第41話 応用

夜明けと同時に出発をした。

 ラストリアの部隊と王都組の部隊と案内役の狩猟組合の人で編成され、総勢20人ぐらいだ。

 狩猟組合から目撃情報があった、チャドワ湖の奥の森、街の北西5キロ程のところにある池の周辺を目指すが、その辺りにたどり着くには森を抜けて道なき道を進まなければならない。

 初夏なのに今日は少し肌寒く、夜が明けたはずなのにあまり明るくなってこない。


「今朝は天気が悪いな。今にも雨が降りそうだな」

「雨が降る前に魔獣を発見したいな」

 皆、曇天を恨めしそうに見上げながら、早足で進む。


 街はずれまで来ると、所々に家があるぐらいで畑が広がり、そしてその奥に鬱蒼と木々が生い茂る森が見えてきた。

 遠くに昨夜、ディルが連れて行ってくれた山々が見えるが今朝はもやで霞んでいる。

 一列になって歩き、わたしのすぐ前をザックさん、後ろにディルと本当に守られているので不安は少しも感じない。


「レナ、大丈夫か?」

 後ろからディルが心配そうに小声で声をかけてくれる。

「まだまだ大丈夫よ」

 後ろを振り返って、余裕があることをアピールする。

 そのうちポツ、ポツと雨粒が顔に当たり出した。

 まずいな。雨か…

 ずぶ濡れになるときっと体力が奪われる。

 この20人ほどの部隊が雨宿り出来る場所は森の手前のこの辺りには見当たらない。


 ふと思い出す。

 ロン叔父さまと練習をした魔法の応用を。

 慌てて、少し前の方を歩いているアーノルド支部長の元に走る。

「アーノルド支部長、ご提案がありまして許可を…」

 アーノルド支部長がわたしの話を歩きながら聞いて頷いてくれる。


「おーい先頭、止まってくれ!」

 アーノルド支部長の掛け声と共に部隊の歩みが止まった。

 それを確認して頭の中でイメージをつくり、術式を詠唱した。


 「「「…おおっ!!!」」」


 皆が己れの頭上に一瞬で展開された魔法を見ながら、感嘆の声を上げる。

 

 防御魔法を部隊の頭上に展開したのだ。

「雨が弾かれる!!」

「屋根が頭の上に出来たぞ!」


 ディルとザックさんが走ってやってきた。

「レナ、これは?」

「防御魔法の応用よ。わたしが術を解くまで防御魔法が雨除けになってくれるわ。長い時間展開をするから魔獣を防御出来る程の強度はないけどね」


 ディルが頭上に展開された防御魔法を触ろうと手を上げる。

「触っても掴めないわよ。邪魔になるようなら解くわ」

「いいや、このままで。これなら皆が濡れずに済む。レナ、ありがとう」


 ディルがあまりにも嬉しそうにする。

 そして、口々に騎士様達からお礼の言葉をいただく。

 少しは役に立てたのだろうか。

 みんなの喜ぶ姿を見ながら、この先の無事をそっと祈る。

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