第5話

彼のことを好きではないとずっと自分に言い聞かせている。彼の優しさに甘えてはだめだ。また、ああなってしまう。また、巻き込んでしまう。何に?今度は何に巻き込んでしまうの。

 友達が居なくなってから、移動授業も一人、休み時間も一人、帰り道も一人。全部一人だった。

 だけど、急にそれは終わり、友達は泣きながら「ごめんね」と何度も呟いて私を抱きしめた。

 なんで、終わったの?

 もしかして……。

 それからは、主犯はなにかに怯えながらずっと過ごしていた。

 高校に入ってからはとても楽しい日々がずっと続いていた。


 「先輩ってもしかして、中学校で虐められていませんでしたか?」


 新入生と図書委員で同じ時間に仕事をしていた。

 言われた意味がわからなかった。同じ学校でないことは確かだ。だって、県であの北端に住んでいる人は南の端っこの寮制のこの学校に来るはずないから。


 「すみません。人違いです」


 私に似ている地味目の人が虐められていたのだろうか。


 「虐められてたのはほんと」

 「あ、すみません。思い出したくない記憶を思い出させてしまって……」

 

 なんでこんなこと言っちゃったんだろ。その数秒後私は後悔した。後の高校二年間、ずっとこの人に私が虐められていたことを知られ続けたまま過ごさなければいけないのだと。

 





 高校で先輩に会うとは思わなかった。中学でこの恋は終わったと思ったし、高校まで一緒になるとは思わなかった。

 とにかく、あの町から抜け出したかった。誰も知らないこの場所で高校生活を始めてみようと思った。

 初対面であんな言い方をするのは良くなかったと思う。下の名前は知らなかったし上の名前は清水ってことしか知らないし、清水って名前はどこにでも居るからと清水さんですかとは聞かなかった。

 僕は、先輩だって分かる方法があれしかなかったのかと後で自分を責めた。

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