最後の奇跡(上)

 私が目覚めた時には、次の日の朝になっていた。

 ガバッと起きて、周りの異変に気付いた。思わず周りを見回した。

 昨日、夜の音楽会の途中で、ヒデちゃんと二人でサクラの木の前で寝てしまったはずなのに、私は起きた時には、なんと自分の部屋のベッドの中に居たのだ!


 一体、サクラの木の前で、私が眠ってしまった後に、一体何が起こったの?


 私は、そんなことで頭が一杯になった。本当に訳が分からなかった……。

 カーテンを開け、私は朝の光を浴びながら、しばらく私は窓の外をボケーと見ていた。


 とりあえず、私はベッドから出て、フラフラと階段を下りて、一階に行った。 そして、台所に入った。



 今日は日曜日。

 お母さんは、車で約十分の、大きなスーパーに働きに行っていた。

 一方で、大工のお父さんは仕事が休みのようで、一人で新聞を読んでいた。


「……お父さん、おはよう」


「おお、ツル。今日は起きるのが早いじゃねーか」


 時計を見ると、午前八時五分だった。

 私はテレビをつけ、卓袱台ちゃぶだいの上にある、急須きゅうすのほうじ茶を湯飲みに注いだ。

 それから、自分で鍋の中の温かい味噌汁みそしるや炊飯器のご飯や、卓袱台ちゃぶだいの上の数種類のおかずを取って、テレビを見ながら食べた。


 私は、午前中に、川辺の大きなサクラの木のところへは行かなかった。

 宿題の計算ドリルや漢字ドリルを、やり終えないとダメだったし……。

 あと、その頃は、まだプッチーが居なかったから、朝と夕方の犬の散歩はしていなかったしね。


 そして、それらの宿題が全て終わってから、午後からサクラの木のところに行こう、いや、サクラ色のウサギに会いに行こうと思っていた。

 その時は、いつでもサクラの木のところに行けば、必ずあのウサギに会えると、当たり前のように思っていたから……。



 正午の十二時になって、家からちょっとだけ離れたところの広報無線から、正午を知らせる音楽が流れた。

 それと同時に、私は宿題をやり終えた。


 と言っても、算数の問題で、数問解けない問題があったから、ヒデちゃんちに行って、ヒデちゃんにそれらを教えてもらってから、サクラ色のウサギに会いに行くことにした。

 さっさと昼食を食べて、私は宿題を持って家を出た。



 私の家は昔からの狭い和風だけど、ヒデちゃんの家はとても広い洋風建てだった。

 何の連絡も無く、ヒデちゃんの家に行っても、ヒデちゃんは普段通り家に居た。

 玄関に入ると、ヒデちゃんのお母さんが笑顔で迎えてくれた。

 ヒデちゃんのお父さんは、朝からずっと同じ会社の人と、町内の少し遠いところの川へ魚釣りに行っているらしい。


 私は奥の部屋に案内され、その部屋の戸を開けた。ヒデちゃんは、自分の部屋でマンガを読んでいた。


寿臣ひでおみ。ツルちゃんが、宿題の計算ドリルで分からないところがあるから、教えてほしいって」


「はいはい、分かったよ~」


 私はヒデちゃんの部屋に入って、四角い木のテーブルの前に座った。

 ヒデちゃんは、いつも分かりやすく丁寧に教えた。だから、十五分もかからないで終わった。


 私は、それだけ早くサクラ色のウサギに会えると思って、すごく嬉しくなった。

 それで、私はヒデちゃんに彼の宿題の状況を聞いてから、もし一緒に行けそうだったら、ヒデちゃんを誘おうかと考えた。


「ヒデちゃん、宿題終わった?」


「ああ。昨日の夜に終わらせた」


「良かった! だったら、これからまた、大きなサクラの木のとこに、私行こうかと思っているんだけど、一緒に行かない?」


「うん、いいぜ」


 ヒデちゃんがあっさりといいと言ってくれたから、それから私たちはすぐに、出かけることになった。

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