第6話

 「まあ、適度に頑張れば良いんじゃないの?頑張っても頑張ってもさ、やっぱり才能と努力でやってきた人にはさ、只の凡人は努力だけでは勝てないんだよ」


 先輩は美術室の壁に飾ってある銀賞と書かれた先輩が描いた絵を見てそう呟いた。

 十分すごい。周りに言われた言葉だ。「入賞だって。おめでとう!」周りに自慢しないでくれ。そんなにすごいことじゃない。上には上がいる。わかっているんだ。地区大会でそんな成績でも県に行けば違う。

 先輩はなんだか――。


 「先輩って僕に似てますよね」

 

 先輩は大笑いをして「そうかもな」と嬉しそうに言う。この、たまに見せてくれる笑顔が好きだ。

 だけど、すぐに広角は下がって、先輩はまた絵を描き始めた。

 きっと先輩にとって僕は自分の秘密を知っている後輩でそれ以下でもそれ以上でもないのだろう。


 「よし!」


 僕は決心した。


 「先輩。僕は地区大会一位になったら、先輩に言いたいことがあります」

 「おう」


 先輩はいつもどおりの返事だ。きっと、告白されるなどと思ってもいない。断れてもまた告白すればいいのだ。まだ、二年。あと、二年あるのだから。

 先輩を惚れさせてみせる。

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