第13話 色欲は狂い始める
【Sideアイリス・ヒュガロ・デスクストス】
わたくしはあの日の出来事を今でも夢に見ますの。
どうしてわたくしはあんな言葉をかけてしまったのでしょうね。
後悔が浮かんでは消えていくんですの。
「アイリスお姉様、お待ちになって」
三年前……彼女は確かに太って醜い姿をしていた。
だけど、この三年で彼女は劇的な変化を遂げたんですの。
顔には太かったときの面影を残しているけれど、柔らかで可愛らしいふっくらとした唇は憎たらしいほど魅力的ですの。
わたくしと違って優しそうな瞳、全身から柔らかな雰囲気と可愛らしさを醸し出しておりますの。
海運業をしていた家のせいで日焼けしていた肌は、今では白く綺麗な輝きを放っていますの。
小まめな日焼け止めと保湿が彼女の肌を綺麗に変えましたの。
可愛いだけでなく、健康的で、美しく成長を遂げたカリンをバカにする人はおりませんの。
「カリン。まだお姉様と呼ぶのは早いのではなくて?」
何よりも腹立たしいのは、弟のリュークと婚約を結んだことですの。
わたくしが……あの日、この子に醜いことを伝えなければ、二人が出会うことはなかったんですの。
彼女の態度にイライラしてしまって、嫌みを口にしてしまいますの。
こんなわたくしは美しくありませんの。
「ごっごめんなさい」
明るくはなりましたが、元々が謙虚な性格をしていて、それは変わっていませんの。
すぐに謝罪を口にする。
カリンの態度はわたくしの猜疑心を刺激しますの。
「ハァ~謝らないで……わたくしがイジメているみたいで、惨めになりますの」
カリンは、あの日に発した言葉で泣きながら我が家の敷地を走り回り弟に遭遇しましたの。
弟はその場でカリンへ求婚したそうですの。
あの醜く太ったカリンにですの。
信じられない思いでしたの。
まさか、弟が心まで美しいなんて卑怯ですの。
わたくしはいつか強引に弟を犯す妄想をしていたというのに、あの醜いカリンが選ばれるなど信じられませんの。
だけど……カリンは弟と婚約するためにガンバリましたの。
醜かった身体はほっそりとしながら、出るところは残し、天真爛漫な愛らしさと美しさを併せ持つ女性へと成長を遂げましたの。
そこは認めてあげても良いですの。
「ハァ~それで?弟との婚約はどこまで進みましたの?」
今日は少し強引に二人きりのお茶会を開催しましたの。
最近のカリンはお茶会に来られないほど忙しくしておりますの。
数年前から、リュークの指示で作り出したダイエット食や、ヘルシーなお菓子が王国内で大流行してカリンがモデルとして成功したことも宣伝に拍車をかけましたの。
貴族だけでなく、平民の間でもヘルシーなのに美味しいと評判で、カリンは色々なところへ呼ばれるようになりましたの。
昔から、カリンの料理は美味しかったんですの。
それがリュークと出会ったことで進化しましたの。
ダイエットを成功させて、美しく健康的に成長を遂げ、料理人として、新たなブームを作り出して商売を成功させ、見た目も、環境も、全て弟に相応しい存在となりましたの。
まさしく自他共に認めるリュークに相応しい令嬢として、父様からも婚約者として正式に認められましたの。
「聞いてくださいますか?リューク様が学園を卒業されたら結婚することが決まったのです」
ギリッ!
わたくしは奥歯を噛みしめてしまいましたの。
あれから三年が経ってリュークは、更に美しく成長を遂げましたの。
カリンから提供される食事は、リュークの身体にも影響を与えましたの。
身長は兄であるテスタよりも高くなり、腕や足もスラリと長く。
それでいて身体は引き締まり、肌は光を弾くほどの透明度を誇りますの。
美しさ、しなやかさ、強さ、そして魔法の才能……全てを開花させたリュークは唯一無二の存在へ昇華しましたの。
この世で唯一わたくしと釣り合う存在として成長を遂げたと言える相手へなりましたの。
それなのに……こんな女に攫われていくなど考えたくもないですの。
「そう、よかったわね」
「はい!それよりもアイリス様には、数え切れないほどの求婚が来ていると伺いましたよ」
自分の結婚が決まった余裕から、人の結婚話をしますの?わたくしの結婚なんて……そんなものどうでもいいですの。
欲しい者はお前が連れ去ってしまったんですの……わたくしが本気になれば、どんな男でも手に入るはずなのに……リュークだけは手に入りませんの。
「そうね。お兄様のご友人である第一王子様から王妃にならないかとお話を頂いていますの」
「凄い!やっぱりアイリス様は私にとって憧れの人です!」
白々しい……第一王子は確かに優秀で顔もいいけれど、リュークの美しさには遠く及びませんの。
せいぜい男性としては小綺麗にしている程度。
だけど、リューク以外で私に釣り合う格を持つ者は王子しかいませんの。
「そうね。求婚してくださったのです。お受けするつもりですの」
「素晴らしいですね。アイリス様は次期王妃になられるのですね」
キラキラとした目でわたくしを見るカリン。
彼女の作り出す料理は惜しいけれど……そのときが来たら必ず……あなたには復讐させてもらいますの。
「姉様」
ドス黒い感情がわたくしの心を満たし始めたところで、愛しいリュークの声がわたくしを現実へと引き戻しましたの。
「あら、リューク。どうしたんですの?」
「カリンを連れて行っても良いかな?」
「なぜ?わたくしのお茶会を邪魔するんですの?」
目的がわたくしではなくカリンと分かって、腹立たしい気持ちが沸いてきますの。
「姉様がボクに会いに来たカリンを連れ去ったんだよ。だから連れ戻しに来ただけでしょ」
リュークがわたくしに近づいて叱るような口調で瞳を合わせる。
わたくしは世間では魔性の女などと呼ばれておりますの。
ですが、目の前で瞳を合わせるリュークこそが魔性の男ですの。
こんなにも狂おしいほどに、わたくしが求めているのに応じないなど。
リュークの匂いがわたくしの鼻孔をくすぐり発情させてくるんですの。
「わっ、私もアイリス様とお話がしたかったのです。リューク、ごめんなさい」
「カリンは悪くないよ。姉様、もういいでしょ?」
「好きにすればいいですの。カリンとは学園に行けば、これからいくらでも会えるんですの」
「む~姉様、ズルい。来年はボクも学園に行くからね。カリン、待っていてね」
「あわわっわわわ」
婚約者に甘く囁く姿に奥歯を噛みしめますの。
本来であればそうしてもらえたのはわたくしのはずなのに……カリンだけズルいですの。
「姉様。綺麗な顔が恐い顔になっているよ。姉様も学園ガンバってね。姉様の希少魔法も凄いんだから」
ふと、振り返った弟は陽だまりのような笑顔でわたくしを応援しますの。
……そんなことで誤魔化されませんの………なんだか顔が熱いですの……ハァハァハァ……ほしい……………
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