第22話 チュートリアル戦闘 前編
《校内ランキング戦》
校内ランキング戦は、学生の戦闘力向上を目的とした練習試合のため、ルールに則り行うこととする。
・成績ランキングは校内掲示板で公表される。
・ランキング戦は下位の者が上位の者に挑む形でのみ成立する。
・ランキング戦はタイマン戦とチーム戦があり、挑まれた側にタイマン戦か、チーム戦を選択する権利がある。
・ランキング戦を挑める相手は同じクラス内、もしくはクラス上位五名のみ上位クラスへの挑戦権を得る。
・成績ランキング下位の者がランキング戦で勝利した場合、敗者である上位者の成績ランキングを獲得できる。 成績ランキング上位者が敗北した相手が下位クラスであればクラスを交代する。 挑戦者が敗北した場合、同じ相手とのランキング戦は半年間できない。
・ランキング戦を挑まれた者は基本的に拒否できない。
・ランキング戦はタイマン戦で一度、チーム戦で一度の、一日に二度までとする。
・怪我や病気、戦えない状態である場合のみ代理人が認められる。代理人が立てられない場合は、挑まれた者の敗北とする。
・ランキング戦の敗者は同じ相手に5回敗北した場合、校内ランキング戦の勝負を挑む権利を失う。
♢
《Sideダン》
俺の名はダン。
誇りある名誉騎士ダンケルクを父に持つ。
アレシダス王立学園に来た目的は騎士になるためだ。
アレシダス王立学園では、一年に一度、騎士になるチャンスが学生に与えられる。
剣帝杯と呼ばれる大会で、優勝して騎士になる。
学園では騎士になるための勉強と訓練をして、マーシャル家に恩返しをするのが、今の俺にとって一番の目標だ。
ただ、王都に来てからの俺はイライラしていた。
それは王都が、平和過ぎるからだ。
マーシャル領は常に魔物の脅威にさらされているところだった。
それは命の危険と隣り合わせで、自らを鍛えなければ生きていけない日々だった。
みんなが協力し合って、そこには絆があった。
王都は……平和に生きている人たちに危機感がまったく感じられない。
王都に住んでいても、街から出れば魔物は存在する。
それなのに誰も危機感無く平和な日々を過ごしている。
平和なはずなのに、人と人との間に絆が感じられない。
王都の貴族たちは権力争いに夢中で、協力し合うのではなく相手を蹴落とすために蔑むことばかりに力を注いでいる。
何よりも、マーシャル領で住んでいる人たちのことを野蛮人と蔑むような言い方までしてきやがる。許せねぇよ。
アレシダス王国を魔物から守るため、マーシャル領に住んでいる人たちが防波堤となって、厳しい生活をしていることを何も知らないくせに……
マーシャル領をバカにしている奴らのボスが、筆頭貴族のデスクストス公爵家だ。
「ダン。あの家の者は我が家の敵だ。絶対にあの家の者には負けたくない」
姫様もデスクストス公爵家を敵対視していた。
魔物の脅威にさらされる北に領地を持つマーシャル家。
気候も穏やかで魔物の出現率が低い南のデスクストス家。
何もかもが真逆の公爵家。
武と文。
相容れない両家の確執は今に始まったことじゃねぇ。
それは平民の俺にだって分かっている。
だから姫様に代わって、同学年で入学してくる公爵家の息子の鼻を明かしてやる。
その息子がどんな男なのか気になって入学式の際に視線を向けた。
そこにいた男を見た瞬間、俺の心に怒りがわいてきた。
女のように髪を伸ばして、何の苦労も知らなさそうな綺麗な顔。
横にいる女子と話す軽薄そうな姿。
戦いも知らずノウノウとした態度。
如何にも貴族という風貌の嫌な奴だった。
奴の全てが気にくわない。
極めつけは王女様が挨拶をされている際に、奴はどこからともなくクッションを取り出して眠り始めたのだ。
栄えあるアレシダス王立学園の入学式で睡眠を取るなどあり得ない。
「貴様の性根。俺が叩き直してやる」
お前みたいな貴族がいるからこそ、救われない者たちがいるんだ。
「はいはい。相手をしてやるのは1分だけだ」
制服の上から見える身体を鍛えていない細い身体。
魔法成績が上位だと言うが、姫様と共に魔物との戦いで鍛えてきた俺が負けるはずがない。
俺はレベル5で、全ての身体能力が上がっている。
「お前のレベルは?」
これはあくまで手加減をするための質問だ。
「レベル1だ」
レベル1だと!!!貴族のくせに魔物と戦ったこともないのか!!!
レベル3程度はあると思っていたのに予想以下だ。
いくらデスクストス領が安全だといっても、魔物と戦わないということは絶対にない。
レベルが上がっていないと言うことは、魔物と戦ったことがない。
デスクストス公爵が、こいつを可愛がって戦わせなかったということだ。
はっ、ますます気に入らない。
姫様が、女性の身でどれだけの魔物と戦ってきたか……あの過酷な日々を……許さん。
「それでは成績20位ダンの申し出により、成績2位リューク・ヒュガロ・デスクストスとのランキング戦を開始する。両者前へ」
グローレン・リサーチ先生が審判役となり、闘技場でクラスメイトが見守る中で両者が立ち会う。
「良い戦いをしよう」
あろうことか手加減しようと思っていた俺に向かって、奴は挑発するような言葉をかけてくる。
何が良い戦いだ。
貴様が俺とまともに戦えるはずがないだろ!
俺は頭に血を上らせる。
お前みたいな奴は一瞬で終わらせてやる。
「開始!!!」
先生のかけ声と共に俺は全力で肉体強化を発動する。
マーシャル様にお褒め頂いた肉体強化は、俺が一番得意な魔法だ。
「はっ!」
だが、奴は俺が肉体強化をかけるタイミングを狙って拳を振るってきた。
「なっ!」
とっさに飛び退いたが、奴は俺から離れない。
同じ高さ、同じ速度で動いて前進してくる。
近すぎて剣を振るうこともできない。
「ぐっ!」
奴の攻撃は全て体術で、何発かもらっちまった。
制服の下に防具を着けていなければ、最初の一撃で大ダメージを受けていただろう。
魔法が得意と聞いていたから油断していた。
「舐めるな!!!」
強引に剣を横薙ぎにして奴を振り払う。
しかし、奴は上半身を反り返るほど倒して剣を避けた!
ありえない動きに身体が硬直する。
大ぶりをした俺は隙だらけになり、身体を反らした奴は反動を使って、頭突きをお見舞いしてきた。
目の中に光がパチパチと輝き、視界がホワイトアウトする。
二、三発顔面を殴られて意識が飛びそうになる。
「ぐっ!」
胸倉を掴まれて首を絞めるように持ち上げられた。
「はっ、離せ」
暴れて剣を振るおうとするが、奴の蹴りが俺の剣をはじき飛ばした。
「ふぅ、一分経ったか。う~ん、こういう状況か」
いきなり訳の分からないことを言い出した奴が、俺を見上げる。
「チェックメイトだ」
俺は何も出来ないで終わるのか?そんなの嫌だ。
「ブースト!」
奥の手である属性魔法を使う。
「やらせねぇよ。スリープ」
ぐっ!奴の手から逃れようと身体能力増加をかけるが……次の瞬間、意識を失っていた。
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