第21話 ランキング戦

《個人ランキング》


 アレシダス王立学園の新入学生は300名。

 彼ら全員に順位が付けられている。


 クラスは11組に分けられている。

 最上位クラスを0クラスと呼び、上位20名が名を連ねる。

 0から始まるクラスは10まであり、クラスごとにも序列が存在する。


 入試試験の際に行われた実技、学科、魔法の三つの能力によって分けられ、生徒個人の能力によって算定されている。


 0クラスは、学園が提供する様々なサービスの利用が認められ、逆に10クラスに属してしまうと様々な制限を受けてしまう。

 生徒達の競争心を駆り立て、自己研鑽を高めてもらうために用意された制度である。


 ♢


《sideリューク》


 席は各自、自由に選ぶことができ、教壇に向かってお鉢状に低くなっている教室になっているので、どの席からでも先生が見やすくなっている。


「0クラスの担任をさせていただきます。グローレン・リサーチです」


 年齢は30歳前後の優しそうな笑みを作る男性教師は、魔法省から今年度新たに導入される魔導機器のために教師へと異動してきた変わり者である。


 大人向け恋愛戦略シミュレーションゲームはここから開始される。

 教室での出来事を思い出しながら、グローレン先生の話に耳を傾ける。


「副担任を務めます。シーラスです」


 副担任は20歳前後の見た目に見える若い女性だが、こちらは攻略対象者である精霊族だ。

 実年齢は数百年を生きるエルフで、魔法の深淵を知る彼女は、攻略が難しく最低条件として貴族位の取得が条件になる。


 二人の教師が挨拶を終えると、グローレンは生徒一人一人の顔を見る。


「この0クラスは、実技試験、学科試験、魔法試験で上位に入った者。

 総合的に優れた者によって成績上位者が集められております。

 学院内では王族、貴族であっても家柄に左右されることはありません。

 ですが、能力によって君たちのことを判断させてもらいます」


 一人の女子が挙手する。


「はい。マーシャル君。なんですか?」

「能力で判断すると言われましたが、どのようにして互いの順位を把握するのですか?」

「良い質問をありがとうございます。それではあなた方にこちらを配っていきます」


 配られたのは腕時計型の魔導器具だ。


「それはマジックウォッチです。

 君たちの成績や順位などを見ることが出来る魔導具です。

 それに君たちの魔力を流し込むことで、個人専用に登録ができます」


 言われる通り魔力を流し込めば、目の前にステータス画面が表示される。

 なるほど、こうやってステータスを確認するのか、鑑定魔法の応用ということかな?


 成績や順位以外にも様々なことが分かるようだ。


 名前:リューク・ヒュガロ・デスクストス

 年齢:15歳

 レベル 1 

 魔物討伐数 0


 所属、0クラス


 実技評価 A評価

 学科評価 B評価

 魔法評価 S評価



 成績ランキング 2位


 取得魔法


 無属性魔法


 ・生活魔法

 ・強化魔法

 ・補助魔法

 ・回復魔法

 ・???


