砂のような日常(短文詩作)

春嵐

第1話

 あまり、意味のある行動ではなかった。

 どこへ向かうかも分からない交通機関に乗る。そして、どこかへ向かう。

 よく、日常のことを忘れる。名前。所属。好きなもの。自分のこと。着ていた服のサイズさえ、脱いでみるまでわからない。胸はあるので、たぶん女。不安になったら、自分の胸をさわって自分をなだめる。本当は心臓をぎゅっと握ってやりたいけど、胸が邪魔をしてる。どうでもいい。

 自分が、本当に存在しているのかどうかすら、曖昧。人からあまり、認識されるほうではない。それは分かる。声をかけられることもない。

 どこへ向かっているのかも、よくわからない。

 砂時計のなかの砂粒みたいな日常だと思う。自分が、何を表しているのか。器のなかで流れ落ちる砂には、外のことは分からないまま。ただただ、流れ落ちて、逆さまになって、また流れ落ちる。上がることはない。自分の記憶も、特に戻ることはない。

 景色だけが、過ぎていく。

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砂のような日常(短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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