第45話 小話 ディル視点 後悔

やっと、やっと、休暇が取れた。


 みんな、なにかと俺に魔獣討伐の事後処理を回してくる。ザックもアーノルド支部長もだ。

 

 確かに王弟として討伐の先頭に立ったのだから、当然のことだとも思うがそれでも、レナが意識を取り戻した日ぐらい、側に居てやりたかった。


 やっと明日、約束を果たせる。

 一緒に絵を仕上げることができるなんて、奇跡のようだ。

 この6年、本当にいろいろとあって長かった。

 


 本当は討伐にはレナを連れて行きたくなかった。

 支部長がレナを討伐に誘ったあの時、もっと強く反対しておけば…

 あの時は俺がレナの側にいれば、絶対に守り抜けると思っていた。

 その考えが甘かったと痛感し、後悔している。


 まさか… レナが治癒魔法の使い手だったなんて…

 帝王学で学び、知識としてはそういう魔法があり、使い手は王族のみであることは知っていたが…

 

 6年前にレナに初めて出会った時に、俺の足の怪我を痛みが飛ぶ魔法だとか何とか言って、足を治してくれたのは治癒魔法だったんだな。


 自らの命を削ってまで…


 そんなことをレナにさせてしまった。

 でも、今さら後悔しても遅い。


 レナがあの討伐の日、大地を元に戻すのに治癒魔法で魔力を使い切ってから、3週間も意識が戻らなかった。

 あの時、俺は側にいたのにどうしてレナを止めることが出来なかったのか。

 ずっと後悔している。


 あの日、あの時、レナは一度死んだ。

 俺の腕の中で途切れ途切れの会話…最期にレナリーナと名を呼べば、レナの瞳から一筋の涙が頬を伝い、そのまま瞳を閉じた。


 いま、思い出すだけでも手が震える。

 レナを失うところだったのだから。


 レナの鼓動が止まり、もう二度とそのタンザナイトのような麗しい紫色の瞳に俺を映すことはないのかと思うと、ただただなにか出来ないかと必死だった。

 偶然にも自分の魔力をレナに注ぐことができて鼓動が再開した時は、いままで神の存在など信じたことなどなかったけど、その時ばかりはこの奇跡を神に感謝した。


 

 レナが突然転移してきた討伐の前夜。

 レナが好奇心だけで転移魔法を使ったのは、あの慌てぶりでよくわかる。


 男慣れしていないレナのことだ。

 そんな時間に男の元にきて、なにが起こるのかも考えもしなかったんだろう。

 相手が俺でよかったと心底思う。


 レナの濡れた髪に触れ、真っ赤に頬を染めるレナを見て、もうこのまま帰したくないと抱いてしまおうと何度も思った。


 なんとか理性を保ち耐えたけど、こんなことになるなら、あの夜にレナを抱いてしまえば良かった。

 討伐に参加できないぐらい抱いておけばこんなことにならなかった。

 ずっと後悔していた。


 後悔だらけの3週間。


 明日はやっと6年越しの約束を果たせる。

 俺はもう心に決めている。


 二度と後悔はしない。

 

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