第3話 魔法はチート

 魔法の訓練を始めて一年が経った。


 最初こそ魔力が枯渇して意識を失い体調不良になる日々が続いていた。

 一年も続けていると一日で使いきるのが難しいほどに魔力量を増やすことが出来るようになった。


 残念ながら、魔法の師には出会えていない。

 家族に無関心にされているから、教師を呼んでもらうことも出来ない。


 メイドや執事数名が気にかけてくれて、文字や計算などの勉強は教えてくれている。

 歴史については文字が読めるので本を読むようになった。


 絶対に自分の意志で運動はしたくないので、剣術の訓練は全てキャンセルにしている。


 ただ、キモデブガマガエルのような醜悪な未来にはなりたくない。

 一日に一度は外に出て日光浴をする。

 子供の身体は太陽に当たって正しく基礎代謝を整えておかないと成長の妨げになってしまう。


 怠惰に過ごすためには健康でいなければならない。

 健康とは美容に密接している。


 美容について考えたため、日光浴、適度な体操をして、食事を見直した。

 適度な運動は絶対に激しくならない程度に散歩をしている。


 ボクが住んでいる離れの周辺は庭に囲まれていて美しい。季節折々の花を見るのはそれだけ楽しい。


 色々な事を気にしているからか、一年前に比べればポッチャリ気味だった身体は、健康的な体へと作り変わりつつある。


 最初こそ、食事をする度に気持ち悪くなっていたけど、そのたびに回復魔法をかけて不快感を取り除いた。


 きっと胃や消化器系が生まれつき弱いのに無理やり食事をとっていたのだろう。


 今では、ヘルシーな食事を自分で作るか、シロップに頼むようにしているので、気持ち悪さを感じることはなくなった。


 日光浴以外にも美容男子活動がある。


 まずは、朝は二度寝しないで日の出と共に起きる。


 起きた後は洗顔をする。

 ありがたいことにゲーム世界には石鹸、化粧水、乳液の概念が存在していた。

 石鹸は高級だったけど、公爵家は金持ちなので気兼ねなくお金を使うことができる。


 家族はボクに関心がないので、何をしようと咎められることもない。


 日課として、毎朝石鹼を泡立てた洗顔から始められる。


「リューク様、凄いです!!!泡が手から落ちません!」


 泡を作ってシロップに見せた時は大興奮だった。

 泡立てた泡を少し分けてあげると、しばらく遊んでいたほどである。


「でも、こんなにも泡立てる意味はあるんですか?」

「うん。ボクは肌が弱いからね。少しでも肌に良い方法で綺麗にしておかないと」


 将来のリュークは、ニキビ、シミ、吹き出物、イボなんかも出来ていた。

 キモデブガマガエルのような顔になったのは、何も太っていただけじゃない。


 怠惰に好き勝手に食事をして、弱い消化器系のせいで生活習慣が乱れていたことも一つの原因だ。

 それに魔法の才能にあぐらをかいて、運動を怠ったことも原因だろう。


 だからこそ清潔感が不足していた為だと考えられるので、清潔を保つために洗顔と日光浴、生活習慣改善をする必要があった。


「えっ?リューク様、肌が弱いのですか?」


 驚くシロップに頷く。

 リュークの成長した姿を知らなければ、予想出来なかった。

 キモデブガマガエルとして成長するリュークの肌はかなり荒れていた。


「まぁ、今すぐは問題ないから気にしなくていいよ」

「いえ、リューク様の専属メイドとして私も覚えます」


 その日から朝と晩に洗顔してから化粧水、乳液を顔に塗る。

 今まで身体を洗うことも苦手そうだったシロップだけど、さすがは忠犬。

 元々が綺麗な顔をしていたこともあり、一年前に比べて肌が綺麗になった。

 スキンケアをするときは横でシロップも一緒に同じことをするのがよかったかな。


 日光浴中は日焼け止めを塗ることでシミ防止にも努めている。


「最近、リューク様は色々なことを気にするようになられたのですね」


 だらけたいからと言って、見た目がカッコ悪くなりたいわけじゃない。

 せっかく元がいいのだから、イケメンとして生きていきたい。


「あのね、シロップ」

「はい?」

「ボクは出来るだけラクで健康的に生きていきたいと思っているんだ」


 シロップの可愛い顔が硬直する


「……ラクで健康的に……ですか?」


 なんとか意識を取り戻したシロップはボクに微笑みかける。


「うん。でも、ラクをするって結構大変なんだよ」

「ラクが大変なのですか?」

「そうだよ。だって、ラクってね。ただ寝て食べていればいいように見えるけど。それって凄くヒマなんだ」


 ボクはボクなりの怠惰を考えてみた。


 怠惰に枕を抱いてブクブクと脂肪を蓄えている怠惰な生活。

 それは大人になったとき、主人公にキモキャラ悪役として殺される未来へと繋がってしまう。


 でも、怠惰には生きたい。


 せっかく貴族でお金持ちの息子として生まれたのだから、苦労した生活なんてしたくない。

