬で辺りの温度が急激に下がって魔物の全身を凍らせる。


「うふぇ~凄いんやね~私にはとてもやないけど、こんなことできへんわ~」


 一瞬で魔物が凍りついて、絶命した?


「やったのか?」

「いえ、まだよ!」


 俺の問いかけにリベラが険しい顔で答える。


「先ほどと同じですね」

「ええ。魔法を使っても、あの身体に傷をつけることが出来ないわ」

「いったいどうすれば?」


 優秀なエリーナが、魔法の知識が豊富なリベラが困っている。


「よっちゃ!任せとき!」


 そう言って前にでたのは、アカリだった。

 アカリは手に魔石らしき物を持っていた。


「みんな下がっといてや」

「何をするつもりだ?」

「ええから、任せて」


 言われるがままに距離を取るが、アカリは魔石を魔物へ投げつける。


「イッタレ~!!」


 アカリが投げた魔石が閃光を上げて爆発を引き起こす。


「なっ!?」


 俺は初めて見る光景に驚く。

 それはリベラやエリーナも同じだったようで、驚いた顔をしていた。


「ドヤッ!」


 アカリの声に煙りが収まると、先ほどまでは効果が無かった攻撃が初めて通った。


「効いてるぞ!」

「まだまだいくで!!」


 アカリが次々と魔石を投げつけて魔物を攻撃する。


 爆炎が収まる頃には、魔物は飛び散っていた。


「今度こそやったのか?」

「どんなもんや!」


 ガッツポーズをしながら飛び跳ねるアカリの胸が弾んでいる。


「アカリ!離れて!」


 しかし、リベラの声でエリーナが動いてアカリを引き寄せた。


「なっ!何するん?」

「見て!」


 エリーナが魔物を指さすと、巨大な魔石が浮き上がって、即座に魔物が再生していく。


「なっ、なんやそれ!特性魔石手榴弾が不発ってことなん?」

「違うと思うわ。効果はある。だけど、相手の再生力の方が上だった。多分だけど、あの魔石を破壊しないと倒せない」

「それやったら魔石ごと破壊したる!」

「ええ。でも、同じ手が効くかしら?」


 エリーナの予想通り、魔物もアカリの魔石手榴弾を警戒して攻撃に転じる。

 液体の身体から触手を生やして、こちらへ攻撃を開始してきた。


「ちっ!こっちの攻撃は効かないのに、向こうからは攻撃するとか反則だろ」

「私たちのレベルが不足ということでしょうね」

「おいおい、平均レベル8になった俺たちでダメなら、新入生には無理じゃないのか?」


 このチームが一番レベルが上がっていると思っている。

 リューク一人は別格だが、チームを強くするタイプではない。

 それなら連携もしっかりしているチーム001がチームとして早いはずだ。


「どうでしょうね?でも、先生たちなら対抗できると思うわ。アカリの魔導具は効果があったんだから」

「それはどうやろうね」

「えっ?」

「うちの、魔石手榴弾は特別製やから。

 威力は属性魔法の最大火力ぐらいはあると思とるよ。

 先生たちのレベルが高くても、同じだけの火力を連発できるんやろか?」


 アカリの意見に教師たちよりも王国騎士の要請まで思案される事態であることが予想される。


「学生で対処できないほどの事態なのでしょうか?」

「えっ?」


 リベラは回避を行いながら、悲観的だった思想に否定を口にする。


「リューク様がこの場にいたなら、きっと何とか出来たと思うのです。

 確かにリューク様はお強い方です。

 ですが、リューク様はお強いだけじゃなく、とても賢い方なのです。もっとも効率的で、ラクな方法を見つけて敵を倒してしまうのではないかと思うのです」

「その方法はどうすればいいの?」

「さぁ?」

「わからんねんやったら意味ないやん!」


 リベラの言葉に俺は足を止める。

 リュークに出来るなら、俺もやらなくちゃいけない。


「俺はやる」

「何をや!」


 俺はリュークに出会ってから、色々なことを勉強するようになった。

 その一つに属性魔法を理解して重点的に強化した。


「ブースト肉体強化!!!三倍!!!」


 俺の身体能力が三倍向上されて、三倍の負荷がかかる。

 レベルが上がる前よりも自分の身体が強く、速く、動ける実感がする。


「アカリ!さっきの攻撃は出来るか?」

「残り三発や」

「上等だ!タイミングで頼む」

「まかせとき!」

「リベラ!エリーナ!援護は任せた」

「あ~もう、バカが突っ込むわ」

「任せて」


 俺の無謀な攻撃に三人が合わせてくれる。


「フリーズ!」「ブースト」


 氷の結界が、魔物を凍らせて動きを止める。


「スイリュウ!」「ブースト」


 リベラの属性魔法が魔物の触手を破壊する。


 両方にブーストをかけたことで、威力が先ほどの倍になって魔物の動きが停止する。


「今や!」


 アカリが動きを止めた魔物に魔石手榴弾を投げつけた。


 魔法を弾く身体でも、反撃出来ないように凍らされて、水龍によって触手を奪われて、手榴弾で自慢のボディを失った。


「いくぞ!」


 俺は肉体強化三倍状態で魔物へ突っ込んだ。

 爆炎の向こう側、剥き出しになった魔石に向かって突撃をしかける。


 再生される前に、魔石を斬りつけ傷を付ける。


「やった!」


 チャンスを掴んだ!


「ダン!逃げろ!」


 突然、背後からシーラス先生の声が聞こえてきた。


「なっ!」


 声に振り返った俺はボスを見た。


 弱点のはずの魔石を斬りつけたはずなのに……魔石は再生を開始する。

 一瞬で形を取り戻した魔物の触手が俺を吹き飛ばした。

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