第8話:七星卿(2)


「―――七星卿カヴァイエ―ル


 七つの小国の代表者で女王陛下の臣下。あなたたちが女王と共に王国に善政をもたらす。空想でも妄想でもなく、それは実現できる。不敬は承知です。あらゆる処罰も受ける覚悟で申し上げます。あなたたちにはこの王国を支える女王の真の臣下になって頂く」

 その場にいる全員が沈黙した。嘲笑するものはおらず、張り詰めたその空気を各々が味わっているようだった。

 小国から一人王国へと召し上げる。

 これは体の良い人質。しかしこの政策に乗れば、女王に次ぐ地位を得られる上に未来の夫、王配になれる権利を得られる。その覚悟で幾日もかけて馬を走らせ王都にたどり着き彼らはここにいる。

 彼らには理解は出来なくとも、利用価値がこの王都にはあると思わせればそれでいい。

 地位や名誉に靡く単純な者ではないことは駆け引きで十分に理解はできた。それを喜ぶべきか厭うべきか。

 そう、ここにいる全員は応酬、駆け引き、戦略に秀でた者ばかり。知力も戦術も、護衛も不要とする護身術も、誰にも引けを取ることはない、小国そのものを象徴している。

 けれど分かる。この緊張感の中にある無言の駆け引きを皆、楽しんでいるということ。

「……………」

「待て」

 長い沈黙を破ったのはブルトカール家のヴェロス卿。

「ここに居るのは七人。お前が七星卿でなければ、残りの一人はどこだ」

 ヴェロスの問いに、皆が玉座の間を見渡した。

 紫の国ヘリオトロ―プの者が誰も来ていない。

 おかしい、馬車の到着は確かに見たはずだ。

「私も紫の国の旗を見ましたが」

 最後に到着したフィオーレが目撃したのであれば間違いはない。


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