第4話
事件が起きたのは、その翌週だった。
慌てた様子の村長に呼ばれ、伝助が山中の墓地まで行くと、複数の墓が荒らされていた。すでに周囲には他の人たちも集められており、駐在が証拠の写真を撮っていた。この後、県警から応援が来るらしい。
どう見ても悪質ないたずらだった。供えてあった花はまき散らされている。墓石は倒れ、中には積み木のように重ねられているものもある。
じいさんの墓石は、倒れた拍子に脇の石にぶつかったのだろう――もしくは、鈍器で殴り倒されたのかもしれない――墓石の中ほどが砕けていた。墓の中、骨壺にまではいたずらが及んでいなかったのが、せめてもの救いだった。
伝助は悲しむでも憤るでもなく、静かに立っていた。こいつはこんな顔を今まで誰にも見せたことがない。こいつの中で、今、何か大きく欠落してしまったのだ。
村の中には、ここを含め、大小八つの墓地がある。警察もパトロールをしてくれるとのことだが、村長を中心に見回り隊を組むことになった。伝助も当然のように志願した。四つの班に分かれ、夜間、村内の墓地を中心に見て回るのだ。とりあえず一週間は見回りを続け、再犯があるかどうかを見極めるのだと言う。伝助の班は、翌々日の見回りを担当することになった。
しかし、その必要はなかった。翌日、村の反対側にある墓地で、同じことが起こったのである。少年五人組が、金属バットを持ち寄って、この悪ふざけでは済まない行為に及んでいた。そこで、幸と不幸が一つずつ起こった。
幸と言えば、村長を含む見回り隊が、墓を荒らしている五人を発見したことだ。顔も確認し、怒鳴り声を上げて追い払うことにも成功した。五人の乗っていた自転車のステッカーも確認することができた。隣町にある中学校のステッカーだった。
不幸は、そのさなかに村長が金属バットで殴られてしまったことだ。当たり所が悪く、頚椎にひどいダメージを受けたらしい。すぐに救急搬送され、命に別状はなかったのだが、今後リハビリを余儀なくされ、場合によっては歩くことが困難になるかもしれないとのことだった。
「情けないね、やられちまったなぁ」
と笑う村長は、笑えないほど厳重に首を固定され、ベッドに横たわっていた。伝助は村の人たちと一緒に、そのベッドを囲んでいた。こいつからは、さらに何かが欠落していた。表情はもう能面も同然で、一切の感情というものが感じられなかった。
「さっき警察の人が来てね、五人を特定できたみたいなことを言ってたよ。隣町の中でも札付きのワルだそうだ。年齢的にどこまで罪に問えるか分からないそうだが、少なくとも墓地の修繕費は請求できるようだよ」
警察は村長を元気づけるため、わざわざそんなことを教えてくれたのだろう。しかし、そんな希望はあえなく潰えた。札付きのワルは、村の常識とはさらにかけ離れた連中だったということだ。支払いの拒否、警察署への出頭拒否、児童相談所の面会拒否、このままいくとややこしいことになりそうだと警察も児童相談所も頭を抱え始めた。子も子なら親も親ということだ。伝助がいかにまともに育ったのかがよく分かる。ともかく、村はこのクソガキどもと長期戦を覚悟しなければならない状況になったのだ。
そして、伝助は道を踏み外す。
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