エピローグ

 現在、ヒデちゃんは神奈川の工業系の大学に通っているみたいだけど、ヒデちゃんは覚えているのかな?

 うん……、多分だけど、覚えていると思う。

 

 ……ああ、懐かしいなぁ〜。



 今になって考えると、あの時、私がサクラの木から落ちて、大怪我おおけがになりそうだったのを助けてくれたのは、あのサクラ色のウサギだったのかな?

 なぜかと言うと、あの時から一日前の夜の不思議な音楽会の時に、私は同じようにウサギを助けたから。

 だって、そうしないと、何もかも説明がつかないでしょ?


 それと、うたゑばーちゃんが言ってたことは、本当だったのかもしれない。 小さい頃に、実際、私は『精霊』に会ったのかも。

 いやいや、いやっ! 


 あのサクラ色のウサギは、「私たちが生まれるずーと前から、サクラの木に住んでいる」と言っていた。

 ……そう。きっと、あのサクラ色のウサギは、川辺の大きなサクラの木の『精霊』に間違いない。


 あの頃の幼かった私は、純粋だったかはよく分からないけど、『子ども』であったことは確かだ。

 偶然だったけど、私はとってもラッキーだったのだろう。

 何気ないきっかけで、『精霊』に会えたんだものっ! 私が『精霊』に会えたことは、


 だって、ずっとずっとずっと、夢の中の話だと思っていたのに……。

 見間違いとか幻覚とかじゃないって、ちゃーんと分かったんだから。


 それから、最近になって思ったことなんだけど、あのサクラの木の『精霊』が、昔からずっーと長い間サクラの木に住み続けているということは、今の大人になった私には見えないことになるな。

 心が『純粋』ではなくなった、みたい、だから……?


 でも、そういうことだったらっ!

 たとえ、大人になっても、私の心が『子供』のように『純粋』であったら、あのサクラ色のウサギの姿をしたサクラの木の『精霊』に、きっといつか、再び会えるかもしれないっ!

 私は、そう信じている。



 だから、私はこうして愛犬の散歩の時には、必ず川辺のこの大きなサクラの木に寄ろうと思っています。

 ここに来たら、また本当に、あの『精霊』に会えると思っているから……。



 私は、ふと腕時計を見た。すると、なんと、もう午前九時を過ぎていた。

 そうやって昔の回想をしたり、いろいろと考えごとをしたりしているうちに、随分ずいぶんと時間が経ってしまったみたい。

 すぐ横のサクラの木を見ると、相変わらずにサクラの花びらは、風に吹かれて華麗かれいに散っていた。


 もーそろそろ、帰らないとっ!

 私が立つと、プッチーは目を開けて、大きく背伸びをしながら、欠伸あくびをした。

 公園と逆方向を見ると、茶色い犬を連れた老夫婦がサイクリングロードを歩いてくるのが分かった。

 私はサクラの木に背を向けた。しかし、一旦サクラの木の方をスッと振り向いた。

 そして、サクラの花びらを見上げて、背をピッと伸ばした。


「サクラの木の『精霊』さんっ! あの時は私を助けてくれて、どうもありがとうっ!」


 もしかすると、あの『精霊』が姿を見せて、何か返事をしてくれるのではないかと期待して、私は少し大きな声でお礼を言ってみた。

 しかし、やはり『精霊』は私の前に姿を現さず、何の返事も無かった。


 ……当然だよね。 私、期待しすぎだのが、ダメだったみたい……。

 そう思って、渋々しぶしぶあきらめた私は、来た道を戻り始めた。


 と、その時っ!


『キューイ、キューイ……』


 あのサクラ色のウサギ、つまりあの『精霊』の鳴き声が、私には聞こえたような気がした。

 その後、私は再びサクラの木の方に振り返った。


 もちろん、『精霊』の姿は、どこにも見当たらない。

 でも、


 ほぉ〜ら、私の想いは通じたじゃないっ! 私は何だか嬉しくなって、満面の笑みになった。

 そして、私はプッチーと一緒に、再びサイクリングロードを歩き始めたのだった。



〈了〉

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サクラ色のウサギさん 立菓 @neko-suki

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