第7話:七星卿


―――しまった。

 言葉を遮ること。これは下の身分のものがやってはいけない無礼。その場で首を跳ねられて然るべき行いだ。

 その場にいる全員はオスカーを凝視した。

「名は何だ。どこの家のものだ」

リゲルは二歩、三歩とオスカーに詰め寄った。

 その視線も言葉も冷たく、オスカーは息を呑んだ。

「僕は、僕は……。オスカー。ただのオスカー、です。陛下の側近のようなもので………」

 あ―あ、と海賊が意地悪な笑みを浮かべ、騎士は黙って見つめている。

「言いたいことがあるなら言え」

 膝をつくこともできず、オスカーは立ち尽くした。リゲルの氷薄色アイスブル―の目に冷たさに体は動ない。

「ちがう、と言ったな。貴様が否定したいのは俺の発言。つまりお前は小国の完全な同調は可能だと思っているわけだ」

「それは………」

 言い淀むオスカーはリゲルの真意を理解した。彼は確認したいのだ。身分を超えてまで言葉を遮った発言の重要性は何か。

 オスカーは今になって自分の発言の愚かしさに気が付いた。


 予定通りシリウスが玉座についてから彼らに説明すればいい。

 一言謝って引き下がればそれでいい。

 それなのにそうしたくない、自分がいる。

 何故だ、何で僕はそう思い感じるのだろう。


「女王の元であれば七つの小国が同調するのは空想でも妄想でもない、七星卿がいれば―――」

「七星卿?」

 思わず紡いだ自分の言葉に眩暈がした。

―――だめだ、引き下がるな。

「どうした。顔色が悪いぞ」

 紳士的な騎士は駆け寄り、意地の悪い海賊はくつくつと喉を鳴らした。

「坊ちゃんがいじめるからだぜ」

 違う。リゲルのせいじゃない。

 自分で言った自分の言葉が毒になるような感覚。

目の奥が痺れる、喉が痛い、耳鳴りがする、肌が割れそうだ。

立てないくらいに催す吐き気に、オスカーはまたかと苦悶した。


―――癒したまえキュレイア

 洞窟の中で響く水の音のように、詠唱が優しく響いた。

 途端、呼吸が整い、視線も聴覚もゆっくりと正常になった。顔を上げると騎士が手を差し伸べている。

「大丈夫か?」

 事態が呑み込めないオスカーは困惑した。

「癒しの魔術をかけましたが、これはあまりにも強力な呪いのようです。私では解くことはできませんでした」

 魔術をかけたフィオーレはウサギのように首を傾げている。

「―――お礼を言うべきでしょうか?」

「玉座の間で魔術を使ったことを内密にして頂けるのでしたら、御礼は不要です」

 フィオーレは人差し指を自分の口元に立てた。

「下がった方がいい。立っているのもやっとではないか」

「大丈夫、です」

 震える声で深呼吸をしてオスカーは六人を見た。

呼吸を整えて身なりと姿勢を整えた。

「お騒がせいたしました」

 大丈夫、自分で言える。自分で立てる。

 オスカーは唱える。彼らのことを、王国のことを。


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