第14話 あの方のために……

【Sideミリル】



私の名前はミリル。

この度、アレシダス王立学園へ特待生として入学することが決まりました。

これも全てあの方のお陰です。

学園を卒業したら、全てをかけてあの方に恩返しをしたいと思います。


私は、11歳まで普通の家庭で育ちました。


兵士をしている父

裁縫の仕事に行く母

少し歳の離れた弟


四人家族で貧しくはありましたが、幸せな家庭だったと今なら思います。


ある日、住んでいた領で大規模な魔物が起こした事件があり、父は帰らぬ人となりました。

生活が苦しくなった母は魔物が多く、仕事がない領を出て、仕事が多く安全な王都へと移り住むことを決めて、商隊に乗せてもらい王都を目指しました。


ですが、商隊が途中で魔物に襲われ、母の生死がわからなくなり、私は必死で逃げる際に魔法を使ったそうです。

そのお陰で、幼い弟と二人で助かることができました。

ですが子供二人では王都で住むことも、仕事を探すこともできなくて、商人さんの紹介で孤児院にお世話になることになりました。


孤児院はあまり環境の良い場所ではありませんでした。

孤児院長さんは良い人で、それだけが救いでした。


毎日、街の清掃と薬草採取をして、稼ぎを孤児院の経営に当ててもらい生きることが精一杯の日々。


そんな日々に変化が訪れたのは、あの人がやってきてからです。


「カリン、今日もするの?」

「もちろんです。提案してくださったのは、リュークですよ」

「そうだけど。これだけ毎日しなくても……」


カリビアン伯爵家のカリン様は、ご自身で作った料理の試作を、ほとんど毎日孤児院へ提供してくれるようになったのです。

ご自身が来られない日も、料理だけは届けられて孤児達は見る見る元気になりました。


そして、私が驚いたのは、一緒に来られていたデスクストス公爵家のリューク様です。

めんどうくさそうな声を出しているのですが、カリン様が来られるときはいつも一緒にいらっしゃいます。


凄く綺麗な男の子で、同い年であることが恥ずかしいと思ってしまうほどでした。

リューク様が来ると、私はいつも隠れていました。


私にも幼馴染みと呼べる男の子が昔はいましたが、あの事件でその子がどうなったのかもわかりません。


ですが、あるとき弟が高熱を出す病気になりました。

教会に行って回復魔法をかけることも、高い薬を買ってあげることもできません。

孤児院では、ただ病気が治るか……死を待つだけでした。


「病気になった子がいる?仕方ないなぁ、診せて」


カリン様に懐いている孤児が、弟のことをカリン様に伝えてくれたところ、リューク様が診せてと部屋へと入ってきました。

私はどうしていいのかわからなくて、狼狽えていると……弟の状態を視て、リューク様は回復魔法をかけてくれました。


後で聞いた話ですが、弟の命は危なかったそうです。

教会に連れて行っても助かったのかどうかわからないと……教会は、支払う料金によって回復魔法のレベルを変えているそうです。

一番安くて銀貨一枚……孤児である私には大金過ぎて払うことができません。

弟の病気を治すためにいくら必要だったのかもわかりません。


そんな弟の病気をリューク様は一度の回復魔法で治してくださいました。


孤児である私たちに銀貨なんて大金が払えるはずがありません。

ですが、リューク様にそのことを伝えると……


「いくら払えば……」

「お金?お金なんていらないよ。

君たちに魔法をかけてあげることで、ボクの魔法の修行になるからね。

むしろ、君たちは実験体?回復魔法で病気も治せることがわかったからね」


実験体の意味はそのときの私にはわかりませんでした。

意味がわかっても、照れ隠しで言われたのだと今ならわかります。


リューク様がしてくださったことは一生忘れることはありません。


カリン様が孤児院で料理を振る舞ってくれるようになったのも……


「リュークが、食べ物を孤児院にあげたら?と言ったのですわ。

自分で食べるんじゃなくて、人に食べさせて自分が食べる量を減らせば痩せられるでしょって言いましたの。

私って、ついつい美味しい物が出来てしまうと食べ過ぎてしまいますの。

ここで皆さんが喜んで食べてくださる姿を見られて嬉しいのです。

やっぱり料理は人のために作る方が楽しいですね」


あの人……リューク様は、人のために魔法を使って、私たちへ与えるご飯まで用意してくださり……最後に……


「うん?ここの子達は勉強してないの?」

「毎日、生きるのに必死なのです」


弟の治療のために孤児院内に入ったリューク様は勉強道具がないことに驚かれていました。


「ふ~ん。ねぇシロップ」

「はい。我が主様」


綺麗な獣人のメイドさんは、リューク様に呼ばれると金貨がたくさん入ったお財布を孤児院長へ渡していました。


「公爵家って、腐るほどお金は持っているからね。

腐るぐらいなら、どこかで捨てようと思っていたんだ。

捨てるぐらいだからここで使ってよ。

ボクは考えるのがメンドウだから、拒否はなしだよ」


そう言ってたくさんのお金を孤児院に寄付して行かれました。


そのお陰で私たちは勉強できる時間をもらうことができて、カリン様からご飯が届かない日でもお金があるのでご飯が食べられるようになったのです。


リューク様にとっては暇つぶし程度の出来事だったのかもしれません。


ですが、弟は命を助けられ、私は昔からしたかった勉強が出来ました。

今では弟は元気になり、私は特待生として無償で学園にも通うことができます。


もしも卒業して、あの方のお役に立てるのであれば、私の全てはあの方のために……

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