第20話 騎士は悪役を嫌う

 入学試験の成績によってクラス分けが行われている。

 試験内容は三つに分かれており、実技、学科、魔法の三項目が存在する。

 それぞれの一位は0クラスの入学が確定する。


 また一位でなくても、総合成績一位の者は、学年主席の称号が与えられる。


 学年主席になった者は新入生代表として、入学式で挨拶を行う。


「首席合格、エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス」


 長い名前が呼び上げられ、王族を表すアレシダスの家名がホール内に響き渡り拍手が巻き起こる。


「首席合格を果たしましたエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスです。

 それぞれの試験では一位にはなれなかったと連絡を受けております。

 そんな私がここで話をさせてもらうことは申し訳ありませんが、選ばれた限りは全力で務めさせていただきます」


 白銀の長い髪は美しく男子生徒たちから感激の溜め息が漏れる。

 15歳とは思えないほど整ったプロポーションは、さすがエロゲーヒロインと言うほか無い。


 王女に興味のないボクは、広いホールの中に座る生徒たちへ視線を向けた。

 この中にいる、ゲームの攻略対象ヒロインたちはそれぞれの悩みを抱えて入学してくる。


 隣に座るリベラ。

 壇上で首席の挨拶をするエリーナ。


 それ以外にもメインヒロインとして五人の攻略者がいるはずなのだが、広いホールでは一人しか見つけることが出来なかった。


 ボクの向こう側に用意された貴族が座るために用意されたVIP席。

 そこに座っている赤髪の少女は剣を鞘に収めて、床に突き立てた姿勢で座っていた。


 リンシャン・ソード・マーシャル


 女騎士として登場する彼女は、主人公と最も近い存在であり……主人公に選ばれない場合、悪役貴族であるリュークによって「くっ、殺せ」を言わされるキャラだ。

 そのときの拷問はなかなかにマニアックな映像になっている。


「何か面白い人でもいましたか?」


 どうやら思い出し笑いをしていたようだ。

 リベラが質問してくる。


「いいや。向いに座る令嬢と、男子生徒の仲が良さそうだと思っただけだよ」

「マーシャル家のリンシャン様ですね。

 とても凜々しく武勇に優れている人だと聞いています。

 あまり魔法は得意ではないそうですが、属性魔法の《盾》は希少魔法に認定されていたはずです」


 魔法狂いである、リベラにとっては人を見る基準は全て魔法だ。

 ここにいる者たちの魔法データを頭に入れていると思えば、歩く魔法辞典と言った感じで面白い。


「その隣の男子生徒はリンさんの婚約者かな?」

「ふふ、リンさん……リンシャン様ご本人にその呼び方をしてはいけませんよ。怒られますので」

「そうなのかい?」

「ええ。凄く厳格な方だと聞いています。

 それに隣にいる男子生徒は、ダンという名誉騎士を父に持つ子でしょうね。

 マーシャル家のお抱え騎士で、リンシャン様の専属騎士だと思います。

 属性魔法は《増加》で希少魔法に認定されていますね」


 なるほど……ボクは主人公である少年を認識した。


 だけど……それと同時に主人公の視線がボクを見る。


 その瞳は、こちらを嫌悪するような視線であったことは間違いない。


「どうして彼はボクに対して嫌悪感を表しているのかな?」

「嫌悪感ですか?う~ん、多分ですが、デスクストス公爵家とマーシャル公爵家の仲があまり良くないからではないでしょうか?」


 どうやら……主人公とボクは生まれながらに敵対関係にあることが義務付けられているようだ。

 なんとも面倒な設定と言わずにはいられない。


「ファ~……話が長くてつまらないね」

「王女様、とても美しい方ですよ。リューク様は興味ありませんか?」

「無いね。ボクには婚約者と、愛してくれるお姉さんがいるから」

「む~二人も……これはうかうかしていられませんね」

「うん?どうかした?」

「いえ。何でもありません。それでは少し眠られてはどうですか?」

「いいの?」

「はい。さすがにここで魔法の講義はできませんから、ゆっくりお休みください。

 終わったら起こして差し上げますので」

「ありがとう助かるよ」


 貴族用に用意された椅子に座っていたけど、自分で作り出した魔法のほうが心地よく眠れる。バルを出現させてクッションに身体を預けて眠りについた。


「リューク様。リューク様」

「う、うん?やぁリベラ。もう終わったの?」

「はい。皆さん移動を始めたので、そろそろ起きて良いと思います」

「そうか」

「それにしても、それが噂のクッションですか?」

「噂の?」

「はい。父がリューク様に初めて会われたときに、クッションに乗って浮いていたと言われていたので」


 マルさんとはあれから多くのやりとりをしているので、初めてのことを思い出して少し笑ってしまう。


「そうか……うん。多分これが噂のクッションだよ。スゴく気持ちいいから今度乗せてあげるね」

「良いのですか!!!」」


 物凄く嬉しそうに食いつくリベラは可愛い子だ。

 魔法に関連することは、興味が尽きないのだろう。


「くっ、今から教室でオリエンテーションがなければよかったのに」


 どうしても乗りたいようで、オリエンテーションをサボろうか思案し始めてしまう。


「はいはい。そろそろ移動しようね」


 ボクは思案するリベラと手を繋いで立ち上がる。


「ふぇ!てっ、手を!」

「あれ?ダメだった?」

「いっいえ。初めて男の子と手を繋いだので」

「ごめんね。リベラの初めてもらっちゃった」


 顔を赤くしたリベラと、しばらく手を繋いでホールを出る。

 そこへ剣を持ったポニーテールの少女とかち合ってしまう。


「ふん。軟弱な」


 ボクとリベラの行動を見たリンシャン・ソード・マーシャルが吐き捨てる。

 さらに、その後ろに立っていたダンがこちらをにらみ付けてリンシャンの後を追っていく。


「なっななななんですかあの人達!別に私たちは何も……ゴニュゴニュ」

「はいはい。リベラ。気にしない気にしない」

「……リューク様は怒らないのですか?」

「怒るなんてダルいよ。怒ることにもパワーがいるからね。

 それよりもリベラと楽しい時間を過ごす方がいいかな」

「ふふ、リューク様らしい答えですね……楽しい……ですか?」

「ああ。楽しいよ」

「それなら……いいです」


 怒っていたリベラは少し顔を赤くして機嫌を直してくれた。

 ボクらは改めて0クラスの教室へと向かった。

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