夜の音楽会

 その日の夜。周りの家の電気の光は、少しずつ消えつつあった。

 午後九時半頃に、私は自分の部屋のベッドに入り、すぐに眠りに落ちた。

 そうして、どこもかもが、静寂に包み込まれ始めようとしていた。



 それから、何時間、いや何分経っただろうか。

 突然、私は目が覚めた。外から不思議な音楽が聞こえてきたからだ。


 私はすぐ横のカーテンを開け、窓から外を覗いてみた。

 どうやら、その音楽が聞こえてくるのは堤防の方からのようだった。

 とても気になったから、私は思わずツッカケをいて、パジャマのまんまで外に出た。


 その後、私は全速力で走った。それで、小さな工場の横を通って、堤防に上った。

 堤防を上がり終えたら、私はスピードをゆるめて歩いた。


 すると、頭上に、何かが飛んでいる気配がした。


 ピーチュル、ピーチュル……。

 

 私が空を見上げると、一匹のヒバリが鳴きながら、円を描くように飛んでいた。

 しばらくすると、そのヒバリは急降下して、私の周りを何回もグルグルと回った。


 ……ピーチュル、ピーチュル。

 

 もう一度鳴くと、ヒバリは再び外に向かって舞い上がった。そして、堤防に沿って一直線に飛んで行った。


「一体全体、このヒバリは何なの?」と思いつつも、気が付くと、私は誘われるように、ヒバリの後を追いかけて行った。

 ヒバリの後を追って行くにつれ、あの不思議な音楽が、次第に大きくなってきているのが分かった。



 小さな橋の横を通り、公園を抜け、私は川辺に出た。

 音楽が聞こえてくるところは、私の家からは少々離れているようだった。

 そうして、小走りでヒバリについていくと、大きなサクラの木の前に着いた。



 ヒバリは、サクラの木の枝にとまった。

 

 ……と、私がサクラの木を見た時、私は息をんだ。

 なんと、そこには数百匹の鳥が枝にとまって、まるで音楽を奏でるように一斉に鳴いていたのだ!

 ツバメにスズメにカラスに、それにウグイスなどなどっ。

 窓の外から聞こえてきた、不思議な音楽の正体は、このたくさんの鳥たちの鳴き声だったなんて、本当に驚き……。


 私は芝生の上に座って、不思議な音楽に耳を澄ませていた。

 その時、さっきとは違うヒバリが、サクラの木に枝にとまった。


「……ツル?」


 背後から聞き覚えのある声がして、私は後ろを振り向いた。

 そこには、私と同じような格好をしたヒデちゃんが居た。ヒデちゃんは驚いて、私の方を見た。


「なんかの曲が聞こえて、外に出たら……。そしたらよ、奇妙な動きをしたヒバリが居て、そいつについていったら、ここに来たんだよ。お前も来てたなんて、想像してなかったしな。

 それにしてもっ! こりゃあ、何なんだよ。すごくねーか?」


「うん……」


 ヒデちゃんは私の横に座り、ポケーと鳥たちの大合唱を見ていた。

 それからすぐ、サクラの木の後ろから、あのサクラ色のウサギが現れた。


「あっ、ウサギさんっ!」


 私がそう言うと、ウサギはサクラの木の正面に立った。


「キュイ、キュキュイッ」


 いつもの鳴き声を出すと、ウサギは一気にサクラの木に駆け登ろうとした。

 しかし、三メートルの高さまで登った時、ちょっとした悲劇が起こった。ウサギが足を滑らせて、真っ逆さまに落ちたのだ!


 その瞬間を見た私は、何も考えずに、ひたすら真っ直ぐに走った。すぐにヒデちゃんもそれに気付いて、立ち上がって、何か叫んでいた。

 サクラの木のすぐ前まで来た時、私は上を見て、両手を伸ばした。その後すぐに、私はウサギを受け止めた。まさに、危機一髪だった。


「ナイスキャッチッ!」


 ヒデちゃんがそう叫んで後、私は心底ホッとした。


「ウサギさん、大丈夫?」


「キュウウーイ……」


 私はウサギの無事を確認すると、ウサギを太い幹の上にそっと乗せた。

 ウサギはゆっくりとした足取りで、てっぺん近くの枝まで登った。


 その後、また驚くようなことが起きた。

 ウサギが位置につくと、三分の一の散ったはずのサクラの花びらが、全てポッと咲いたのだ!


「キュー、キュー、キューイ」


 驚くようなことは続いた。

 ウサギが鳥たちと一緒に歌い始めると、サクラの木は命が吹き込まれたように、その場で動き始めた。左右に、たまに前後に、まるで鳥たちとサクラ色のウサギの大合唱に、リズムをとっているかのように……。

 私は、まるで夢を見ているような感じがした。


 チュンチュン、カーカー、ピッピー、ホーホケキョッキョッ、キュイキュイッ。

 ピーピー、キュキュイキュキュ、カカカッ、チュッチュン、ホケホーケキョ……。


 心地良い、不思議な音楽を聞いていたら、何だか私もヒデちゃんもウトウトし始めた。

 そして、知らない間に、私たちはその場で寝てしまっていたのだった。

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