第2話 戸惑い

それはある日のことでした。


「沢田さん、すみません、田代さんが転倒されて」


「ああ、すぐ、そっちに行くから。」


「ありがとうございます。」


「清河さん、車椅子を持って来て」


「はい。」


「医務室に一緒に行こう」


「はい。」


沢田さんは私にとって頼りになる方で素敵な人です。

介護の仕事は想像以上にハードな仕事で腰にコルセットを巻いています。


「清河さん、仕事が終わったら食事に行こう。」


「でも、沢田さんは結婚していらっしゃるし・・・」


私は内心とてもうれしかったのです。

でも、複雑な気持ちでした。


「勘違いしないで、明日の仕事の打ち合わせだよ。」


「今日は、田代さんの転倒の対応を助けていただいてありがとうございました。」


「いや、いいんだよ。」

「女性一人じゃ無理だからね。」

「当然のことをしたまでだよ、」


「ありがとうございます、明日の仕事の打ち合わせとは何でしょうか?」


「あれ、忘れちゃった・・・」


「ええ・・・」


「清河さんと話がしたかっただけだよ。」


「駄目じゃないですか、沢田さんは奥様もいらっしゃるのに・・・」


「恋人としてではなく、仕事仲間としてだよ。」

「だから、不倫にはならないよ。」


「そうなんですか・・・」


私はとてもうれしかったのです。


「仕事は大変じゃない?」


「はい、思ったよりハードです。」


「そうだろう、介護の仕事は大変だよ。」

「ほら、清河さんの相談事に乗っているし、仕事の打ち合わせだと思えばいいよ。」


その日は夕食を共にしただけでしたが、それがきっかけでした。



時は変わり



ある日のことだったんだけど、妙子さんが風邪をひいたのかな?

休んだことがあってね。

そうしたら、僕と同級生の野村さんという、学級でも妙子さんと同じくらい可愛い子が僕に言い寄って来たんだ。


「松下さん、今日は私と一緒に帰りませんか?」


「それは・・・」


僕ははっきり断れなくて・・・

駄目だよね・・・

どうして、僕って情けないんだろう。

それで、一緒に帰ることになったんだ。


「松下さんは妙子さんが好きなの?」


「それは・・・」


「それは・・・ということは私とも仲良くしてもいいということね。」


野村さんは積極的だった。

僕が好きなのは何回も言うけど妙子さん。

そうなんだけど、はっきり言えなかった。


「野村さんは妙子さんと親友だろう?」


「それが、どうしたのですか?」

「大丈夫よ、私が明日は妙子さんにちゃんと理由を説明するから。」

「私のことは嫌いなの?」

「妙子さんみたいに可愛くないの?」


「いや・・・そんなことはないけど・・・」


「じゃあ、一緒に帰りましょう。」


「ああ・・・」


大丈夫かな・・・

その時はそう思ったけど、やっぱり次の日は大丈夫じゃなかったんだよね・・・。


「松下さん、どうして、昨日は野村さんと一緒に帰ったの。」


「ああ・・・」


「さっき、野村さんから聞いたのよ。」

「野村さんが可愛いって言ったって。」

「本当なの?」


「言ったのよ、妙子、さっき私が説明したでしょ。」


「野村さんは松下さんのことが好きなの?」


「そうよ、私は松下さんのことが好き。」

「妙子よりも好きよ。」


「松下さんも何か言って。」


「喧嘩はよくないよ・・・」


「そういう問題じゃないでしょ。」

「私はもう松下さんのことは嫌い・・・」


「待って、妙子さん・・・」


「いいのよ、松下さん。」

「私が松下さんのことを好きだから。」

「一緒に帰りましょう。」


「今日は僕は一人で帰るから・・・」


なんて、僕は情けないのだろう。

どうすればいいと思う?

わからないんだよ。

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