 属性魔法


《睡眠》魔法

《怠惰》魔法


 それぞれの項目は詳細も確認できるようで、調べたいところではあるが……今は時間が無いようだ。


「確認は出来ましたか?魔力を流したことで皆さんの魔力をマジックウォッチが認識して登録が完了します。

 登録された本人以外には使えません。

 映し出されたデータも本人にしか見えていません。

 評価と成績ランキングだけは、学園側も把握する必要があるので、誰もが見える掲示板に現在の順位が表示されるようになっています。

 お友達の順位は掲示板で確認してみてください。


 どうです?凄いでしょ?!魔導具こそ人類を進化させる最高の叡智なのです」


 興奮し始めたグローレン先生をシーラス先生が止める。


「リサーチ先生は、魔導具狂いなんです。本当に変わり者ですよね」


 魔法狂いのリベラに言われるなんて残念すぎる。


「リベラの成績はどうなの?」

「……二人きりのときに話した方が良さそうです」


 ボクが質問したことで、聞き耳を立てるクラスメイトが数名いた。

 どうやら成績ランキングに関しては、あまり口にしない方が良さそうだ。


「説明を引き継ぎます」


 グローレン先生に代わってシーラス先生が説明を始める。


「マジックウォッチに記載された評価は、定期的に行われる学科試験、魔法試験などで変動します。

 授業は選択制ですので、自分の進みたい未来へ向かってどんな勉強をするのかは個人の自由です。

 あくまでマジックウォッチの評価は現在の総合成績にしか過ぎません」


 他のクラスでも今の話を聞いた生徒は思うだろう。

 頑張り次第で自分もランキングを上げられると……


「実技試験に関しては一年に一度だけ剣帝杯が用意されています。


 剣帝杯は、アレシダス王立学園だけでなく、王国中にとって一大イベントです。

 王都中がお祭り騒ぎになり、王都にいる全ての者が観戦できるように配慮されています。

 優勝者には騎士の称号が与えられ、王国最強と言われる剣帝と戦う権利を得られます」


 主人公の最初の目標は、剣帝杯で優勝して騎士になることだ。

 これにより、国から騎士の称号が与えられて貴族の仲間入りが出来るのだ。


「剣帝杯に向けて、練習試合ということで校内ランキング戦が我が校では認められています。

 ランキング戦とは、個人成績下位の者が上位の者に挑む形でのみ成立します。

 下位の者が勝てば、個人成績のランキングを上げることが出来ます」


 シーラス先生の説明に全員が意気込んだような顔をする。


 なんて面倒な制度なんだ。


 平和的に争いの無い世の中でいいじゃないか……まぁゲームのシステムだから知っている。


 ここらでチュートリアルイベントが……


「先生。よろしいですか?」

「あなたは……ダン君ですね。なんでしょうか?」

「ランキング戦はいつから出来るのですか?」

「いつからですか……」


 シーラス先生がグローレン先生を見る。


「すでにマジックウォッチの登録が済んでいるならば、いつからでも可能だよ。もちろん、今からでも問題はない」

「でしたら、挑戦を申し込みたいと思います」


 ダンが立ち上がってボクを見る。


「俺の成績ランキングは20位だ。このクラスでは一番下ということになる」


 0クラスにはダンを入れて、確かに20名が在籍しているので最下位と言えるだろう。


「俺と勝負してもらう。リューク・ヒュガロ・デスクストス」

「なぜ?ボクは面倒なことはしたくない」


 本心から面倒なことはしたくない。


 これがチュートリアル戦闘である以上、拒否は出来ないことは分かっている。

 それでも本当にめんどうなのでやりたくない。


 本来のリュークはキモデブガマガエルとして醜い容姿をしていた。

 プライドも高くて、平民の騎士になど負けるはずがないと高を括っていたことだろう。


 だが、リュークは所詮、主人公の噛ませ犬という地位なのだ。

 戦闘説明のために主人公にやられるためにランキング戦を行う。


 勝利した主人公はクラスメイトの女子から好感度を高め、気になる男性として認識されるようになる。

 逆に、悪役貴族であるリュークは醜いプライドから、負けたことを逆恨みして主人公に復讐を誓う。


「はっ、怖じ気づいたのか?」


 本来のリュークであれば、主人公からの挑発に応じてランキング戦をしていただろう。


「ハァ~。ねぇ、君とランキング戦するメリットがボクにはないんだけど。

 君は確かに成績ランキングを上げられるけど。

 ボクにメリットがないのにどうしてしないといけないの?

 そんなこともわからないバカなの?バカの相手はしたくないんだけど」


 本当に面倒なのも事実だが、敵となることが分かっている相手を強くするための手伝いをどうしてしないといけないのか?意味がわからない。


「きっ貴様!栄えあるアレシダス王国の貴族ならば、仕掛けられた戦いを受けるのが当たり前だろ!」


 ボクの態度にダンだけでなく、リンシャンが立ち上がって怒りをぶつけてくる。

 熱い熱すぎる……てか、スゴくめんどうくさい。

 自分が言っていることが何よりも正しいと思っている相手ほど厄介な奴はいない。


「ハァ~なら君が相手をしてあげれば、ボクはめんどうだからパス」


 ボクの態度に女騎士様がにらみ付けてくる。

 空気が悪くなり、リベラがおろおろしているところで、一人の女子が立ち上がる。


「実技成績上位者のダンさんと、魔法成績上位者のデスクストスさんのランキング戦は誰もが見たいところです。


 デスクストスさん。

 学園のルールに従ってください。

 個人成績下位の者が上位の者に挑む形でのみ成立します。

 拒否権は上位者にはないと言うことです。

 また、貴族の義務として民を導く者であるべしという言葉もあります。

 貴族として拒否することは許されませんよ」


 ハァ~マジでウザッ。

 先生達の話を聞いていなかったのか?

 ここでは学園内で貴族の位も何もないって話していただろ?

 ハァー……リンシャンだけでなくエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスにまで言われれば、これ以上断ることはできない。


 マジで、この二人は嫌いだ。


「わかりました。アレシダス様のおっしゃられているがままに」


 ボクは深々と溜息を吐いて同意する。


 結局、どうしてもゲームの流れは止めることができないようだ。

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