第4話 天才
【Sideシロップ】
五年の月日は、人を大人へと成長させるには十分な時間だと私は思います。
私の身長は二年前から変わってはいませんが、我が主様であるリューク様は身長が伸びて、もうすぐ私と変わらないほどまで成長されます。
11歳、男の子として体の成長が促されて、身長が伸び、顔つきが変わっていかれております。
幼い頃はぽっちゃりとして可愛らしかったリューク様。
最近はお肌が弱いということで始めた洗顔?のお陰なのか綺麗な肌と整った健康的な肉体に成長されております。
我が主様もそろそろ声変りを始めるはずなのですが……我が主様は他の人とは違う成長を遂げました。
「シロップ、どうかしたの?」
私の目の前では気持ち良さそうなクッションに、全身を預けながら本を読んでいる美少女がいます。
いえ、美少女のように愛らしく成長されたリューク様がおられます。
声変わりをしておられないので、まだ声が高く聞こえます。
そして、部屋の中ではリューク様を乗せて、クッションが浮いているのです。
我が主様じゃなかったらメッチャツッコミたい!
クッションが空中に浮いています。
クッションに我が主様が寝転がるようにして浮いています。
大切なことなので二度言います。
「どうやっているのですか?」と聞いたこともあります。
しばらく我が主様は思考して、可愛く凛々しく成長された顔をコテンと傾げて……
「シロップも乗る?」
「えっ?乗っていいのですか?」
「全然、いいよ」
恐る恐るクッションの上に乗りました。
それは今まで感じたこともないほどフワフワしていて、なんと形容すればいいのかわからないほど心地よい乗り心地でした。
説明を誤魔化されましたが……私は一つの結論を出すことにしました。
これまで見たこともないことを成し遂げた我が主様は稀代の天才であると……クッションの上は思考することが馬鹿らしくなるほど心地よかったです。
あのクッションはどこに売っているのでしょうか?
「こんな心地よい物は初めてです」
「そう?よかったね」
「はい!あっリューク様。もう一つお聞きしたいのですが」
「な~に~?」
「どうしていつも本を読んで寝ているだけなのに、体が引き締まっているのですか?お食事はちゃんと取られていますよね?」
これも不思議です。
確かに美容については、この五年で共に化粧水や洗顔などしてきました。
他のメイドたちからは「シロップ綺麗になったよね?自分だけ何しているの?」と聞かれるようになりました。
高い石鹸を使って、毎日リューク様と共に洗顔をしているおかげとは言えないので、ただリューク様のおかげですと答えています。
綺麗なのは分かるのです。
ですが、運動は日光浴のときに散歩をしていらっしゃるのを見かける程度です。
健康には良さそうではあるのですが、決して身体は引き締まったりしません。
だけど、我が主様の身体は引き締まるほどの運動をしているのを見たことがないにもかかわらず引き締まっております。
これでもメイドとして、我が主様の剣であり、盾として護衛を務めております。
日々、私自身は研鑽を忘れてはおりません。
だからこそ、この肉体を維持できていると自負しております。
ですが、身体が成長するにつれて我が主様の身体は引き締まっていくばかりで、これほどの成長を遂げるのは絶対におかしいです。
寝ているだけのはずなのに、着替えの際に見た腹筋は割れていました。
「う~ん。それは教えてあげてもいいかな」
クッションから降りた私へ「見ていて」と我が主様が魔力を練り始めました。
最初は何をしているのか知らなかったので、それも質問して知りました。
我が主様は自身の掌の間に魔力の塊を作り出せるそうです。
「シロップ、いくよ」
私は……本物の天才を見ました。
目の前には、達人級の武闘家がおられます。
格闘技の型を実演する我が主様の姿は、その道を極めた者と同じ動きをしていました。私も自身を鍛えているからこそ分かるのです。
今の我が主様に決闘を挑んでも勝てない。
投げ、打ち、払い、殴り、蹴り、極めなど様々な動きを組み合わせた総合的な格闘術、それは何年も研鑽を積んだかのように綺麗な型として完成されていました。
今まで一度も剣術をしたことも、体術をしたこともない我が主様が、体術の達人だったのです。
「えっ?えっ?えっ?」
目の前で起きている出来事が信じられませんでした。
あれほど動くことが嫌だと言っていた我が主様が動いている。
それも達人クラスの動きを再現して見せている。
「どういうことですか?動かれるのは嫌いだったのでは?」
呼びかけても一心不乱に体術の型を披露する我が主様。
一通りの型を終えると動きが止まる。
「どうだった?」
先ほどまで真剣な瞳をしていた我が主様は、いつもの眠そうでやる気の無さそうな瞳に戻られました。
凜々しい瞳にドキッとして、今のだらけた瞳も可愛くてドキッとしてしまいます。
「凄かったです。リューク様がご自身でここまで努力していたなんて驚きです!」
「……努力か……違うんだけど……まぁいいか」
リューク様は本を読んでいたときよりも、眠そうな顔でクッションにもたれかかりました。
「違う?何が違うというのですか?あれほどの動きは、本物の格闘家の方でも見たことがありません!!」
「うん。まぁそうだろうね。僕が生み出した魔法の一環でトレースっていうんだ」
「トレース?」
クッションで浮くだけでも凄いのに、さらに新しい魔法を生み出していらっしゃるなど、やっぱり天才以外の何者でもありません。
「うん。ボクが意識を失うことで発動できるんだ。その間に脳が見たことある動きを真似る魔法なんだよ。
ボク自身は動いている意識はないから努力はしていない。
だけど、身体は鍛えられるし、自然に体が覚えてくれるから便利なんだよ」
我が主様から説明を受けても、私には一ミリも理解できませんでした。
頭の出来が違うのです。
ただ、一つ理解できたのは、我が主様は天才です!
11歳と言う歳で我が主様は、魔法の深淵を理解されておられるのです。
「う~ん。説明してもわからないかな?まぁ、知識チートの一つだから理解されないよね。そうだ。そろそろ無属性魔法もある程度使えるようになったから、属性魔法の測定をしてもらいたいんだけど。お父様に伝えといてくれる?」
我が主様はマイペースな方です。
この五年で見た目だけでなく、魔法の実力も高められました。
それは私では到底理解出来る領域ではありません。
きっと我が主様は大きなことを成される人であることは理解できます。
「はい!かしこまりました!」
ですので、私はどこまでも我が主様についていきます。
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