第45話 ダンジョンボス 中編

 リンシャンとの模擬戦からもう一度眠りついたボクが覚醒すると、ミリルとルビーがお茶を飲んでいた。


「リューク様、お目覚めですか?」

「ああ。二日目のスタートだね」

「はい。でも、おかしいんです」

「うん?何かあったのか?リンシャンがいないようだけど」


 先ほどのキスを思い出してしまう。

 リンシャンのことだから、怒り狂って暴れているのかな?


「リンシャン様は調査に行かれています」

「調査?」

「はい。起きてから魔石の回収に向かったんです。ですが、一匹も魔物が見当たらなくて」

「魔物がいない?あぁ、そういうことか」

「何かご存じなのですか?」


 ゲームの様式を思い出した。

 課外授業の間、魔物の調査と言いながら一定数魔物を狩っていると、ダンジョンボスが出現する。

 キモデブガマガエルのリュークは、ダンジョンボスにダンを殺させようとするんだけど、ダンは仲間と協力してダンジョンボスを退ける。


 厄介なボスなので、結局ダンたちだけでは倒せなくて、助っ人キャラのシーラス先生が登場して倒してくれるはずだ。

 ダンジョンボスが出現すると、魔物は全て消えてしまって、ダンジョンからも出られなくなる。


 ダンジョンがボスに大量の魔力を注ぐという設定だった。


「なら、効率的に動く方法は」

「みんな!離れた場所で巨大な魔物と戦っているチームがいる!助けにいかなければ!」


 偵察から戻ってきたリンシャンが、慌てて飛び込んでくる。


 しかし、ボクの顔を見た途端、茹でタコのように顔が真っ赤になってしまった。


 乙女だなぁ~


「おっ、起きていたのか……さっ、さっきのはだな……」


 何やら一人で言い淀むリンシャンに、ミリルやルビーが何かあるのだろうと黙って見守っている。


「ハァ~キスぐらい気にするな。大人になれば誰でもすることだ」

「「きっ、キス!!!にゃ」」

「ヤッパリアレハキスなのか?」


 キスという単語に叫ぶ女子。

 何やら小さな声でぶつぶつ呟くリンシャン。

 やれやれだ。

 カリンやシロップと経験しているボクとしては大したことじゃない。


「そんなことよりも今はダンジョンボスだ」

「そっ、ソンナコトハナイダロ!」


 小さい声のくせに怒っているリンシャンが面白い。


「ルビー」

「はいにゃ!」

「偵察を頼む」

「はいにゃ!」

「例の場所を調査してきてくれ」

「わかったにゃ」


 天幕を飛び出したルビーを見送ってミリルを見る。


「ミリル」

「はい!」

「テントを片付けるから必要な物を片付けてくれ」

「かしこまりました」


 二人はボクの指示を聞いてすぐに動き出す。


「ほら、お前も外に出ろ。戦っているダンジョンボスはどっちだ?」

「こっ、こっちだ」


 近づくと微妙に距離を取り、それでも素直に従うリンシャンは随分と態度が軟化している。

 リンシャンが指さす方角を見るためにバルで飛び上がる。


 遠方には大きな木と変らない高さを誇るデカいスライムがいた。


「うわ~実際のスライムとか、マジでキモいな。

 森ダンジョンなんだから、トレントとか、ラビットとかにしとけよ。

 ゴブリンがいないだけマシだったのに、デカいスライムはマジでグロいな」


 戦っているのはダンがいるチームだろう。

 キモデブガマガエルのリュークがいなくても、ゲームの強制力が働いたか?


「おっ!凍った。あれはエリーナだな。おっ、ダンジョンボスもやるな。すぐに破壊した。

 魔法耐性が強いはずだから、レベルが低いと魔法の効果はないに等しいんだよな。

 レベルを上げれば魔法耐性を突破できるようになるんだけど、ダン達のレベルは10ぐらいだろうから、そのレベルじゃ無理だな。

 ダンジョンボスの推定レベルは40だからな」


 ボクが行けば簡単に倒せるが、これはダンの強制イベントなので攻略を頑張ってもらおう。

 リュークが悪さをしなくてもダンのところに行くとか、ダンジョンボスへのゲーム強制力ハンパないな。


「よし。ボクたちはボクたちに出来ることをするぞ」


 地上に降りてからは、リンシャンに声をかけて戻る。

 ルビーも戻ってきたようだ。


「ルビー」

「はいにゃ!」

「偵察はできたか?」

「はいにゃ」

「うん。なら例の場所にいくぞ」

「なっ!助けにいかないのか?」


 リンシャンを一目見て、ボクはルビーに案内してもらうためにクッションに腰を下ろす。ミリルはボクが乗ったことを確認してバルを引き始める。


「おい!危険な魔物が出ているんだぞ!」


 それでも食い下がるリンシャンに対して、ボクは一言だけ伝える。


「好きにしろ」


 ここからは自由だ。

 リンシャンが加勢に向かったとしても、ダンたちが勝利することは不可能だ。

 しかし、こちらについてきても役に立つこともない。


「…………」


 黙ってしまったリンシャンを無視して、ボクはミリルに進む指示を出す。

 ルビーは先導して歩み出した。


 しばらく黙って歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 どうやらリンシャンはこちらに来ることを選んだようだ。


「ここにゃ」


 ルビーが目的地にたどりついたことを告げる。


「ありがとう」


 ボクはバルから降りて洞窟へと足を下ろした。


「リューク様」

「ミリル。ここまでありがとう。ここからは自分の足で進む」

「はい!」

「バル、ついてこい」

「(^^)/」


 頂上付近までやってきたボクは洞窟の中へと足を踏み入れる。

 ルビーやミリル、リンシャンも後に続いて中に入ってきて……奥には巨大なクリスタルが輝きを放っていた。


「ほぅ~これがダンジョンコアか」


 空気中に漂い、生きとし生ける者全てに作用する魔力が結晶化した特別な鉱石。


 巨大な魔石とも、不思議な鉱石とも言われている。


 ダンジョンコアが生まれれば、コアは領地を広げるように魔物を生み出してダンジョンを広げていく。

 しかし、それ以上にダンジョンコアには可能性が多い。


「なっ、何をするつもりだ?」


 リンシャンはボクがしようとしたことがわかったようで止めようとする。


「今は緊急事態だからな……ボクがダンジョンボスを倒してやろうと思ってね」


 完全にウソだけど、リンシャンに説明するのもめんどうだ。


「ダンジョンボスが出現して、ダンジョンボスを倒すか、もしくはダンジョンコアに機能を停止させる必要があるだろ?それはわかるな?」

「しっ、しかし……そんなことをしたら……しばらくダンジョンは機能を失って資源が取れなくなるんだぞ?」

「そうだな。だが、この森ダンジョンは学生用のレベル上げと、魔石回収にしか役目を持っていない。一年も経てば、また活動を開始するようになるさ」

「そっ、それでもそんなことをすれば、生徒のレベルを上げる場所も、学園の資金源も、王国のメンツも……」


 リンシャンが諸々の心配を口にする。これだから立場のある人間は大変なんだ。政治的な思考が関与する。


 だが、ボクには全く関係ない。


「前にも言っただろ。人の命を危険に晒すのか?」

「ッッ!!!」


 リンシャンはそれ以上何も言わなくなり、ボクがすることから目を背けた。


「ダンジョンコアよ!お前の力、ボクが借りるぞ!」


 ダンジョンコアの一部を奪い取った。


 


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