繁華街-1
「人探し?」
私のことを助けてくれた少年は鸚鵡返しにそう言った。彼の背後で居酒屋やナイトクラブの看板が点滅を繰り返している。絢爛なネオン街の中でひとりだけ古びた学生服が浮かぶようだった。大粒の黒い瞳が私を見つめている。私は、彼が続くことばを放つのを待っていた。
「やめておけ。見つけたって、帰れなくなるぞ」
知っている。けれど、二度と帰れなくなったっていいからもう一度あの子に会いたいの。私がそう告げると、彼は額に指を添え、しばらく考えている風だった。
「分かった。案内してやるよ」
「……いいの?」
「僕にだって、善性はある。一度関わってしまった以上、お前がここに囚われてしまうのも、気分が悪いから」
彼は私に手を差しのべた。人間のというより、何かの人形と言われた方がしっくりと来るほどに、滑らかで綺麗な指だった。どこかひんやりとしていて、それがいっそう無機質に感じられる。私は「ありがとう」と言って微笑みながら、立ち上がった。
ふたり逃げ込んだ路地は、乱雑に並べられた看板の明かりで照らされていた。赤、紫、ピンク、白、黒……。居酒屋の店頭にガラス張りで飾られた水槽の中には、見慣れない名前の大きな魚が幾つも泳いでいる。
「行こう。あまり
私たちは建物の陰を縫うようにして歩き出す。羽毛の生えた緑猫がじっとこちらを見て、途端に飛び去っていった。看板の中にも偽物がいる。「
「お前が探しているのって、どんなやつなんだ」
少年は私の少し前を歩きながら、そう尋ねた。私はバッグからスマホを取り出して、彼に見せる。
「弟。背は私と同じくらいで、体型はけっこう細い方だと思う。髪は今は、男にしては長いくらいかな。名前は、■■■」
「似ているんだな」
「うん。双子みたいって、よく」
あなたは、と私は続けて切り出した。
「あなたのことは、何て呼べばいい?」
「そうだなぁ、」
彼はしばらく考えると、
「真。宮沢真って呼んでくれ」
「真、くん」
私は彼の名前を舌の上で何度か転がしてみる。なんだか、その音色が懐かしく感じられて、笑みが溢れた。
「何だよ」
「ううん。いい名前だなって」
「? 名前に良いも悪いもないだろ」
そのきょとんとした表情がおかしくて、私はまた笑ってしまう。不意に、きゅおうきゅおうと何かの鳴き声が聞こえた。振り向くと、先ほどの緑猫が物陰に立っている。真くんは、さっと険しい顔をすると、
「あいつら、ぐるだ」
街が、うねるように揺れた。
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