 だからこそ、若いうちにやれることをやって……大人になったらお嫁さんももらって、養ってもらうか……安定した収入源を作り出さないといけない。


 将来、主人公に殺される未来を回避したい。


 そして、老後は健康的な身体で、怠惰な生活を送るのだ。

 それこそ幸福度が高い怠惰と言えるだろう。


「ヒマなのでしょうか?」

「ヒマだよ。だって、娯楽らしい娯楽が何もないんだもん」

「でっ、でしたら、剣術など習ってみてはいかがですか?」


 何故か嬉々として剣術を進めるシロップ。


「嫌だよ。ボクは動くのが嫌いなんだ。

 睡眠の質を上げるために適度な散歩はしてもいいけど。

 必要以上に動きたくはない」


 耳をペタンと倒したシロップが物凄く残念そうな顔をする。


「そうですか~」

「剣術はしないけど。ボクにはシロップがいるから大丈夫でしょ?」

「えっ?」


 シロップは隠しているつもりかもしれないが、身体を鍛えていることは知っている。

 子供のフリをしてシロップに抱きつくと引き締まった身体をしているからだ。


 剣術が含まれているかは知らないけど、これだけ剣術を進めてくるってことは好きなんだろうな。


「リューク様!知っておられたのですか?」

「まぁなんとなくだよ。だから、ボクの代わりに剣術はシロップに任せるね」

「はい!」


 今度は嬉々として喜びを表現して尻尾を振る姿は可愛い。


 本当に体を動かすことは嫌いなので、ボクは一年間で魔力を増やす以外に一つだけ魔法を生み出した。


「さて、やるか」


 部屋で一人になったところで、魔力を練る。


 魔法には無属性魔法と属性魔法の二つが存在していて、無属性魔法は誰でも使うことが出来る。


 無属性で出来ることは


 ・生活魔法

 ・強化魔法

 ・付与魔法

 ・補助魔法

 ・回復魔法


 五種類に分類される。


 ・生活魔法は、生活に必要なライトやクリーンなど。

 生活に溶け込む魔法のことを指す。

 魔力を魔法に進化させて生活魔法を考えた人はとても偉い。

 戦闘がない世の中じゃ生活魔法の方が絶対大切だから。

 特にクリーンは超便利!!!使えない人も居るらしいから絶対覚えた方がいい。


 ・強化魔法は、肉体や武器、防具に魔力を流すことで一時的に強化出来る。五歳時でもタンスやベッドを片手で持てるぐらいには強化できる。その後、物凄い筋肉痛に襲われるけど。


 ・付与魔法は、鍛冶師や付与師と言われる者達が無属性魔法を利用して編み出した技術だ。

 武器に属性魔法を付与する際に使われる。

 技術魔法なので普通の人は使えない。

 ボクも使い方はわからない。勉強したら使えるかな?


 ・補助魔法は、他者に対してバフ効果やデバフ効果を魔力でイメージすることで相手に特殊な効果を与えることが出来る。

 これもある程度魔法の訓練を積んだ。

 魔法師や補助師しか使うことが出来ない。

 これに関しては幾つか使うことが出来た。


 ・回復魔法は、単純に細胞の自己免疫力に魔力を流すことで活性化させるようだ。

 骨や筋肉、血液のことを理解していればより回復するイメージが持てるので治る力は強くなるようだ。

 主に神官や薬師が知識を増やして覚える魔法になる。

 元の世界の知識のお陰で、回復魔法は得意な部類に入る。


 普通の人が使えるのは、生活魔法か強化魔法までだけど、どの魔法も知識と訓練がある程度は必要になる。


 ただ、無属性魔法とはつまり、魔力を色々な形に変化させて応用する魔法の基礎ということになる。


 その点に着目した。


 そうして完成させたのが魔力だけを固めた魔力玉を作ることに成功していた。


「よし。バル、出てこい」


 呼びかけると透明な魔力玉に顔文字のような^ ^が浮かび上がる。


「うんうん。今日も成功だな」


 オリジナル無属性魔法バルーンは、命令すると仕事を代わりにやってくれる優れた無属性魔法なのだ。


 例えば……


「バル。あそこの水を取って」


 ベッドに座っているボクからは30メートル離れたテーブルに置かれた水は取ることができない。

 だけど、バルに命令すると、バルは風船のような体の中へコップを吸収して溢さないようにボクの下へと運んでくる。


「ありがとう」


 受け取ると、バルは嬉しそうに笑顔の!(^^)!になって喜びを表現する。


 魔力玉に感情があるのかはわからないが、バルはボクが命令した通りに動いてくれる自立型魔法だ。


「それじゃあボクは寝るから、後は頼むね」

「(^^)/」


 バルの返事を聞いてすぐに寝息を立て始める。


 寝ているボクの身体はバルへ明け渡して運動を始める仕組みになっている。

 ボク自身が意志を持って動くのは嫌だけど。

 こうして誰かが別の意志をもって動かしてくれる分にはかまわない。

 何よりも身体が鍛えられて素晴らしい。


 こうしてボクは寝ながら魔力を消費して、身体を鍛える方法を編み出した。

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