第7話 突然の出来事

最近は松下さんは言葉を発せない事が多いです。

そして、施設内の徘徊がさらに多くなりました。

何かを探しているようにも思えます。

それは何なのかわかりません。

少しでも松下さんの気持ちが、わかってあげられたらいいのにと思います。

わかってあげられない、私はもどかしさを感じています。


私の方といえば、沢田さんの奥様の存在を改めて思い知らされました。

沢田さんのことを忘れようと思うようにしているのですが・・・

やはり優しい声としぐさに惹かれてしまいます。

しかし、沢田さんの奥様の指輪を見て、もう忘れようと決心しました。

沢田さんにそのことを告げに行ったのです。


すると沢田さんは困惑した表情を浮かべて私に言いました。


「僕は清河さんを愛しているんだ。」

「別れないでほしい。」


私はその場で泣き崩れてしまいました。

どうすればいいのかわからないのです。


その日は沢田さんと食事に行きました。

もう、限界です。

すると、沢田さんが話しかけました。


「清河さん、実はお願いがあるんだ。」

「車の運転ミスで事故にあって・・・」

「悪いけど30万ほど貸してもらえないかな。」

「必ず返すから。」


私は沢田さんが苦しんでいるような表情を見て

お金を消費者金融から借りて渡しました。


それが、沢田さんとの繋がりが切れた瞬間でした。

それからは沢田さんは私を少しずつ避けるようになったのです。

そして、突然に冷たくなったのです。

私は悲しかったです。

私は騙されたのでしょうか?


それはある日の出来事でした。

最近、誘いもなかった沢田さんから、久しぶりに夕食に誘われたのです。

そこには残酷が待っていました。

そして、沢田さんから別れを告げられました。


「清河さん、いろいろ事情があって別れて欲しい。」


私は少し前から、そのような予感はしていました。


「お金は少しずつ返すから・・・」


それが沢田さんと仕事以外に話すのが最後でした。

私はお金のことより、沢田さんに裏切られたという気持ちでいっぱいになりました。

でも、沢田さんのことを忘れることができないのです。

沢田さんの優しい笑顔をみると、そう思うのです。


私は騙されたというのはわかっていながらも・・・

どうすればいいのですか?

私の気持ちはどこに持っていけばいいのですか?


私は仕事を辞める決心をしました。

そして、担当している松下さんと村路さん、他の入居者に挨拶にいったのです。


しかし・・・


時は移り


僕は青森行の列車に乗ってしまった。

次の駅で降りて東京に向かわないと。

そう思って次の駅で降りたのだけど、慌てて列車の切符を買おうとしたところ財布が無くなっていたんだ。

僕はどうしようもなかった。

どうすればいいんだ。

僕は一生懸命に財布を探したよ。

でも、ないんだよ。

東京行きのお金がないんだ。

呆然としていた僕に優しそうな中年の男の人が声をかけたんだよ。


「どうしたの、君?」


「財布を落としてしまって。」


「じゃあ、私の家に泊まりなさい。」


僕はお金を一銭も持っていなかったので言葉に甘える事にしたんだ。

しかし、次の日から待っていたものは仕事だった。

東京までの運賃としばらくの生活費を貯めるまでに日数を要した。

妙子さんはどうしているのかな?

数日も経っているからもう、待っているはずがないよね。

もう、お別れなのかな。


妙子は駅で数日間待っており、帰ってこない松下を心配していた。

仕方なく会社の事務の仕事を見つけて、働くこととなった。


松下は、ようやくお金が貯まり、東京に着いた時には妙子の姿はなかった。

松下は仕方なく、力作業を必要とする土木の仕事に就いたのだった。

待っていたのは辛い仕事であった。


「松下、何をぼさっとしているんだ。」


僕は毎日のように先輩に怒られながら仕事を頑張ったつもりだよ。

でも、妙子さんのことが頭から離れられないんだ。


ごめんね、妙子さん。

今、どうしているの?

どこに住んでいるの?

もう、会えないのかな?

いつか、会えるよね、それを僕は信じているよ。


妙子も松下のことを心配していた。

そして、同様に会いたくて仕方がなかったのだった。

二人は再会する日がくるのだろうか?

そして、幸せになるのであろうか?


それは突然の出来事だった。

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