第2話 シロップ
【Sideシロップ】
私の名前はシロップと申します。
デスクストス公爵家のメイドを務めております。
私の母がリューク様のお母様専属メイドとして働いていました。
そのおかげで、幼い頃からリューク・ヒュガロ・デスクストス様の専属メイドとして仕事をさせて頂いております。
リューク様はお可哀想な方なのです。
お母様はリューク様を生んだ後に体調を崩されて、そのままこの世を去ってしまわれました。
それからデスクストス公爵様はリューク様に無関心になり、一度も会いに来られたことはありません。
五歳の誕生日を迎えた日も、家族の誰もいらっしゃらなくて、数名のメイドと執事だけでささやかなお祝いしかできませんでした。
その席では食事を楽しんで居られましたが、食事の途中で急に倒れられて高熱を出されたのです。
ですが、翌日には熱こそあるものの、なんとか体調を戻されて私は安心しました。
メイドの中には心なく、リューク様は暗殺されそうになり、毒を盛られたのではないかという人もいました。
毒は恐ろしいモノです。
人の容姿すら作り替えてしまうほどだと聞いたことがあります。
私は母からリューク様を守る戦闘技術は学びましたが、知識面ではまだまだ未熟です。犬人族と通人のハーフとして生を受けました。
亜人種はアレシダス王国では蔑まれる対象なのです。
通人至上主義を唱える教会の意向が王国中に蔓延しているからです。
幼い頃に母と外に買い物に出かけた時に感じた蔑む瞳は今も忘れることはありません。
デスクストス家の中では誰も私や母を蔑んだ目で見ることはないので、私にとっては国よりも公爵家の方々の方が大切です。
専属メイドとして、お世話をすることになったリューク・ヒュガロ・デスクストス様は、生まれて間もない頃。
私の尻尾を見て、それはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべておられました。
いつも私の尻尾に夢中になっておられたので、小さくて、可愛くて、絶対に私が守るんだと固く誓いました。
五歳になられた誕生日に高熱を出されたときは、死んでしまうのではないかと心配で夜も眠れませんでした。
高熱が治まってからも、度々体調を崩されることが多くなったリューク様がとても心配です。
ですが、いつも笑顔で私に甘えてくれるので本当に可愛い天使なのです。
今日もリューク様が私に本を読んでほしいとお願いをしてきました。
私としては犬が主人を待つ忠犬はっちゃんという絵本がオススメでしたが、リューク様が選んだ本は魔導書でした。
【魔法の基礎】と言われるタイトルの魔導書を選ばれ、五歳児が興味を持つには、あまりにも難しい本だったので驚いてしまいました。
「シロップ。ご本読んで」
「はい。リューク様」
可愛いリューク様のお願いです。
読まないという選択肢はないのですが、大丈夫でしょうか?
「こんな難しい本でいいのですか?」
「うん。ボク、魔法を使ってみたいんだ」
ふふふ、理由がとても可愛らしくて私の杞憂だったようです。
五歳であってもリューク様は男の子なのです。
魔法や剣に憧れるのは当たり前のことですね。
「リューク様も男の子ですね」
私はリューク様が生まれる前から文字や計算、メイドとしての作法を母からミッチリと指導を受けました。
それはリューク様のお世話をするにあたり不足があってはならないからです。
魔法の基礎は難しい内容で、読んでいても私ではあまり理解が出来ませんでした。
難しい文字も多くありましたが、読むことに問題はありません。
何よりもリューク様が……
「シロップは文字が読めて凄いね!」
褒めてくださいました。
ふふ、我が主様は可愛いだけでなく、女心もわかっているのです。
それにしても魔法の基礎とは小難しいことばかり書いていて、何が言いたいのでしょうね。
魔力とは
魔法を生み出す基礎講座
無属性魔法と属性魔法に違いについて
魔法は誰でも使うことができます。
ただ、魔法は難しいのです。
普通の人は無属性魔法しか使うことができません。
それも才能が無い人では、片手で数えられる程度に覚えるのがやっとです。
それでも不自由はないのです。
私はいくつかの生活魔法と肉体強化しか使えませんが十分です。
難しいことはあまり興味がありません。
魔力など、その辺に普通に漂っています。
魔法だって、生活魔法として習うもので十分です。
魔法の基礎講座と言いながら、私でも知っていることばかりなので基礎以下だと思います。
属性魔法は特別な才能が必要だと言われています。
貴族様たちは属性魔法が使える人が多くいます。
リューク様は才能があるのかどうかわかりません。
貴族様なので魔法が使えると思いますが、属性魔法は才能が必要なのでどうでしょうか?
あらあら、私がご本を読んでいる間に眠ってしまわれました。
子供らしいふっくらとした頬を優しく撫でます。
目元はお母様に似てキリっとした凛々しいお顔をされているのに、ほっぺがふっくらとしていて本当に愛らしい。
私は少し重くなられた我が主様を抱き上げてベッドへ運んで差し上げました。
母から習ったのは、何もメイドとしての作法だけではありません。
いつか現れるかもしれないリューク様の敵を葬り去る力を私は日々鍛えております。
「あなた様は必ず私がお守り致しますね」
愛しい我が主様の寝顔を眺めて、幸福感を充電した私はお部屋を後にした。
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