第21話 秘密の話2



「一体、どう言うことだ?この婚約話は俺とザックと宰相と団長ぐらいしかまだ知らないだろう。」

 

 やっぱりそうか。あとは宰相と団長ぐらいしか知らないんだ。


「そうですよね。俺にもさっぱり。ダズベル王国のノッカード侯爵に打診したのもまだ3日前ですしね。ダズベル王には急ぎ知らせるとはおっしゃっていましたが、レナリーナ姫の出発日を考えてもこの話を知っているとは考えられませんから、魔女達もどうやって知ったのやら…」

 ふたりとも黙ってしまった。どう考えても不可思議である。


「あっ、でもアドレさんが我々がレナリーナ姫とディカルト殿下の婚約話を進める話には反対をしない。むしろ、2人の仲を取り持つのに協力するとのことでした。」


「えらく、好意的ということか?」


「はい。レナリーナ姫はラストリア滞在中、アドレのパン屋をお手伝いされるので、俺たちがラストリアに滞在するときはディカルト殿下も俺もアドレさんの家に泊めてくれるそうです。」

 ちょっと、強引に押し切ったが嘘ではない。


「すごいな。全面的協力か!そうなると、本当になにかありそうだな。レナリーナ姫がラストリアに極秘滞在すること、魔女達の思惑… 」


 ふたりは顔を見合わせるとお互いニヤリとした。


「陛下、いまものすごく悪い顔をしていますよ。面白いことになると思ったでしょう。」

「そういうザックも顔が笑っているぞ。面白いことが起こりそうだな。」

 

 ここは乳兄弟。6年前まではずっと一緒だったこともあり、お互い考えることが手にとるようにわかる。


 クックックック


 男ふたりの楽しそうな高笑いが部屋に響く。


「ディルはレナリーナ姫にえらく惚れ込んでいるみたいだが、実際はどんな姫なんだ?」

「髪の色はブロンズで、瞳はタンザナイトのような紫色、春のような優しい雰囲気を纏っておられて、笑うとガーベラがそこら中で咲いたように華やかになる姫ですね。」


「かなりいい感じじゃないか。」

 陛下が身を乗り出して聞いている。


「そうですね。美人と可愛いの間のような。まだ18歳なので、これから相当な美人になりますよ。魔力は強いようで転移魔法はさっぱりのようですが、雷のような魔法がお得意のようですね。わたしも以前はその魔法で助けられましたし。」


「以前、助けられたというアレか。そんな可愛い姫の得意な魔法が雷のような魔法ってのもギャップがあるのがいいな。『かみなりしいたけの聖女』という二つ名、あれいいな。」


 誰がつけたのか…

 あの集落が一大しいたけ産地にでもなったら、それこそ伝説にも絵本にでもなりそうだ。


「本当に。あの容姿からはそんな魔法がお出来になるとは想像がつきませんよ。レナリーナ姫は絵も大変お上手ですしね。陛下もご存知のディカルト殿下が大事にされている絵を描かれたのもレナリーナ姫で今回、絵を仕上げるためにドレスは1着も持たずに画材一式を持ってきたそうです。」


「姫なのに?ほら、着飾ってえらくゴテゴテした感じでいかにも令嬢って感じじゃないのか?」

「いや〜 なんていうか、所作やマナーは姫だけあって大変お美しいですよ。厳しい教育を受けてこられたのがよくわかります。街娘風に服装はしておられますが持っておられる雰囲気で貴族以上であることはわかるので隠しきれていませんね。でも、かなり気さくな方で宿屋でもかみなりしいたけの時も、お客様や集落の人たちと仲良く話されていましたよ。」


「なるほど。女性不信のディルが惚れた理由がわかってきたような気がする。」

 陛下が妙に頷きながら納得をしている。


「俺も魔女達に負けず全面協力しますよ。この婚約話はおふたりが恋仲になるまではディカルト殿下には絶対に話しませんから、そのつもりで陛下もお願いしますよ。」


「ザック、わかっているって。ディルが不本意でも政治的であっても婚約をして少しでも女性を知って、そして本当の恋になったら、女性不信がなんとかなるのではないかと考えていたのに、こんな偶然にディルの初恋の相手が政略結婚の相手だなんて。俺には出来なかった恋愛結婚ってものをディルが出来ると思うと俺はうれしいんだ。」


 ハッとする。

 そうだ。陛下は政略結婚だった。

 あの騒動を治めてすぐに力のある公爵家と縁を結んだ。

 まだ20歳だったんだ。いろいろ思うこともあっただろう。


「………そうだな。」

 言葉に詰まった。


 ふたりがしあわせそうに手を取り合っている姿を想像した。

 そうなるように…

 握った拳に力が入った。

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