第95話:反撃のはじまり
彼女は闘技場にいる全員が息を呑むのを理解して、満足気に微笑んだ。
今まで闘技場で剣を交えて勝ち上がって来たのは?
じゃあ、今僕の隣にいるのは?
シリウスは不適に笑い、少年兵に扮して闘っていたのはシリウス本人であれば、このベールを被る少女は一体誰なんだ。
くすくすと可愛らしく笑うその声、口元を指先で押さえる仕草。
「まったく、ご自分から正体を明かしてしまうなんて。困ったお方です」
――
この声は――。唱えた呪文の声にオスカーはますます混乱した。フードを取り、さらされたその姿はふわりとした白髪に白い肌、赤い目。妖精と見紛うその姿。
「フィオーレ……?」
確かにさっきまでの横顔はシリウスそのものだった。つまりフィオーレは魔術で姿を変えていたということだ。全く聞かされていない作戦に唖然とするオスカーに、フィオーレはいつもの優しい笑みを返した。
「私と陛下の背丈が近かったから出来たことです」
「——そんな危険なこと」
「お咎めなら後で。ネズミが穴から出てきたようです」
「——っ」
振り返ったオスカーの背後には数人の傭兵が武器を持ち近づいて来たが、オスカーが後退する前に彼らはひっくり返った。シリウスが脇にある短剣を持ち替え、彼らの脳天に投げつけたのだ。
「流石、女王陛下。あいつどんな腕してんの? 俺の出る幕ねえじゃん」
「あ、アリスタ?」
珍しく変装をしていないアリスタが、得意のシャムシールで残りの傭兵を絶命させてひょっこりと現れた。
「よっ。ちびっ子共を助けに来たぜ。高いところが怖いとか言わないよな、カルマ?」
「——うん!」
「いくぞ!」
「僕にも聞いてよ! って、うわあああ!」
先に飛び降りたフィオーレに続き、二階程の高さのあるバルコニーから何の恐れもなく、オスカーとカルマもアリスタに脇で抱えられて飛び降りた。
フィオーレが小さく呟いた言葉と同時にバルコニーは白く弾けて霧散し、四人を追っていた傭兵たちは混乱している。
「なっさけない声出すなよなあ、オスカー」
腰を抜かしたオスカーをアリスタは抱えたまま、シリウスとヴェロスの元へ走った。
――女王を討て!
怒号と共に四方八方から湧き出る武装した二百以上の兵士たち。兵士がオスカーたちの背後まですぐ近くまで迫ったが、一人の騎士がその兵士を風のように薙ぎ払った。
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