田舎-5
占い師さんは私たちを家の中へと招き入れてくれた。どうも鎌仲さんがこの調子で訪ねてくるのは初めてのことではないらしい。白の壁に黒を基調としたインテリアの対照が目に楽しかった。彼の仕事部屋は廊下の突き当りにある。
「ガキ連れてきたら甘くしてもらえる思たら大間違いやぞダボ。あとできっちりシメるからな。……まあ用件くらいは聞いたるわ。話せ」
「この子の探し物を手伝ってほしい」
「……
「できるか?」
「場合による。言っておくが、」占い師さんはそこで一旦ことばを切って私の方を見た。「俺はしょせんこの町に囚われてまうような詩人くずれで、占いも素人の趣味に過ぎへん。町の外に出てしまったものに対してはほとんど無力や。やから、あまり期待はするなよ」
私は頷いた。占い師さんはそれを目の端に、棚から紙の巻いたのを取り出して広げる。「それは?」と尋ねると「星図や。俺の仕事道具」と簡潔な返事。占い師さんはいくつか私に質問をした。私自身のこと、真くんについてのこと。でも、私から聞ける情報だけじゃ中々足りないようで、タロットや大小さまざまな豆、小刀に振り子、古びた外国語の本、そういったものを取り出して色々試してくれた。
やがて「出た。分かったぞ。そいつの居場所」
「山の方にテーマパークがある。今はもうとっくに閉鎖されとるんやけど入れはするから、そこ行け。多分そこにおる、というかそこにおらんかったら俺もお手上げや」
そう言うと彼は物掛けからハンチング帽とスカーフを取って身支度を始めた。「一緒に行ってくれるの?」と聞くと「アホか。何でお前らのために俺が危険冒さなあかんねん。途中まで案内するだけや」
「ありがとう」と笑みかけると「おう」と視線を逸らされる。優しいくせに素直じゃないひとだと思った。
部屋を出て玄関のドアノブに手を掛ける。ふと後ろから「
「こいつらを山の麓まで送ってくる。すぐ帰るから飯作って待っとけ」
彼はそれで納得したようで、そのまま家の奥へと引っ込んでいった。占い師さんとの間ではよくあることらしい。でも、誰なのだろう?
「占い師さん、あのひとは?」
「同居人の後輩。家がない言いよるからここに置いたっとる。昔はもう少し輪郭もはっきりしとったんやけどな。どうも寿命が近いらしい。俺ももうほとんど思い出せへんねんけど、生前もあいつの面倒を俺が見てやっとったのは覚えとう」
鎌仲さんが補足して言うことには――この町に流れ着いた詩人の亡霊は名前を与えられることで存在が定着するっていうのは町長が話してくれたよな? あいつに付けられた名前は「占い師の後輩」だけだった。あいつは、生前あまり詩を知られなかったから、そのぶん人の記憶から薄れちまって、存在があやふやなんだ。挙句ロクな名前も手に入れられなかったから、ああなっちまったんだろうな――。
じゃあ、■■■は? 私の弟は、あの子は――いつが寿命なのだろう? あの子は私にだって書いたものをほとんど見せなかった。私が知っているのは、真くんが手帳にしまい込んだ数編と、あとうっかり見てしまった数文字だけ。とても無事だろうとは思えなかった。
「何止まってんねん。俺の時間使こてんねから急げや。ほら、はよドア開けてくれ」
「嬢ちゃん、早く真を見つけようぜ! そしたら三人で弟さんを探して……そんで見つかったら、みんなでここでの観光を楽しんでくれよ。心配ねぇからな!」
二人の声に、沈んでいた思考から引き揚げられた気がした。私はドアを開ける。出る。閉める。鍵をかける。占い師さんに鍵を返す。
歩き出した。
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